記録その拾四
我々・・・と言っても、数は数える程度しかいないが・・・。
この“力”の所有者は皆、一人の“天才”の手によって
人間を超越したのだ。
一人の人間の手で、幾多の人間が人工的に“力”を得た。
我らは人工的に“力”を得た“作品”であった。
“最初の作品”は“力”の組み込みが
成功する確率は限りなく低かったが、奇跡的に成功。
結果、絶対的で明白な・・・魔法のような“力”を振るった。
後に彼女は“最初の作品”でありながら最強の力を有する最高傑作。
とさえ評された。
・・・彼女には、名前は無かったが彼女は自身でこう名乗った。
“ラルー”だと・・・。
“第2の作品”は“最初の作品”と比べ成功率は高かった。
おかげで、難なく“力”の組み込みは成功した。
結果、おどろおどろしい怨みを具現化したような“力”を振るった。
後に“最初の作品”と並ぶ強力な力を有する作品と評価された。
・・・彼には“最初の作品”同様、名前は無かったが、
“ルクト”という名を“ラルー”から貰ったと
自慢げに語った。
“第3の作品”は始めて“天才”の博士とは
無関係な人物として実験に参加。
この頃になると“力”の組み込みの失敗率は
限りなく低くなっていた為、成功。
結果、不透明で曖昧な、まるで“影”のような“力”を振るった。
・・・人々は“第3の作品”の力が、影のようだと分かると
それは“最初の作品”の力の影のようでは?
と噂した・・・それほどにまで、“第3の作品”の力は
“最初の作品”に近く、遠かった。
後に、“最初の作品”“第2の作品”に並ぶ博士の三大傑作だと評価された
その“第3の作品”の名は“イヲナ”
“第3の作品”は・・・私だ。
・・・・
めまぐるしく、画面が変わる端末を睨みながら
私は相変わらず単調な入力作業を繰り返す。
あのヤンデレ兄妹とは別れた。
さすがにコンビを組んだと言えど
兄妹の家にまで押しかけるワケには行かぬ。
私は博士殿がいる研究所に帰ってきたのだ。
今日あった出来事を博士殿に伝えなくはならない
その為の報告書を今、作成しているところだ。
「お、久しぶりに見たな
イヲナ、最初の作品の様子はどうだ?」
不意に久しい声が聞こえる。
私の研究室の入り口に気配がする。
・・・常人には分からないほど、些細な違いがある気配。
それは、吸血鬼のモノだ。
「・・・カルムか、
“最初の作品”は相変わらず狂っている
狂っているからなのか、
私が敵だと知っていながらコンビを組まされたぞ」
私は振り向かず、愚痴を漏らした。
今回はただの監視をするだけのはずが、
ラルーの戯言に付き合わせられる羽目となった。
・・・実に面倒な事、極まりない。
「は? え? ちょっと・・・
今、お前が言った事の意味が分からない
あまりにも難解過ぎた・・・
つまり? ラルーと仲間になった、って事でいいの?」
「そういう事だ」
「・・・ご愁傷様です」
「・・・」
カルムの皮肉としか聞こえようのない言葉に私は思わず振り返る。
白衣に身を包む吸血鬼は
黄金の瞳に白銀の髪を持っている。
眼には人を魅了する力と催眠術にかける力があり、
その能力を何回も目撃した。
非常に美しい容姿だと認めるが、
カルムはどうやら忙しすぎるせいで髪を切る余裕さえ無いようだ。
おかげで髪は伸ばし放題でボサボサだ。
・・・それでも様になっているのは吸血鬼の特性なのか
「ほう・・・?
そう思うのなら、手伝ってもらおうか」
「え」
「なんじゃ?
忙しいから私の手伝いも出来ぬか、
そんな仕事は後回しに出来るだろう
その知らせは私の方で済ませておこう」
「ちょ・・・!?」
私はさっさと端末の横に備え付けられている通信機で知らせを伝える。
否が応でもカルムに愚痴を言いたいのだ。
それに、私個人の研究室は膨大な資料が散乱しているので
片付けなくてはならない。
しかし、博士殿に報告書を送らなくてはならないので
片付けはカルムに任せたほうが効率が良い。
・・・結論を言えば、私はカルムに八つ当たりがしたいだけだ。
「まずは片付けを頼んだぞ?
片付けながら適当に私の愚痴などの雑談を聞いてもらおう」
「愚痴るのが目的か・・・
まぁ・・・最初の作品の相手をさせられてるんじゃ、無理もないか」
私の目的を察したカルムは大人しく
片付けを始めた。
私は博士殿に送る報告書を作成しながら
今まで在った・・・ラルーによってひどい目に遭わせられた
この数日を省略して話す
「・・・最初の作品は兄を救出する為だけに
裏の世界が晒される危険性も顧みず、一般のマンションで暴れ
次にその兄にワケのわからん怒りの矛先を向けられ
殺されそうになったかと思えば、無理やりコンビを組まされ・・・」
「いきなり凄い展開なんですけど・・・!?」
「ああ、そう言えばそうかも知れぬな?」
「イヲナの価値基準がおかしくなってないか・・・?」
カルムは私の価値基準を疑う。
・・・あやつの相手をさせられていれば、誰だってこうなるだろう。
「そして気付けばホテルの一室にて監禁され、
なんとか説得に成功したが
今度は麻薬組織を一晩で潰すという荒行に出る事となった・・・」
「どうしてその展開に流れるのかサッパリ分からない・・・」
「色々と説明を省いているからな?
気にしなくとも良いぞ」
「・・・そこのところは気にしなくて良いんだ・・・」
カルムの正論を聞けば聞くほど、
最初の作品・・・ラルーの異常性が伺える。
あやつが一体、何をしたいのか全く分からん・・・。
「それで? 麻薬組織・・・ってのはアレか?
博士の研究を強く反対していた組織の事だろ?」
「ああ、その通りだ
無事、死神兄妹と共に組織を潰す事に成功し
ようやくここに帰れた・・・
というのがたった数日のうちに起きた事だ」
「・・・お疲れ様です」
「実に疲れ果てた
報告書もやっと完成したところだ、
あとはゆっくり休息でも取ろう・・・」
「丁度いい、片付けも済んだところだし
ご飯を一緒に食べないか?」
「それは良いな?」
私は書き上げた報告書を博士殿に送り、
再びカルムに振り向いた。
・・・すっかり室内は綺麗に整頓されている。
長らく資料で散らかっていたせいなのか、
この部屋がいつもより広く感じる。
私は椅子から立ち上がり、軽く背伸びをした。
だが、私はすぐに背筋を立てて緊張をする事となる。
「・・・報告書を読んだ
全く・・・相変わらず“最初の作品”は面白い・・・」
「・・・博士殿が造り上げた作品の中で、極めてイレギュラーです
その行動一つ一つが興味深いモノなのは当然でしょう」
私の研究室のその入り口に博士殿は立っていた。
たった今、報告書を送ったばかりだというのに
もう読み終えたというのか、驚きを隠せなかった。
元は金髪だったらしいが、長年の研究によるストレスから
髪は全体的に真っ白になってしまっている。
深い緑の瞳は知恵の象徴のようにも感じる・・・。
白衣をまとった姿はもう、見慣れたモノだ。
彼こそが我が博士。
ラルーを最初の作品としたあとも
ルクトや私に力を与えた、
それこそ私達から見れば創造主とも呼べる存在だ。
「・・・しかし・・・
気になったのだが・・・
我らを脅かす組織の一員だと思われる紅い瞳の少年・・・
随分と、いつぞやの“失敗作”に特徴が似ているな・・・?」
「・・・私が仕留められず逃してしまった、彼、ですか」
「その“失敗作”と少年は同一人物である可能性が高い・・・
それも、とても面白い事になっている・・・」
「・・・面白い事・・・?」
「作品であるにも関わらず、その身に悪魔を宿しているからだ」
失敗作、
稀に力を宿せなかったり、又は力に耐え切れずに暴走してしまった者。
私はその失敗作を始末する役を担っていた。
今からひと月ほど前・・・。
力に耐え切れず暴走してしまった作品である少年を始末する事に、
しかし、その少年が有する力は絶大なモノであり
暴走した力は完全に予想外の域にまで達していたのだ。
そのせいなのか、私は少年を逃してしまった・・・。
その少年が悪魔を宿している、というのなら大変な事。
ただでさえ手に負えないほど暴走した力を持っていたというのに
悪魔が憑いたのなら最悪な状態である・・・。
「博士殿よ・・・
最初の作品と失敗作をどうなさるおつもりですか・・・?」
「・・・タイミングを伺え、もっとも都合の良い瞬間が訪れた時
最初の作品を裏切り、失敗作とコンタクトを取れ
失敗作はお前の事を神だと思い込んでいるから事は簡単に運べるだろう
ついでにカルム、お前はイヲナを手伝え
他の仕事は気にするな」
「・・・・承知しました」
私は博士殿の命令を受け
深く頭を下げた。
そして博士殿は研究室に入る事もなく、そのままどこかに行く・・・。
「・・・な、なんだか・・・
大変な事になったな・・・?」
「・・・ああ、実に面倒な展開だ」
「は・・・?」
「博士殿は・・・最初の作品・・・否
ラルーと完全に敵対をして、戦争をする気ではないか・・・」
「えええぇぇ!!?
何その、急展開っ・・・!
勝てるのかよ・・・!?」
「・・・分からん、明白な勝機など皆無のはずだというに・・・」
私は髪をかきむしる。
嗚呼、厄介な事だ・・・。
・・・それでも、私は博士殿に従うしかない。
「おいカルム、サッサと来ぬか」
「え、何をするんだ!?」
「準備をするのだ、ラルーと戦う準備をな・・・」
「さらりと格好良い言い回しだなぁ・・・」
「喋る暇があるなら黙れ」
私は白衣を改めて羽織り、カルムと共に研究室を出たのだった・・・。
・・・確実にラルーを裏切れば、恐ろしい何かが起こるだろう
私に言わせれば、
決して開いてはならない禁断の扉とはすなわちラルーの怒りである。
それに触れなければならない時は徹底的に備えるしかない。
バリバリの死亡フラグだという事にイヲナは全力で気付いてます。
これからは死亡フラグをへし折るのが目的になりますね。