旅立ち
フラビオは馬車に乗っていた。
しかしその馬車は死刑台へ連れて行かれるときの
安っぽい馬車ではなく、
ドロテアやシルビアが乗っていた
乗り心地のよい高級な馬車だった。
「何故オレの死刑を取りやめたんです?」
フラビオは向かいの席に座っていたドロテアに
問いかけた。
「実はテレーザが連れ去られたの」
ドロテアは深刻な表情で答えた。
「ええっ! 誰に?」
「ダンカンだ」
シルビアがいつもの元気な声ではなく
覇気の無い声で言った。
「そんな! 早く助けに行かないと」
フラビオが焦りながら言うと、シルビアが
少し元気を取り戻しながら言った。
「今から助けに行くんだぞ」
「誰が?」
「私とお前でな」
シルビアが言い放った。
「え?」
フラビオは耳を疑った。
「今から城に戻って荷作りをするんだ、
明日出発だぞ」
「待ってくださいよ、何でオレが……」
うろたえるフラビオを見たドロテアは
呆れた表情で言った。
「テレーザがどうなってもいいの?」
フラビオは何も言えなくなった。
「あなたがテレーザを好きだったことは
私もシルビアも知っていた、
だからこそあなたを助ける代わりに
助けに行かせようと思っていた、
それなのに……」
ドロテアががっかりしながら言った。
「わかりました、行きます」
フラビオは決断した。
その日の夜、フラビオは風呂場で
久しぶりの入浴を楽しんでいた。
伸びきっていたひげもそり落とし、
半年振りに歯磨きもした。
その歯磨きは気持ちがよすぎて、
フラビオは変な声を出してしまったほどだ。
入浴後、豪勢な食事が食卓に並べられた。
「頼むぜフラビオ、あの野郎の顔面、
ぶん殴ってやってくれ」
料理人がフラビオに応援メッセージを送る。
「あぁ、任せろよ
ぐちゃぐちゃにしてやるぜ」と
フラビオは料理人と握手をした。
翌朝、城の前にはシルビアとフラビオが
立っていた。
周囲には二人の出発を祝う民衆や
鼓笛隊が歓迎していた。
「気をつけて行って来てね、二人とも」
ドロテアが二人と抱擁を交わす。
「任せろ、必ずテレーザを連れて
トスカーナに戻るよ」
シルビアが笑顔を見せる。
「それじゃ、行ってきます」
フラビオがドロテアに手を振った。
ドロテアが優しく手を振り返す。
二人が歩き出した。
森を歩いていると、シルビアが
こんな提案をした。
「私が勇者だから、お前は勇者助手だな」
「何言ってるんです?」
「だからお前は私がピンチになったら助けろ、
いいな?」
「まぁ、いいですけど……」
こうして、二人のイングランドへと向かう旅が
始まった。