記録その拾参 謎の危険分子の出現
「お兄ちゃん~!!」
「ラルー!!」
「毎回、毎回よく飽きぬな・・・ぬしらは・・・」
ワケの分からない茶番劇を繰り広げたかと思えば
抱き締め合う死神兄妹を横目に私は
ラルーの手によってズタズタにされた男の死体を見た。
原型を留めていないほど
めちゃくちゃに壊されている男の死体。
その血だまりには五寸釘がたくさん散らばっている・・・。
またラルーは“呪釘”という呪いをかけたか・・・。
具体的にどういう呪いかは分からぬが
ラルーの“呪釘”がかけられると
苦しみぬいた末に五寸釘を吐き出し死亡するモノだと推測する・・・。
男の死体はもはや ただの肉片と化し、たくさん散らばっている。
私はその肉片をあさり、見つけた。
胃だと思われる肉片。
私は血だまりに落ちている五寸釘を拾い上げ
胃を裂いた。
・・・中は、びっしりと五寸釘が詰められているようだった。
これでは死んで当然だ。
それも、楽には死ねないから
なかなか悪質な呪いだ。
「おい、この有り様を一体どうする?
ラルー」
「・・・掃除屋に連絡
早急に退避!」
「・・・その前に下の階でゾンビにされていた殺し屋共を
どうにかせねば・・・」
「分かったよ~
テキトーに外に運び出せばいいんでしょ~?
あー、それと箱に監禁されてる女殺し屋も救出しなきゃー
カワイソウカワイソウ」
「・・・・」
ラルーはそう言うと黒い箱に近づき
その蓋を強引に開ける。
ラルーは中を見て不可解そうに顔を歪めると
黒い箱の中にその黒い革手袋をはめた手を乱暴に突っ込むと
女の首を引っ張り出す。
「おい! 首を刎ねる気か!?
刎ね足りないのか・・・!?」
「十分、首は刎ねられたから大満足よ
ただ・・・この女・・・」
「は・・・?」
ラルーが掴む女の顔は
生気のない顔・・・。
髪はボサボサで開いた目は虚ろだ。
・・・その女は・・・死んでいた。
「・・・餓死のようね・・・
異常にやせ細ってる」
「・・・なんという非道・・・」
「ええ、餓死させるくらいなら
拷問の末、首チョンパさせた方がいいよ」
「ぬしの感覚的な話だな」
「ええ、そうよ?
それがどうしましたー?」
ラルーは満面の笑みを浮かべ開き直った。
何故、開き直る?
「この調子だと他の箱の子もダメっぽいね?
貴重な女殺し屋を全く・・・」
「一応、念の為
全ての箱の中を確認しよう
もしかすると、一人くらい生存者がいるやも知れぬ」
「・・・イヲナ・・・
女に近づかないでよ・・・ねぇ?」
「!?」
「女は私がやっておくから
下の汚い男共を頼んだよー?
お兄ちゃん、イヲナの監視お願いね?」
突如ヤンデレ化したラルーは私をエレベーターに押し込むと
ルクトに私の監視を依頼する。
ルクトは満面の笑みで快諾。
エレベーターにルクトが乗り込み
そのままエレベーターは扉を閉ざす。
・・・ルクトと二人きりにされた・・・!!
何をされるか、全く予想がつかん・・・!
「・・・死ぬか?」
「いきなり何を突拍子もない事を聞く?」
「・・・テメーの存在自体、ムカつく」
「そこまで嫌われる筋合いはないぞ」
「ラルーと僕のタッグに割って入って来たじゃねーか」
「ああ、そうだったな確か
しかしあれはラルーの提案であって・・・」
「つまりはラルーに気に入られてるって事だろうが」
「・・・何故、気に入られているのだか分からん」
「・・・」
「・・・」
しばしピリピリとした緊張感が漂い、
エレベーター内は重い沈黙に包まれる。
ラルーに気に入られている? 何故だ?
そう疑問に思いつつもエレベーターは4階に到着し
その扉が開かれる。
床に倒れている名のある男殺し屋達は
元の姿にだいぶ回復していた。
しかしまだ完全ではない・・・。
「とりあえず起こしておくか?」
「寝ていた方が回復力は高くなるのだが・・・
このままというのもいけないだろう、
手分けして起こそう」
「・・・面倒だ 首を刎ねよう」
「おい、起こそうと提案したのはぬしだろうが
ルクト」
「気が変わった」
「気分屋か? ほとほと妹に似ておる・・・」
「ラルーの何を知ってんだ貴様」
「ある程度の基礎知識はあると思っている」
ルクトとそんな下らないやり取りをして
しばしルクトに睨まれるも
4階に降り、殺し屋達を起こす。
・・・・
しばし時間を掛けてしまった。
なんせ、全員で24人もいたのだ。
実に起こすのにも手間が掛かった上、
まだ完全には回復していないおかげでパニックを起こす者もいる。
まぁ、無理もないだろうな・・・。
起きてみれば自分の体の皮膚がただれ
身体に正体不明の違和感があるという異常な状況。
誰だってびっくりする。
しかし常識の通用しない裏の世界において
殺し屋として生きてきた者達なだけあって
状況を受け入れる能力は高かった。
今や仲良く愚痴を漏らしているくらいだ
「とにかく、お前らの依頼主は僕とラルーとこの仮面野郎とで
殺したからもう帰れ」
「起きたら依頼主が殺されてるなんて驚愕な展開だし、
もはや爆笑モン」
「そうだな、帰れ」
「なんだよ冷たいな、死神兄妹の兄さんは」
「ああそうだよ
僕は妹以外のモノには興味がない
せいぜい興味を抱くとしたら首を刎ねたいと思うくらいだ」
「マジモンの死神じゃねーか」
ルクトとゾンビにされた殺し屋の一人が話す。
なんとも奇妙な光景だ
「ま、仕事がパーになったわけだし
もう帰らしてもらうよ
と、その前に・・・・
本当に治るんだよな・・・? コレ」
「大丈夫だ、三日間ほど違和感は消えないかも知れないが
皮膚のただれなら明日には治っているだろう」
「なら、良かった
じゃ!」
軽いノリで若い殺し屋が颯爽と動かないエレベーターを素通りして
外階段に通じる扉を開けて降りていく・・・。
その後を追うように他の殺し屋も階段を降りていく。
「少し話を聞かせてもらえないだろうか!」
だが、私はふとある疑問を思い出し
最後に階段を降りようとする中年の殺し屋を呼び止めた。
「そういえば不思議に思っていたのだが・・・
この組織が麻薬売買で有名なのを知っていただろう・・・?
なら何故あんな怪しげな白い粉を・・・」
「それはあの変なガキのせいだ」
「・・・変なガキ・・・?
その話、詳しく教えてもらえないだろうか」
「俺たちはとりあえずここ4階で待たされていたんだ
だがいつまで経っても依頼主は現れない
そうしてる間も何人も同業者が集まってくる・・・
普通、20人も見ず知らずの殺し屋が共同するなんて
有り得ないからな・・・
さすがにただならない事が起きていると分かった
だから何人かの殺し屋が帰ろうとしたところで、
いつの間に変なガキが現れたんだ・・・
紅い眼の・・・
絶対、アイツは“悪魔憑き”だな
ソイツは意味不明な事をぬかした
“オマエ達は神を迎えるサプライズだ
勝手に帰られてはとても困る・・・
どうしても帰るというのなら、こちらも手段を選びません”
そしてあのガキは白い粉の入った袋を破り捨てると
何故か意識がなくなって・・・」
男の語る話は実に興味深いものだった。
“悪魔憑き”の少年・・・。
その少年が語った話から少年自身がこの組織の上層部の一人だと
推測出来る・・・。
だが、その話が事実だとすれば・・・。
このビルにはその少年が潜んでいるはずだ
しかしそんな不審な少年を見かければさすがに気付く
ラルーやルクトも殺したとしても不審さから私に話すはずだ―――
「イヲナ~、
お兄ちゃん~、
なんか変な子供がいたよ~」
「・・・今、少年を発見出来た
帰って良いぞ」
無線機からラルーの声がする
少年を発見したという・・・。
なので話してくれた殺し屋を帰し
私とルクトは再び五階に向かう。
「・・・その子が件の少年か」
「ええ! そうよ!
褒めて褒めてー!」
眩しいほど無邪気な笑みを浮かべるラルーは
ピョンピョンと飛び跳ねる。
件の少年は、
ラルーの鎖によって縛り上げられ
宙をぶら下がっている・・・。
ラルーはヤンデレであると同時にドS・・・。
彼女のサドっ気が反映されている図である。
悔しそうに唇を噛み締める少年は確かに紅い瞳で、
黒髪を腰ほどにまで伸ばしている。
服装は革の黒いジャケットに白いシャツを着て
藍色のジーンズを履いていた。
それが逆さ吊りにされているのだから実に面白い。
「お前もこの組織の上層部の一人か?」
「・・・神・・・」
「・・・話にもならん
ラルー、もう十分この組織については分かった
・・・少年であるが、好きにせい」
呆然と少年は私を見て神だと言う。
全く、笑えない
「・・・でもこの子・・・
何か変なのだよ・・・」
「そんな事はどうでもいい、
“悪魔憑き”のようだから少々、変でも
不自然ではない」
「・・・そーですかー
じゃ、遠慮なくー」
ラルーは少し躊躇っていたが
大鎌を振り上げた。
だが・・・少年は目を見開くと
次の瞬間にはその姿は消え
空に少年を縛っていた鎖が
ジャラジャラと垂れ下がる。
「・・・へー、逃がしてしまったー
新たな危機の可能性ですなー」
「何を呑気に・・・
少年は瞬間移動が出来るのか」
「みたい」
「・・・危機感くらい覚えなさい」
「別にそれほど危険なようには見えないけど・・・
そもそも危機感なんてとっくの昔に忘れた」
「忘れたのか・・・」
「忘れたのだー!」
「・・・」
相変わらず呑気なのか何なのか・・・。
つかみどころのないラルーは何やら楽しそうだ。
・・・面白そうな暇つぶし程度の認識のようだ。
まぁ、ここまで殺っておけば
当分、この組織は動けまい。
自然に潰れるだろう・・・。
本拠地を失った組織など、簡単になくなる
「・・・イヲナ
帰ろ?」
ラルーのそんな囁く声に私は振り向いた。
ラルーは何故か不安そうな表情をしている・・・。
さっきまでは楽しそうにしてたのに、
感情の起伏が激しすぎる・・・。
私は呆れつつもラルーの問いかけに
答え、彼女の差し出す革手袋をはめた手を掴んだ。
このヤンデレ兄妹。
一体、これから何を起こすのやら




