記録その拾伍 石像の部屋にて
「イヲナぁ・・・♪
全く・・・可愛いんだからぁ、もうっ・・・♪」
「・・・!?
な、何の事だ・・・?」
恍惚とした微笑を浮かべたラルーは
私を壁に追いやり、わざわざ私のすぐ横の壁に手を置き
いわゆる“壁ドン”の体勢になって囁いた。
女に壁までに追い詰められている自分が情けない・・・。
死神兄妹が住まう
湖に浮かぶ孤島の屋敷を訪れたのだが・・・。
ワケのわからん門番が通行料を請求して襲い掛かってくるわ
湖を渡るのにひと手間掛かるわ・・・。
それでようやく屋敷に辿り着いたと思いきや
急にヤンデレ化したラルーにどこかの部屋に引き込まれるわ・・・。
今日は厄日なのだろうか?
とりあえず、あとで厄払いなりなんなりをしておこう・・・。
「カルムも一応いるんでしょ~?」
「・・・ぬしには分かるか」
ラルーは影のかかった笑みを浮かべっぱなしに
気持ちの悪い口調で私を弄んでいるようだ。
・・・まぁ、からかわれるのは慣れているから気にしないが
念の為に連れて来たカルムを湖の周りを取り囲むように
鬱蒼と生い茂る森の中に置いてきたのだが、
ラルーは簡単にその気配を察知したようだ。
・・・第六感が優れすぎてるな・・・。
「クスクスッ・・・!
カルムまで連れてぇ?
何をする気なのかしら・・・?」
甘えるような声で彼女は私の目的について聞く
・・・心を読まれたか・・・?
いや、ここに来る道中
私は博士殿の計画などに関する思考は巡らせていなかったはず。
「カルムを連れておきながら
会わせてくれないなんてどういう焦らし方よ!?
ひどいんじゃないの!?」
「は?」
「私がカルムに会いたがっている事を知っていながら
会わせないようにして! 私を焦らして楽しんでいるのでしょう!?」
「・・・」
彼女は何かを明白に勘違いをしている・・・。
そもそもラルーはカルムの事を知っているのか・・・?
一体、ラルーはカルムとどう関係して・・・。
「・・・まぁいいわ
特別に可愛がってあげる
楽しもうじゃないの・・・!」
狂気に満ちた笑みで彼女は何かを取り出した。
「ま、待て!
一体それは何だ・・・?」
「え? ああ、コレね?
ハサミだけど何ー?」
銀色のハサミを慣れた手つきで私に向けるラルー
「は、ハサミで・・・何をする気だ・・・」
「・・・イヲナの指をー 切断するのだー!」
「タチが悪いにも程があるぞ!?」
ラルーの目的を確認し、私は思わず叫ぶ。
ハサミで指を切り落とすなど冗談ではないぞ・・・!?
「・・・可愛がられたくないの?」
「可愛がられとうないな」
「即答なのが悲しい」
「そうか」
あからさまに落ち込むラルー
・・・同情すれば指を切り落とされるので、心を鬼にすべし
「まぁ、いいわ!
イヲナ、とっても面白そうな仕事を見つけたの!
一緒に殺りません事~?」
「そんなに人殺しが楽しいか?」
「楽しいわ!」
「満面の笑みで答えるだろうと予想していたが、
清々しいほどに予想通りの反応で驚いたぞ」
「何!? この私の回答が読まれていたですって・・・!?」
わざとらしく頭を抱え、驚愕するラルーは突然バタリと倒れた。
・・・私はしばらく倒れているラルーを見下ろしていたが、
何かをずっとブツブツ呟いている事に気付き、無視する事にした。
ラルーに連れ込まれた部屋は物置のようで
様々な形の石像が置かれている。
石像のほとんどが立派な出来栄えで人の姿をしている。
・・・ラルーにそんな趣味はあったのだろうか?
それにしてもここにある石像全てが良く出来すぎている・・・。
まるで今にも動き出しそうなくらいだ・・・
「!!」
そして私は気付いてしまった。
どの石像も苦悶の表情で顔を歪ませている。
しかも所々、石像に返り血のような跡が・・・。
「イヲナぁ~
何を見ているの~?」
「・・・・いや、何でもない」
「・・・そっかぁー」
「・・・」
突然、復活して起き上がっているラルーに声をかけられ
意味もなく私は慌てる。
気の抜けたラルーの返事に殺気を感じるのは気のせいだと信じたい。
「ところで・・・ここにある石像、よく出来てるでしょ?」
「私を逃がしてはくれぬのか?」
「何を言ってるの~?
面白いなぁ、イヲナは~」
ラルーが私を追い詰めるように放った言葉に
私はつい過剰反応してしまう。
見て見ぬフリをしたかったというのに、
ラルーの冷酷さにはほとほと嫌になる・・・。
「そんな事を言うって事は・・・
なんとなく察してるのね・・・?」
まさか、とは思っていた事。
それを私は咄嗟に隠そうとしたのに
ラルーは更に私を追い詰める。
・・・何がしたいのだ、こやつは・・・!
「・・・ここにある石像は生きた人間だった、
という事で良いのか・・・?」
「ふふっ、大ッ正解~!
ここの石像達はこの屋敷に不法侵入した愚か者共でしたぁー!」
何故か嬉しそうに近くの石像を叩くラルー
・・・恐ろしゅうて敵わんぞ・・・。
「ぬしの能力の一つか?」
「ん、そだねー!
私のご先祖様から受け継いだ能力。
“生けるモノ全てを思うがままに石に変える眼”で
私はこの愚か者共を断罪致しましたぁ~!」
「人を石に変える眼・・・? 先祖・・・?
・・・ぬしの先祖は蛇の怪物、メデューサだとでも言いたいのか?」
「・・・え? そうだよ?
知らなかったの?」
「・・・」
ただただ唖然。
当たり前そうに私を見直すラルーの態度が気に食わん。
普通、分かる事ではないだろうに・・・。
「む、ちょっと待て
いつぞや確か、自分は吸血鬼だと言っていたが・・・
先祖がメデューサなら
ぬしは吸血鬼ではなくメデューサではないのか?」
「あー、そこんとこはだいぶややこしい事になっているんだよね~」
「いいから説明せい」
「分かった~
私は吸血鬼の属性とメデューサの属性の二つを持ち合わせているの、
だから私は吸血鬼であると同時にメデューサでもあるのだー!」
「・・・ぬし・・・つまりはキメラ、という事か?」
「違うよっ!?
吸血鬼とも呼べるしメデューサとも呼べるけど、
キメラではないよ、断じて!
この話題はもう止めよっか・・・! 私でもよく分かっていないから!」
ラルーはこの話を全力で打ち切る。
なるほど、二つの属性を有するが故に
こやつは“自分が何なのか?”という
アイデンティティーが破綻している状態にあるのか・・・。
ならば、変にこやつの傷を抉らぬ方が良いだろう。
「ぬし、その変な口調は直す気は無いのか?」
「え、いや・・・
直してもいいんだけど・・・
和風口調のイヲナとか
超イケメンなお兄ちゃんというメンツに挟まれたら
私の影が薄くなって覚えてもらえないから・・・」
「一体、何を心配しておるのだ・・・?」
「私の心配は無限にありますのだよ~!」
「もはや意味も分からん」
私はラルーに疑問をぶつけてみる。
が、やはりこやつはつかみどころがない・・・。
「まぁ、それはさておき・・・
お仕事、一緒にしないかい・・・?」
「別に良いが・・・」
「ヤッター!
じゃあ、早速ゴーだぜー!」
「は? 準備は」
「そんなの良いじゃないの良いじゃないのー!
カルムもついてくるんだよねー?
ならカルムを隠さず、4人で殺ろう!」
「話を聞かんか!」
とんとん拍子で話を勝手に進ませるラルー
・・・本当に、こやつの相手は疲れる・・・。
私が異論を掲げるも、全てを無視してラルーは強引に私の手を引っ張る。
・・・またも嫌な予感しかしない・・・。
「ラルー、変な吸血鬼を捕まえたぞ?」
「お兄ちゃん、それカルムよ!」
「カルム・・・?
ああ、裏切り吸血鬼か」
部屋から引きずり出されると
ラルーの兄、ルクトがカルムを私と同じように引きずっている。
「・・・・まさか、この目で実際に見る事が出来る日が来るとは」
「ん? 何ー? イヲナー」
「・・・双子のシンクロ・・・!」
「・・・はッ!
言われてみれば、確かにそうね!
全く、同じ構図じゃない!」
全く同じタイミングで同じように双子が人を引きずっているなど、
とんでもない奇跡が起きたぞ・・・。
「いや、双子のシンクロは凄いけど・・・
その前に俺を離してくれないか!?」
カルムは私の意見に賛同するも、
解放を求めジタバタと暴れる。
・・・カルム、残念だが今日は相手が悪い。
「カルムだから、離してあげて?
お兄ちゃん・・・?」
「・・・分かった」
しかしカルムは運が良い。
実にその強運さが羨ましいぞ
「ねーねー、
イヲナ、早速だけどアメリカに行こうか!」
「・・・は?」
「今回の仕事の場所、またもやアメリカなんだよ~!
面白いよね~、さ、レッツゴー!」
「・・・そうか、ぬしのそのテンションの高さに毎回、関心する」
「え、どったの!?」
私は疲れた。
アメリカで仕事など、絶対良くない事が起こるではないか
全く笑えん・・・。
空を見つめ、私は軽く現実逃避をする。
・・・私に逃げ道は無い、か・・・。
どうしょうもない現実に絶望し、
私は諦めの気持ちでラルーに従う事にしたのだった。
次回、ラルーとイヲナの初デート。
・・・イヲナから見れば地獄の散歩ですが




