記録その拾弐 死神兄妹と初共同作業その終
ゾンビ共は思ったより早く、強かった。
でも、時間停止をしてしまえばコッチのものだわ?
やっぱりゾンビは嫌だな~・・・。
汚いし
元は人間だし
美しくないし
何よりも首の刎ね甲斐がない。
ならいっそのことサッサと終わらせた方が清々しい。
結果、私は時間と止め
その間に首を刎ねれば簡単。
ゾンビ全員殺害完了。
「イヲナー
ゾンビの始末、終わっ・・・たよ・・・?」
私は達成感から喜びを感じ、
すっかりベタ惚れしてしまっているイヲナに振り返った。
ああ、なるほど・・・。
これなら“神”に間違われても仕方がない・・・。
私は勝手に納得した。
イヲナは白く神々しい美しい剣を手に
男と渡り合っていた。
男は思いのほか手強いようで
巧みに長さの違う二つのナイフを操る。
・・・貴様、強かったんだ・・・。
それよりもイヲナだ。
イヲナが手にする剣・・・。
見た事もない、不思議な剣だ。
ただの剣とはワケが違うみたい・・・。
イヲナがその剣を振るう度に
・・・世界に、何らかの“変化”が生じているように見える。
その変化が何なのか解らない・・・。
一瞬、世界が止まったように見えるけれど
実際に止まったワケではないみたいだし・・・。
私の、何もかもを
見通し
操り
終わらせる
この“目”には
その異常性が際立って見えた。
その力の異常性、強大さ、
そして所有者・・・イヲナの人間性・・・。
白く、神々しい彼が、神に間違われるのも無理もないワケだわ。
・・・神様・・・ねぇ・・・。
嫌な過去を思い出させる一件だこと・・・。
「ぬし・・・
悪いが見ていると不愉快だ
殺させてもらおうか」
「貴方に殺されるのは本望ですよ・・・
神・・・!」
「私は神ではない・・・!」
男は恍惚の笑みを浮かべながら
イヲナに斬りかかる。
・・・言動と行動が矛盾している・・・。
狂信者らしい・・・。
イヲナは業を煮やし、
男に何かを突き付けた。
・・・護符・・・?
それはれっきとした護符だった。
なんでイヲナが護符を持って、しかもその護符を男に突き付けるのか
理由がわからなかったけれども
次の瞬間、理由を理解出来た。
・・・その・・・断末魔の叫び声のおかげで、
「あああぁぁぁぁああぁあ!!
焼けッッ・・・焼けるッ・・・!」
「・・・汚い叫び声ね
焼ける程度の事どうでもいいでしょう?
貴様のような人間に幾多の人間が焼かれ殺された
貴様も同じ思いをして苦しみながら死ね、
これが、報いだ」
私は身勝手で汚い男に腹が立った。
だから私は精一杯の“呪い”を吐いた。
実際には男は燃えていなかった。
勝手に燃えると、焼けると、騒いでるだけだ。
どういう原理なのかは解らないけれど
イヲナの護符のせいで男は精神的に攻撃を加えられているようだった。
・・・血まみれで真っ黒な私とは裏腹で、
イヲナは真っ白で清いままだ。
・・・血で手を染めず、敵を正確に苦しめるなんて
―――羨ましい。
私はハッキリと、そうイヲナを羨ましく思った。
白いままで、強いなんて・・・。
最高に理想的じゃない・・・。
「神ッ・・・!」
男は未だにイヲナを神だと信じていた。
そして救いを求めていた。
・・・馬鹿らしいわ、
見ていてとても不愉快。
「・・・神なんて、
残忍なだけの子供よ・・・
ソレに必死にすがり付いて、
救いを求めるなんて・・・
貴方の方が情けない赤ん坊のようだわ」
私は男の首を掴み
“呪釘”の呪いをかける。
「・・・死、に神・・・ッ!?」
震える声で
男は目を見開き
私を見上げた。
私はそれが不愉快で仕方がなくて―――
私の大鎌を振り下ろした。
「・・・」
「・・・黙った」
男はもう、黙った。
目を見開いたまま、死にやがったわ・・・?
「でも、許してあーげない・・・」
私はまた大鎌を振り下ろした。
男の汚い血が私の服に付いた。
私はまたイライラして大鎌を振り下ろす。
また振り下ろす。
何度も、何度でも
大鎌を振り下ろした。
もう死んでいるって分かってる。
もうどんなに大鎌を振り下ろしても意味はないって
理解してる。
でも・・・私は大鎌を振るう手を止められなかった。
衝動?
十分、首を刎ねたじゃない。
・・・そっか、男が気に入らないからか。
男が、大嫌いで大嫌いで・・・。
初対面でここまで嫌うなんて、どうしてだろう?
でも、そんな事どうでもいいわ。
とにかくコイツを壊さなきゃ。
壊さなきゃ
壊さナきゃ
壊サなキャ
壊サナキャ・・・。
アハッ アハハハハッッ!
面白いやぁ!!
だって、大鎌を振るう度にね?
ゴポゴポ、血が溢れて
口からは私の呪いのせいで五寸釘がこぼれ落ちてる。
こんなの、今までになかったわ・・・!
だから、もっと、モットもっとモットもっとモット!!
コイツを・・・!!
壊しちゃおう・・・・!?
私はまた大鎌を振り上げた。
その時、誰かが私の肩を叩いた。
「ラルー、一体どうした・・・?
首も刎ねないで・・・」
お兄ちゃんだ。
「・・・知らない」
私は大鎌を振り下ろす。
また大鎌を振り上げて、振り下ろした。
終わらない終ワラナイおわらない・・・。
「ラルー!」
だがそんな怒声と共に無理やり肩を引っ張られ
後ろを振り向かされる。
何? この不愉快な男の処理をしてるだけじゃない?
私を引っ張ったのはイヲナだった。
「何・・・? イヲナ」
「・・・ラルー何を嫉妬している?」
「・・・嫉妬・・・?」
「・・・嫉妬でもしていなければ
あの男にそこまでの事をする理由がないだろう」
「・・・!」
私は・・・嫉妬している・・・?
何に・・・?
・・・決まっているじゃない。
素直に気持ちをぶつける事が出来る狂信者に嫉妬したんだ・・・。
私はもう、すっかりイヲナにベタ惚れしてる
にも関わらずこの想いを隠している。
一度の告白が届かなっただけで、私はこの想いを秘密にした。
だから伝えられず、悔しく思って
狂信者に嫉妬をした・・・。
「そりゃあ・・・嫉妬するわ・・・
自分の気持ちを素直にぶつける事が出来るなんて・・・
羨ましすぎるわ・・・!」
「・・・!」
私はうつむき、溢れ落ちそうな涙を堪える。
悔しい。
悔しい。
でもこの想いは隠す。
隠さねば私は持たなくなるから・・・。
知っている。
私は自分の想いで自身を壊せる事を
一度、私は自分勝手な判断から大切な全てを失った。
だから私は極端に想いを他人に伝える事を恐れ始めたんだ。
この想いが相手を破滅させるのでは? と・・・。
でも隠しきれないよ・・・!
この恋は、初めてで・・・どうすればいいのか解らない・・・!
解らないよ・・・
だが、優しい手が私の頭を撫でた。
私は咄嗟に頭を上げた。
そこには優しい笑顔があった。
「ラルー・・・嫉妬したんだ・・・
なら全部、僕に言えばいいのに・・・
僕に吐き出せば良かったじゃないか」
「!!」
お兄ちゃんだった。
そう、いつもいつもお兄ちゃんは私の思いを読み取って
痛みを理解してくれた。
私の痛みを理解しているからこそ、
私の痛みを有効的に癒してくれた。
お兄ちゃんだけが、私の唯一の理解者だった・・・。
「お兄ちゃんッ・・・!
ごめんッ・・・なさ、い・・・!」
涙を堪えきれずに私は顔を歪め謝罪した。
それでもお兄ちゃんの私を撫でてくれる手は暖かくて―――
私はまた救われた。




