記録その拾八 殺戮の連鎖その弐
こんこん、とラルーはその扉を叩く
がちゃり、と何の警戒も無く開いた扉の先にいた男の首を
一瞬にして刎ね飛ばしたラルーの手に握られているのは
小さなナイフ・・・。
ナイフで人の首を刎ねるラルーの恐ろしい力に絶句しつつも
私は袖に隠し持った両刃のナイフを手に、室内に不法侵入する。
「えーこほん!
私達は貴様らが殺そうと目論んだ死神コンビでぇーす!
でも、見ての通り貴様らの目論みは失敗・・・
私達はその報復に来たので・・・? きっかり、死んでもらいますよ?」
気の抜けた口調でラルーは明確な死刑宣告をする。
ここは死神兄妹を騙して殺害しようと目論んだ
ギャングの拠点地。
私達はその報復にやって来て、迷いなく殺戮を繰り広げていた。
銃で応戦してくる男達を優先的に切り裂き、
拠点内を駆け抜ける私はもう血まみれになっている・・・。
ナイフの良いところは軽量な為、切り裂く事に適している事。
そして悪いところは限界まで接近しなければならない事。
私はこの超接近戦を強いられ、苦戦をしている
銃で所構わず乱射する男共に対してナイフ一つとは分が悪いぞ・・・。
ラルーのように銃相手でも軽くあしらえるだけの経験量を
一切、持ち合わせていないのが問題だ・・・。
後でラルーに銃相手の戦闘のコツを聞いてみるのも良いだろう
今は目先を飛び交う銃弾の嵐を避けながら、
人を切り裂く事に専念しよう。
ここは知恵を振り絞る必要はない
必要なのは殺戮を起こす意識だけ・・・。
やがて、銃声が少なくなり
人のか細い呻き声も聞こえなくなったところで
大きな金庫を発見した。
カルムが優れた五感で生き残りの人間を探している間に
ラルーと私は金の強奪を始めた。
「えーと・・・この金庫で・・・
85290だっけ?」
「ああ、そのはずだ」
ラルーが幹部の一人を拷問して聞き出した情報を元に
金庫の液晶パネルに数字を打ち込む
特殊な金庫を使っているな・・・?
数字を打ち込み、決定入力すると
金庫は簡単に開いてしまう
情報に誤りは無かったが・・・。
ちょっと拷問されて呆気なく情報を吐くとは
あの若造・・・何故ふんぞり返った態度が出来た?
「ルクト? ここのボスを見つけた?」
「まだ」
「そう? きっとビビって何処かに隠れているんでしょうね
大丈夫、限界まで追い込んでしまえば勝手に発狂してくれるわ?」
金庫の中の金をあらかじめ用意したカバンに詰め込みながら
ラルーは無線機を通してルクトに現状を聞く
どうやらボスは逃げ隠れをしているらしい
カルムの嗅覚から、まだボスはこの建物内に潜んでいるのは
確認されているので、ルクトとカルムは出口を押さえているのだろう
それにしても、追い込まれた弱者がどう出るか分からない事を
ラルーは“発狂”すると言うのか・・・皮肉だ。
追い込まれた人間の極限状態を発狂と取るのは
ラルーならではの思考だな・・・
「ラルー? 一つ、聞いても良いか?」
「ん? なんだいチミ!」
私をからかうような奇怪な喋り口調をするラルーをスルーして
話を続けよう・・・
いちいち反応していたら面倒だ
「・・・死神兄妹を騙して殺害するメリットは何だ・・・?」
「・・・スルーかい、ま、いいのだけど・・・
私達を殺すメリットは億単位の報酬が出るからだし、
他にも名前を売れる、私達の隠れ家にある金とか武器も押収出来る。
などなど、色んな特典がもれなく付いてくるので!」
「・・・尚も殺し屋を続けるとは、酔狂な奴め」
「そういうスリルが楽しいんじゃない!
ちょっとくらい、ハイリスキーな方が殺り甲斐があるわ!」
ラルーは完全に危険なこの状況を楽しんでいた。
むしろ、何も無いと退屈で
自分から危険な方に飛び込むだろう・・・。
物好きで、なんと酔狂な奴か・・・
平和を嫌っているのか?
何も無い日常を幸せだと感じられないのか?
なんて、薄情な奴なのだ・・・。
その日常は、昨日に死んだ人間が死ぬほど得たかったはずの
日常なのだぞ・・・? その重い価値を知れ
「さて、と・・・
これくらいで金は十分ね」
「ボスはどうする?」
「んー? そんなの、最初の発見者が始末するのよ
さぁ! 私もイヲナもボスを探しましょう!」
「・・・つまりは私が殺せと・・・」
「随分と遠まわしに言ったのに良く分かったわね・・・」
意地でも私にボスを殺させたい下心は丸見えだぞ・・・。
言葉は遠まわしでも、目がそう言っていた。
金を詰め込んだカバンを手に
ラルーはスっと立ち上がり、そのまま一緒にボスの捜索を開始。
地道な作業が始まる・・・。
血まみれで、そこらじゅうに切り裂かれた死体と生首が転がっている
奇々怪々な光景のどこかに隠れているボスを見つけるとは・・・
妙な話もあったものだ
「イヲナぁ~? ボス見つけたらーどうする~?」
「なんじゃ、ただ殺すだけでは無かったのか・・・」
「気が変わったのよ! ね、ね!
ちょっと派手に、ぱあっとやらない!?」
「何をじゃ・・・」
ラルーは黙って私の後を追う形で着いてきていたが
あっという間に飽きてしまったらしく
発見出来たらボスに何かをする気になったようだ。
まぁ、ラルーのやる事など拷問くらいしか無いだろう
実に恐ろしい事だ・・・。
「えぇ~例えば・・・
歯を引き抜いたり、舌をナイフで輪切りにしたり・・・
あ、舌は焼いても良いかも!目玉も串刺しにして、えぐったり・・・!
ふふふ・・・!」
「・・・・・・・・・私は何も聞いていないぞ・・・」
「え!? 聞いたじゃん、ていうか! もっと聞いてよ!」
「嫌じゃ・・・本当に止めてくれ」
ラルーが何故か具体的に拷問の内容を語りだす。
本当にエグい内容で寒気が止まらない・・・。
想像もしてみよ・・・
満面の笑みでラルーが様々な器具を駆使して
目玉をくり抜かれ、舌を焼かれ、歯を強引に引き抜かれる痛み・・・
だから、何をしてでもラルーの拷問だけは避けねばならない
例え全てを失う事になってでもラルーの拷問だけは回避せねば・・・!
「・・・隠れられるとは思うなよ・・・?
私の手で苦しみ抜いて死ぬか、
イヲナの慣れない手で殺されるか、
どっちが良いのかしら・・・?」
「・・・!?」
だが、唐突にラルーは紅い瞳を輝かせ
血まみれの室内の片隅を見据える。
そこは首を無くした死体が積み上げられた小さな山。
まさか・・・死体の山にボスが隠れていると言うのか・・・!?
私は咄嗟にナイフを手に取り、山の方を警戒して見る。
「ふふっ なぁ~んちゃって!
そうすぐにはボス、見つからないよぉ~?」
「・・・からかうのも大概にしろ」
ラルーの脅威的な直感を信じたが、
それはラルーのジョークだったらしい
ぬしはこういう事を繰り返して本当に危険な場面で
信用を無くして、仲間を危機に陥れたいのか・・・
この馬鹿者はどうにかならんのだろうか?
「う、うわあああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「!?」
だが、不意に叫び声と共にナイフを手にした男が
私が警戒をした死体の山とは反対側の方にある死体の山から飛び出すと
私に突進して来た。
それに驚いたが、私は半狂乱の男の腕を掴み
背負投げをして地面に転がったソイツに乗りかかり、
喉元にナイフをかけた
「・・・おい、ラルー」
「くふふふふ・・・!
さあ、殺っちゃえば・・・?」
ラルーはこの部屋に、この男・・・ボスが潜んでいる事が
分かっていて、わざと限界まで追い詰めるような発言をしたのだ。
意図的に“発狂”させるとは・・・。
否、彼女は追い詰められる恐怖を誰よりも知っているからこそ
自分の恐怖体験を元に、他人を追い詰められるだけ追い詰めた。
ただ、それだけに過ぎないのだろう・・・。
ラルーの策略に呆気なく翻弄されたこの男が滑稽に思う
「すまないが・・・死んでもらう」
男は何か、命乞いをしたようだったが
その言葉も私の耳に届く前に私がナイフを横に滑らせた事で
潰えた。
生も死も、なんと儚い事だろうか
呆気ない最後だ。
思えば・・・私は今、殺した男の名前さえ知らない。
私はこの男の何も知らないで、殺したのだ。
「イヲナ~? カルムとルクトのところに戻りましょう?
感傷に浸っていないでさ?」
「・・・感傷になど、浸っていない」
「そう? ならいいわ! じゃ、次の仕事の準備を始めましょう!」
血まみれのナイフを仕舞い
私はラルーに言われるがまま、次の仕事へと向かう。
まずはこの血まみれの格好をどうにかさせてくれ
・・・・
先ほどの事務所前に奪って利用したミニバンを乗り捨て
私はラルーに血まみれなこの格好をどうにかしてくれ、と
頼み込むと意外にも快諾。
ラルーは力を使って服に付着した血液を全て取り除いてくれた。
ついでに自身を含めカルムとルクトの格好も綺麗にする。
さすがに血みどろなままではマズイとラルーは思ったのだろう
・・・それくらいの常識があって良かった。
「じゃあ、次は“囮スナイパー作戦”と行こうか!」
「ぬしのその奇妙なネーミングセンスはどうにかならんモノか」
「僕はラルーのネーミングセンス 好きだよ」
「ぬしは何を唐突に言うておるのだ、ルクト・・・」
今はあるビルの屋上にて、小休憩。
ラルーに次の仕事内容を聞いているところだ。
面白い事にもラルーは作戦を考える度に何かしら名前を付けたがる。
先ほどのボスを追い詰める作戦は
なんでも“願わくばボスを発狂させたい!作戦”というらしい。
・・・悪意に満ちたネーミングだ。
そのネーミングを好きだと言うルクトの感覚も疑うべきだ。
しかも、表情が読めない出で立ちで拳を握って親指を立て
“グッド”とラルーを褒めた。
一体、何なのだ・・・。
「えぇーと・・・ラルー・・・
その“囮スナイパー作戦”?ってのは、どういう作戦なんだ?」
「カルム! よくぞ聞いてくれたわ!
聞いて驚くが良い! 囮スナイパーとは・・・
まんま! スナイパーのイヲナが囮になる作戦よ!」
「はああぁぁぁ!?! イヲナが!?」
カルムがラルーから作戦内容を聞いて驚く
なんとなく、そんな気はしていたが・・・やはり私が囮か
今回の仕事内容は・・・
車で移動をするターゲットを殺す事。
しかし、そのターゲットは自身が狙われている事を知っている為
車のガラスは防弾ガラスに変え、
更に複数人のSPと自分を守る殺し屋を雇っている。
その殺し屋がどこにいるのかは不明。
ただ、飛び道具を使う事だけは分かっている。
そこでラルーはその状況を逆手に取る作戦を考え出した。
それこそが“囮スナイパー作戦”である。
「カルム、とりあえずイヲナのそばで待機ね?
飛び道具使いの殺し屋が現れたら、始末ヨロシク」
「殺し屋の相手を初心者に任せるのか・・・?」
「え? それで、大怪我を負ってくれた方が
看病出来て、わたし的には都合が良いのだけれど・・・」
「絶対に大怪我だけは負いません」
カルムは自身の役について反論すると
ラルーがさりげなく鬼畜発言。
おい・・・ラルーはカルムの看病の際に何をする気だ・・・?
ラルーの恐ろしい企みを知ったカルムは
意地でも大怪我を負わない決意を新たにした。
・・・どんな大怪我を負っても一時間以内には完治する吸血鬼なのだが・・・
「お兄ちゃん、私の手伝いをして頂戴」
「了解、車って事は・・・剥がせば良いんだろ?」
「そうそう! お兄ちゃんは剥がすのが上手だから
こういう時はすっごく助かる!」
・・・何を剥がすのだろう
死神兄妹はやたら楽しそうにハイタッチをするが、
何を剥がすのかが分からなさ過ぎて恐ろしい・・・。
どうしてこの双子はこんなにも病んでしまった・・・!?
研究の被検体の精神ケアを改めて見直す必要があるかも知れない。
いや・・・これはもう、完全に研究のせいで双子は病んでしまっただろう
これ以上精神ケアを怠ったせいで、精神を病む被検体を量産するわけには…
「さぁ、“囮スナイパー作戦”決行!」
「おい・・・私にも何かを言わんのか」
「・・・シルバーの車で、黒いガラスが特徴・・・
ナンバーは68‐09」
「ありがとう、後部座席のガラスを撃てば良いのだな」
「ええ、じゃ、今度こそ決行!」
ラルーは無理やりカルムとルクトと私の手を掴み
円陣を組ませるとテンション高く宣言する。
ラルーのテンションの高さに乗っかる者はおらず
それでも落ち込まないラルーの打たれ強さを改めて実感した。
思えば、ラルーのようなテンションの高い娘がいなければ
吸血鬼のカルムと殺戮狂なルクトの二人は仲良しにさえなれなかった。
この組み合わせだと必ず仲間割れを起こす。
ただの仲が悪すぎる根暗い男の寄せ集めでしかない。
女が一人いるだけで華が出来る上、
モチベーションも変化するというが、それは事実だと思い知った。
とにかく、分かりづらいがラルーは人をまとめあげるのが上手だ。
そうして、ラルーとルクトはビルから飛び降り、
どこかに行ってしまった。
二人は一体、何を剥がして、どうターゲットを始末するのだろうか?
今回はそれが少し楽しみだ。
ギターケースから狙撃銃を取り出し、
標準を走行車が行き交う道路に合わせる。
ここは高層ビルが立ち並ぶ町の大通り
だが、時間は昼でも人通りは非常に少ない。
私が囮のスナイパーで、本命のスナイパーはラルー
よって私は極力、スナイパーとしては目立つ必要があるが
どう目立つべきか・・・。
「カルム、飛び道具が飛んで来たら
どこから放たれたか特定出来るか?」
「・・・吸血鬼はそもそも、耳が良いんだぞ・・・?
飛び道具が空を切る音を聞き取って、どこから放たれたか
簡単に特定出来る」
「ふむ・・・ラルーも前に同じような事を言っていたような・・・」
「・・・そういえば・・・って、え? 待って、ラルーが?」
「ああ、何を驚いている?
あやつは自分が吸血鬼だと名乗っていたぞ?」
助言を貰おうと、カルムに意見を聞いて見たが
彼は人ではなく吸血鬼なので、その感覚自体
常人とは異なる・・・。
よって有効な助言は得られず
しかし、吸血鬼としてカルムの意見を聴き
ラルーが以前に言っていた不可解な言葉を思い出した。
彼女は自身の事を吸血鬼だと名乗った。
それを証明するかの如く、実験では組み込んでいないはずの
驚異的な能力を発揮してみせた。
けれど、彼女が吸血鬼であるという事実はまだ半信半疑の域である。
確かに、研究所にいた頃の彼女は正真正銘、ただのアルビノの少女であった。
そんな少女が、研究所から脱走した後に吸血鬼になったというのなら
それは“有り得ない”事なのだ。
何故なら、
“もうこの世には人を吸血鬼に変える力を持つ者は存在しない”からだ
今、この世に存在する吸血鬼の牙には不思議なことにも
人を吸血鬼に変える力は無かった。
そもそも、吸血鬼が現在 絶滅寸前にまで追いやられたワケは
人を吸血鬼に変える力を持った吸血鬼がいなくなってしまったからだ。
そして、その吸血鬼がいなくなったワケは・・・。
悪魔と吸血鬼の戦争のせいだ。
その昔、最初の吸血鬼が自身を吸血鬼に変えた悪魔と敵対し
悪魔と吸血鬼が戦争を始めたのだ。
結果、吸血鬼が勝利を収めた・・・
が、戦争を起こした最初の吸血鬼を含め、
人を吸血鬼に変える力を持つ吸血鬼は全て悪魔によって殺されてしまった。
その為、戦争の詳しい事情は闇の中・・・。
戦争に勝利しても、結果的には
吸血鬼達は負けたようなモノだった・・・。
だから彼女が吸血鬼であるはずは無いのだ。
「確かに、彼女が吸血鬼だと言う事は疑わしい
冗談で吸血鬼を名乗った可能性も否めないからの・・・」
「・・・俺、イヲナが倒れている間にラルーの血を吸ったんだけど」
「・・・約束通りに血を吸ったか・・・」
「ああ・・・でも・・・その話が本当なら
俺は吸血鬼を名乗る娘の血を吸ったって事になるんだよな・・・?」
「気にするな、あやつの言う事は信じる必要は無いし
まさか本当に自分から吸血鬼に血を捧げる奴だったのは
むしろ、喜ぶべきではないのか? カルム」
きっかり、ラルーは約束を守っていたらしい
カルムはラルーが吸血鬼を自称していた事を知らず
彼女の血を啜った事実に複雑な心情をあらわにした。
吸血鬼が自称吸血鬼の血を啜るとは、面白い状況が出来たモノだ。
・・・それにしても、私が倒れている間に色々在った事が判明して、
少し心配になってきた、私が倒れている間にラルーは何をした?
彼女は吸血鬼が嫌いじゃなかったのか? それとも好きなのか?
「お二人さぁーん! 無線機の存在、忘れてませんか!?
本人が聞いている中、堂々とヒドイ事言うの・・・止めてくれません?
一応、それ相応の覚悟はあるんですよね?」
「・・・私は何かヒドイ事を言ったか?」
「・・・!?
自覚が・・・無い、ですって・・・!?」
ラルーが無線機を通じて文句を漏らした。
私は適当にとぼけると彼女は呆気なく、騙された。
・・・恐らく、わざと騙されたフリをしたのだろうが
「二人は今、どこにいるのだ?」
「今、私達は別行動を取っているの
私は向かいのビル屋上、お兄ちゃんは多分・・・
駐車場にいるんじゃないかな?」
「何故、ルクト本人が答えないのだ・・・」
「取り込み中だから・・・察しなさい?」
死神兄妹が何をどうするのか、説明されていなかった為
二人の現状を聞いてみたが、場所しか答えてくれない・・・。
ラルーがいる場所はともかく
何故、ルクトは駐車場にいるのだ・・・?
何かを剥がす事に関連しているのか・・・?
・・・この死神兄妹の考える事は分からない・・・。
「そうそう、カルム?
自称吸血鬼の私の血は美味だった?」
「なんで急に自虐ネタに走るんだよ・・・
内心、怒っているのか・・・? 謝るよ・・・」
「謝らないで? ただ、私が吸血鬼を名乗っていると知った途端に
カルムの態度が変わったから苛めたくなっただけ!」
「やっぱり怒っているだろ!?」
ラルーは話を逸らす為なのか、カルムの言う通り怒っているからなのか
自分の血の味についてカルムに感想を求めた。
・・・ラルーの血なら、普通とは違う事があってもおかしくはない。
しかしカルムは感想については何も語らない。
その反応から察するに、普通とは違う血液だったのだな
・・・どうにか、ラルーの血液を収集出来ないだろうか・・・?
調べてみたい。
「イヲナぁ~? 何を沈黙しているの・・・死んでいるの?」
「少し黙ったくらいで何故、私は亡き者にされたのだ?」
「あぁぁぁ!? イヲナが生きていたぁ・・・!?」
「なんじゃ、その驚きようは・・・
黙り込んだ数秒の間に私は殺されたのか?」
「私ならいつでも可能よ!」
「恐ろしい事をさらりと言い放つな・・・」
無線機の奥から聞こえてくるいつもの明るい音声で
ラルーは相変わらずの調子で私をからかう。
私をからかうのが、そんなに楽しいか?
不可解な事にも、今のやり取りがカルムにはハマったらしく
私の横で腹を抱えて笑いを堪えている。
そんなに可笑しなやり取りだったか?
これが奴の通常運転だぞ・・・?
ため息をついて、私は呆れ果てた。
もう・・・ここにはマトモな奴はおらんのか
「あ、お兄ちゃんの準備が完了したみたい
イヲナ、囮スナイパーとして目立ってね?」
「・・・ターゲットはいつ現れるか分からないのか?」
「ん~? あぁ・・・あと40秒くらいで・・・」
「!?」
何故、それを先に言わなかった!?
と叫びたい気持ちを押さえ、私は慌てて狙撃銃を構え直し
車が行き交う道路をスコープから覗き込んだ。
引き金に改めて指を掛け、来たるターゲットの車を待ち構えた。
ラルーの言葉を聞いたカルムも緊張した面持ちで
ギターケースを背負い、いつでも応撃可能な姿勢を保つ。
こういう時にはラルーの唐突さが非常に面倒だ。
道路を行き交う車を目で追い、
ターゲットの車が現れるのを待った。
シルバーの車、ナンバーは68‐09・・・。
早く来い・・・
人通りは少ないが車の交通量が多く、
赤、青、黒、黄、シルバー、様々な色の車が通る。
特にシルバーの車が多い為、ややこしい・・・。
ナンバーが頼りだ。
68‐09・・・
・・・68‐09
早く来い、早く来い
「・・・イヲナ、あと20秒・・・
先に行っているわ」
無線機からラルーが残り時間を伝える。
あと20秒か・・・。
“先に行っている”
という言葉の真意は今の私に分かるはずも無い
カルムは大剣をギターケースから取り出して
ゴクリと、緊張から生唾を飲んだ。
緊張しているのは私も同じ事・・・手に汗が滲んできた。
後、10秒・・・。
9 ・ ・ ・ 8 ・ ・ ・ 7 ・ ・ ・
6 ・ ・ ・ 5 ・ ・ ・ 4 ・ ・ ・
・・・3・・・
・・・2・・・
・・・・・・1・・・
そして、カウントダウン終了と同時に
道路に黒いガラスのシルバーの車が通る。
ナンバーは68‐09・・・ターゲットの車だ。
それを確認して、私は車の後部座席のガラスに向け引き金を引いた。
僅かなタイムラグの後、黒いガラスに弾丸が当たる
そのガラスは防弾ガラスなので、弾丸はガラスを貫通しなかったが
ガラスにヒビが入った。
更に追い討ちのように・・・否、目立つために2発目の弾丸を撃ち込む。
よし、これで十分だろう・・・。
あとはラルー達に任せるだけだ
「イヲナッ・・・!!」
「・・・!?」
カルムが突然、狙撃銃で撃つ為に
うつ伏せで倒れている私の肩を掴むと、強引に身体を起こされる。
すると、先ほどまで私の頭があった所に
長い矢が突き刺さる。
・・・飛び道具使いの殺し屋だ。
カルムがいなかったら、私の頭は矢に貫かれていたところだった。
「カルム! 殺し屋を追え!」
「分かっている・・・!」
ラルーから借りたナイフを取り出し、
カルムに殺し屋の始末を急かした。
早めに始末・・・いや、標的として注意を集めていなければ
本命のスナイパーであるラルーの殺しに支障をきたす。
私に急かされ、カルムは大剣を握り締め
飛び道具使いがいると思われる隣のビルの屋上に向かって
脅威の脚力を活かし、空高くジャンプをする。
・・・吸血鬼は本当に・・・凄いな・・・
私が今いるビルは比較的に小さなビルだ。
それに比べれば、隣のビルは必然的にこちらより高くなる
寝転んだ私の頭を狙った矢は上から垂直に近い向きで突き刺さったので、
隣のビルから狙われたと推測するのは当然
私もスナイパーを狙うのなら、上から襲うだろう
カルムが隣のビルに無事、飛び移ったのを確認して
私はターゲットの車を改めて見直した。
さぁ、ラルーとルクトはこのターゲットをどう始末する?
最後まで私は見守るだけだ。
「ルクトお兄ちゃん! お願い!」
「・・・卵の殻を剥がすように・・・
綺麗に剥がしてやる・・・!」
ラルーがルクトに何かを剥がす命令を下すと
走行するターゲットの車に向かって真っ向から逆走するバイクが
姿を現した・・・ルクトが運転するバイクだ。
ルクトが駐車場にいたのは、バイクを盗んでいたからだったのだ。
バイクに乗ったルクトは片手を振り上げると
拳の上であの紅い線が不気味に電流のように走る黒い障壁が
2メートルほどの鋭利な円盤型を形造る・・・。
ルクトはその円盤状の障壁をチャクラムのように前方の車に向け
―――投げた。
円盤状の障壁は真っ直ぐ空を切り裂きながら飛び
そのまま、車の屋根を削ぎ落とすように円盤状の障壁は車を横切った。
すると綺麗に車の屋根部分は無くなり、上から見ると車内が丸見えになる
彼方の方へと飛んでいった障壁は消失したが、
車の屋根部分だった鉄くずが、道路のド真ん中に落下する。
剥がす、とは車の屋根を削げ落とすという事だったらしい
なんて凄まじい事か・・・!
「お兄ちゃんはね・・・?
頭の中で思い描いた形や物を具現化する能力を持っているのよ・・・
でね? 面白い事にも・・・感情さえ具現化する事が出来るんだぁ~?
感情を元に具現化した物は非物質なのに、元となった感情によって
標的を守る強固な盾のように衝撃を遮ったり、標的を壊す事が出来たのさ・・・
だから、殺しにも色々と応用して使っているの 凄い能力でしょ?」
「・・・感情を・・・具現化する能力・・・
当初の“第2の作品”が振るった力がおどろおどろしいモノだったのは
実際に怨みを具現化したから・・・だったというのか」
「まぁね
あの当時はお兄ちゃんも私も相当、苛立っていたから・・・」
ラルーがルクトの能力について解説をする。
やたら、長いセリフだな・・・理屈屋め
だが、思い描いたモノを自在に具現化する能力とは・・・。
まさかルクトの能力の正体が、具現化能力だったなど
誰も気付いていなかった。
これは大発見だ。
感情すら具現化するルクトは今まで、何の感情を具現化して
凶器としてきたのだろうか・・・?
「さぁ・・・決着を着けるとしますか・・・!」
そしてラルーは本命として今度こそターゲットを始末する。
向かいのビルから彼女は狙撃して・・・む?
向かいのビルにいるだろうラルーの姿を見るため
狙撃銃のスコープから向こうのビルを覗くが、そこにラルーの姿は無い。
・・・ラルーは・・・どこだ?
向かいのビルにいるのではなかったのか・・・!?
私は慌てて狙撃銃のスコープから目を離し、
ラルーの姿を探し、辺りを見回した。
・・・どんなに探そうとも見当たらない・・・
本当に、どこにいるのだ?
次第に焦り始める私は不意に、空を仰いだ。
だが、その偶然が私にラルーを見つけさせたのであった・・・。
ラルーは遥か上空から・・・落ちてきているのだ。
・・・え? つまり、どういう事じゃ・・・?
私の思考がどんどん鈍くなっていく
驚きのあまり、状況の変化について行けなくなってしまう。
鈍くなった思考は数秒のタイムラグを得て
やっと、何が起きたのかを理解する。
要は、自称吸血鬼のラルーは先ほどのカルムと同じ事をしたのだ。
脚力だけで、空高くジャンプ。
しかし、ラルーはカルムのジャンプと比較にならないほど
圧倒的に空高く・・・上空まで飛んだのだ。
向かいのビルから、彼女は何百、何千メートルも高く飛んで
今まさにスカイダイビングをしている。
・・・何故だ?
そんなの、一つしかない
ターゲットを殺すためだ。
現に空からダイブしている彼女は身長ほどある大きな狙撃銃を
落下しながらも、構えて
屋根を剥がされ丸見えとなった車内にいるターゲットに標準を合わせている。
ターゲットが乗る車の屋根をわざわざ剥がしたのは
上空から狙撃する為だったのだ。
ビルから狙うよりも、車の上空から狙った方が狙い易いから・・・。
都合の良い事にも、屋根を剥がされパニックに陥った
ターゲットが乗る車は止まり、運転手とSPが何人か逃げているため
尚さら狙いやすくなっている
「さぁ・・・!!
お前の愚かな首を、私に捧げなさい・・・!!
狂える生命の終焉だ・・・!!」
ラルーが上空から、叫んだ。
無線機を付けていなくてもハッキリ聞こえた。
その声が聞こえたのか、わなわなと
自分の盾を失って恐怖に震えていたターゲットが
顔を空に向けて仰いだ。
発砲音が響き渡り
垂直に弾丸が地上のターゲットの生命を狙い・・・
―――奪った。
弾丸は喉首を貫いて 血しぶきが上がり、
ゴトンと、ターゲットの首だけが胴体から滑り落ちるように
転がった。
ラルーはたった一発の弾丸で人の首を刎ねて見せたのだ。
彼女のおぞましいほどの狂気と、執念を肌に感じる・・・。
ターゲットを始末して、用済みとなった狙撃銃の先にナイフを付けて
落下しながら垂直に狙撃銃を投げ落としたラルーは
既に地上まであと十数メートルほど
そこでバイクを爆走させ、ルクトが具現化能力で
なだらかなジャンプ台を作ると
バイクでその踏み台を走り・・・
―――飛んだ。
落下しているラルーをルクトが抱きとめ
片手でラルーを抱きかかえ、もう片手でバイクのハンドルを手にしている。
その状態で、バイクは地上に叩きつけられるように、着陸した。
そしてナイフを取り付けられた狙撃銃が、ターゲットが乗っていた車の
エンジン部分に突き刺さると
シルバーの車が・・・
―――大爆発した。
轟々と血にまみれた車は紅色の炎に包まれ
焼き尽くされる。
炎と黒煙が辺りを紅と黒に染め上げる中、
二人の殺し屋は炎上する車を背後に盗んだバイクの上で
いつものように抱き締め合う。
なんてことだ・・・破天荒過ぎる方法で死神兄妹は完全勝利を収めたぞ
・・・死神兄妹は一体、どうなっているんだ・・・!?
どう考えても、あの双子は頭のネジが吹っ飛んでいる・・・!
正気の沙汰ではないし、狂っているのは当然だ
それでも、完璧なまでにあんな現実離れした事を成功させるなど・・・
凄まじいだけではない、賞賛を送っても良い、素晴らしいと認めよう
あの死神兄妹は、生まれながらにして狂気を孕んだ殺し屋だったのだ。
最低最悪にして・・・あの二人は・・・最高最強なのだ。
ラルーとルクトは殺し屋として、必ずや名を残す強さを持っている
絶対にこの裏の世界で想像も出来ない事件を起こすと
私は今回の殺しを見て直感した・・・。
「ラルー・・・ルクト・・・」
「ひゅー! 楽しかった! こういうのが好きだわ!」
「ああ、こういうのが理想の殺しだ」
「・・・」
殺し屋としての二人を認めるが、
人間としてのあの二人は失格だ。
スリル狂な娘と、狂った理想を追い求める青年
この二人の組み合わせは・・・最悪だぞ・・・。
好き勝手放題に暴れるのは良い・・・。
それは二人の自由だ、ああ、そこは認めよう。
だがのう・・・それに人を巻き込むでないぞ・・・!
あろうことにも、何故、私やカルムが巻き込まれてしまった・・・!
何ゆえに至って普通の私やカルムが危険に晒されるのか・・・!
二人が凄い事は認めるが、他人の限界も知って遠慮をしてほしい・・・。
「イヲナ・・・! 頼む助けてくれ・・・!
この殺し屋強いぞ・・・!」
「・・・すまん、死神兄妹の強大無比の殺しに圧倒されて
ぬしの事をすっかり忘れてしまっていた」
「・・・え? 待って、俺がじわじわ追い詰められている間に
死神兄妹は何していたんだよ・・・!?」
「今、助けに行くから大怪我を負うな・・・
ラルーに看病されぬように・・・!」
「残念だが、今んとこ怪我一つしていないんだよ・・・!!」
無線機を通じて、カルムが助けを求めてきた。
すっかり忘れていた。
詫びを本格的に検討しよう。
カルムの言葉を聞き、私は少し落ち着いて冷静になれた。
派手なアクション映画のような殺しを見て
私は少々、興奮してしまっていたようだ。
「・・・しっかと聞いたであろう?
今から私はカルムを助けに行くから
死神兄妹よ、後始末をしてもらおうか」
「あ、うん
分かったわ・・・」
派手に車を爆発なんぞさせたのだから
表に事件として発覚してしまっただろう
だから警察の方に根回しをしておかねば
裏の世界で大事件を起こす前に
逮捕されるという滑稽な最後で終わってしまう
根回しをするのはもちろん、掃除屋にも早い処理をしてもらわねばならないし
依頼人に差し出すはずの首を車と一緒に焼いてしまったから
殺害を証明する事にも手間を掛けるはずだ・・・全く・・・。
カッコつけて車を爆発させた結果が、このザマである。
確かに成功させた事は凄いが、
冷静に考えてみれば、無駄にデメリットを作ってしまっただけだから
情けないモノだ。
「・・・死神兄妹めが」
「・・・イヲナぁ・・・言っておくけど・・・
無意味にカッコつける為に、あんな派手な殺し方をしたわけじゃないのよ?
依頼主がそうしてくれ、って・・・」
「何・・・!? じゃあ、その依頼主は阿呆じゃ!!」
「・・・次の緊急の依頼主だよ」
「この世は阿呆が型作っているとでも言うのか!?」
「イヲナがイライラモードに突入しましたぁ・・・」
ラルーが気の抜けた調子で言い訳をする。
依頼主の要望に答えただけだと・・・。
何故、あんな派手な殺し方をしなければならないのだ・・・。
さっぱり、その思考が理解出来ん
次の緊急の依頼主だと言うが、
緊急、という事は直接 事情を説明してもらえるのだろう・・・。
よし、その時に色々問い詰めてやろう・・・
私は無駄に苛立ちながら
隣のビルのガラス窓を破って飛び込む。
そこは会議室だった。
カルムが今、いる階はどの階だ?
「ぐっ・・・!!」
否、運が良い。
私が飛び込んだ階でカルムと飛び道具使いの殺し屋は戦っていた。
状況を見るに・・・。
大剣を振るうカルムが有利で
飛び道具使いの方が不利に追いやられているようだ。
既に飛び道具の殺し屋は左腕を負傷していた。
なんじゃ、助けを求めるほど追い込まれているようには見えないぞ
「イヲナ・・・! 油断するな! 二人だ!」
「!?」
カルムは大剣で負傷した殺し屋を切り詰めながら、
私にもう一人の殺し屋の存在を知らせた。
と、同時に矢が部屋の片隅の方から放たれる。
私は咄嗟に身を逸らして矢を避けた。
矢・・・という事は先ほど、私の命を狙った奴か・・・
両刃のナイフを構え、私はもう一人の殺し屋との距離を詰める。
懐まで接近したところでナイフを振り上げた。
しかし、相手は殺し屋・・・。
そう簡単に倒せるはずも無かった。
相手は2本の矢をそれぞれ両手で持ち、
1本は私のナイフを受け止め、もう1本で私の脇腹を刺そうと
振りかざす、私はそれを阻止する為にその殺し屋の腹を蹴り
後ろに2歩3歩引いて、間合いを取る。
さて・・・どうしたものか
敵は遠距離武器専門の殺し屋。
近距離戦には慣れていないだろうが、
戦闘そのモノには慣れている、
例え近距離戦には慣れていなくてもどうにか経験で勝ってしまう。
それに対し私は戦闘そのモノは初心者。
力があるとしても、出来れば使いたくはないので
このナイフ一つで殺し屋を倒さなくてはならない・・・。
・・・アンフェアだ。
ただ切りつけるだけでは無意味だと判断した私は
会議室にある机を殺し屋に向けて蹴り飛ばして
注意を逸した隙を切りつけた。
が、それは読まれていたようで
机を叩きつけられても軽々と殺し屋はそれを蹴り返して
私の脇を通り過ぎて奴は走って距離を取る。
・・・しまった、相手は遠距離武器専門。
近距離戦を続けるより、慣れている手段に走った方が早い。
今、私が手にしているナイフだけが私が持っている武器で
近距離戦しか出来ないため、遠距離からの攻撃には不利だ。
これ以上、距離を取られてはマズイ
私は走る殺し屋を追いかけた。
無防備な背中を晒して無我夢中で走る殺し屋に
あっという間に追いつき、私はその背中を切りつけた。
今度はちゃんと切り裂けた。
切りつけられ、痛みから反射的に殺し屋は振り向き
隠し持っていた携帯銃を私に向ける。
だが、それを読めた私は敵の携帯銃を持つ右手の甲を切りつける。
切りつけられた手の甲を押さえ、奴は捨て身で突進をして来た。
それに抵抗する術なく、私は机に叩きつけられる。
そして矢を私の喉元に突き付け喉を突き刺される寸前で
「がぁッッッ・・・!!」
かすれた断末魔の叫びが響き渡る。
負傷した殺し屋の声だ。
・・・カルムは勝利したのだ。
それに気を取られた殺し屋の隙を盗み
私はナイフを男の心臓に突き立てた。
・・・私もなんとか勝てた・・・。
先ほどの死神兄妹の、華麗で派手な翻弄をするような殺しと比べると
遥かに地味な殺しだ・・・天と地の差がある。
あれほどの事をするには、まだ力量も経験も足りない・・・。
けれども・・・殺し屋に勝ったのだ。
「やったじゃないか・・・」
「ああ・・・ぬしもそうだな」
「っははは・・・はぁ・・・!
死神兄妹は一体、どんな殺しをした?」
「・・・ルクトがターゲットの車の屋根を剥がして、
ラルーが空から落ちながらターゲットを狙撃し
その落下するラルーをバイクでルクトが回収・・・
次の瞬間には車を意図的に爆発させた・・・」
「うわ・・・殺しの天才かよ・・・
死神兄妹はそんなアクロバティックに華麗な殺しをするのに
俺たちと来たら・・・」
「別に良いではないか・・・
あの双子が異常に優れているだけだぞ?
私達は普通にやっていれば良い」
「それも・・・そうだな」
私もカルムも疲れ果てた。
私は机の上に倒れて、カルムは床に座り込んで
自虐気味に自分たちの殺しと死神兄妹の殺しを比較した。
確かに、私たちの殺しは地味だ。
あの狂った天才の双子と比べてしまうと・・・
「まだ、殺戮の嵐は終わらんぞ・・・
むしろ、ここからが正念場のようじゃ・・・
頑張ろう同僚」
「ああ、だな・・・
頑張るしかないな・・・」
私は起き上がり、カルムを励まし
腹を決める。
同じ頃、同じ場所で殺し屋として協力し合った仲なので
本来は上司と部下の関係だが、あえて同僚と呼ばせてもらった。
「・・・いい話っぽくなってるトコ
申し訳ないんだが・・・次の仕事行くぞテメェら」
「ああ、了解した
こっちで二人、殺し屋を倒したが・・・」
「大丈夫、そっちの方にも掃除屋を送っておいたから」
「そうか・・・では、急いで合流しよう」
ルクトが無気力に呼びかけ、
ラルーは珍しくしっかり準備を済ませていた。
いつも、無意味に私たちを困らせるような事をするのに
こういう時はしっかりしているのだな・・・。
・・・次の緊急の依頼・・・。
だいぶ困難を伴いそうな依頼だ。
何故か、嫌な予感がする
殺し屋一人を相手にひどく苦戦してしまっていたからこそ、
尚さら不安だ・・・。
・・・ならば、あやつに頼るしかない・・・。
「ラルー」
「ん? 何かしら? イヲナ」
「ほんの少しでいい、私に殺しのコツを教えて欲しい」
「え・・・? 殺しをレクチャーして欲しいの?
別にいいけど・・・」
「ありがとう、感謝する」
「・・・!!」
私は、殺しの天才に教えを乞うたのだった。