妖刀
教会を出たフラビオとシルビアは
こんな会話をしていた。
「シルビアさん、まさかあの女の話
信じちゃいないでしょうね?」
「信じるぞ」
「えぇっ?」
フラビオが驚く。
「フラビオは信じないのか?」
「は、はい……」
「お前、それ本気で言っているのか?」
シルビアが驚きを隠せずにいる。
「だって、証拠もないんですよ」
フラビオが反論しようとした途端、
街の奥からゴブリンが二人の前に現れた。
「よーし、かかってこい」
シルビアは日本刀を鞘から抜くと、
ゴブリンを一撃で切り裂いた。
「経験値はたまっているんだ、
あんなの一撃だ」
フラビオが遠くから解説した。
ゴブリンの姿が消えたのだが、シルビアは
刀を抜く素振りは見せない。
「あのー、もう終わりましたけど……」
フラビオが近づくと、シルビアは
いきなりフラビオを切りつけようとしてきた。
「何するんですか!」
フラビオが叫ぶと、シルビアは呟いた。
「血が足りない……」
「へ?」
再びシルビアがフラビオを切りかかってきた。
「オレを満足させるほど血が足りない!
何もかも叩ききってやる!」
そのころ、教会の地下室では
ファンティーヌがある気配に気づくと、
教会を飛び出して走り出した。
「どこへ行かれるのです?」
牧師が尋ねると、ファンティーヌは
一言だけ答えた。
「守り神になってくる」
シルビアは街中で暴れていた。
「血が足りない!」
刀を振り回していて非常に危険な状況だった。
街の人々は皆家に避難しており、
フラビオは広場のファンティーヌの銅像の
後ろに隠れていた。
「何であぁなっちまったんだ?」
フラビオがシルビアの様子をのぞきながら、
おびえていた。
「あれはおそらく妖刀だろう」
後ろから声がした。
振り向くとファンティーヌが立っていた。
「あの刀には良からぬオーラが出ている、
おそらくあの刀には持ち主の魂が乗り移っているんだ」
ファンティーヌはそう説明すると、
銅像から飛び出して叫んだ。
「血が欲しいのなら私のをくれてやろう」
シルビアはその声に気づき、ファンティーヌに
向かって走り出した。
「遠慮なくいただこう」
シルビアがファンティーヌに駆け寄り、
切りかかろうとしたその途端、
ファンティーヌは刀をかわし、
呪文を唱えた。
すると、シルビアの動きは止まり、
日本刀がバラバラに砕け散った。
「あれ?
私は何をやっていたんだ?」
シルビアがきょとんとしている。
「あ、あんたは本物の魔法使いだ、
疑って悪かった」
フラビオがファンティーヌに頭を下げる。
「いいってことだ」
ファンティーヌが笑顔を見せた。
どうやらあの刀には日本人の浪人の魂が
宿っていたという。
盗みや殺人などを犯し続け、
斬首された浪人の魂が刀に乗り移っていたのだ。
「お前に一つ頼みがある」
シルビアがファンティーヌに頭を下げた。
「私達と旅に行かないか?
お前ならダンカンにだって勝てそうだ」
ファンティーヌが答えた。
「それは無理だ、魔法は疲れるし、
私はこの町を守らねばならない」
「そうか……」
フラビオががっかりする。
「仕方ないな」
シルビアが諦めると、ファンティーヌは
二人にエールを送った。
「大丈夫、これからの旅もうまくいくさ」
ファンティーヌがシルビアの手を握り締める。
「ありがとう」
翌朝、シルビアたちがグルノーブルを去ろうとした途端、
教会の前から大きな声がした。
「二人共、道中気をつけろよ」
ファンティーヌが笑顔で手を振っていた。
二人はそっと手を振り返した。