死刑執行
両手を鎖でつながれたテレーザの隣に
ダンカンが立った。
「どうだ? 美しい娘だろう?
トスカーナの姫君の一人である
テレーザさんだよ」
「テレーザをどうする気なの?」
ドロテアがダンカンに向かって叫ぶ。
「もしも貴様らが金を払えないのなら
この娘は私の妻とするつもりだ」
ダンカンが笑う。
「いいな、半年だけ待ってやろう
それまでよく考えておくことだ」
「お願い! 助けて」
テレーザが叫ぶと、映像は途切れた。
「あぁ……」
ドロテアが座り込んでしまった。
いつも気力に満ちていた凛々しいドロテアの姿は
どこかに行ってしまった。
そのころ、シルビアは城に戻って再び
木人と格闘練習をしていた。
すると、ドロテアの乗った馬車が城に入ってきた。
馬車から降りたドロテアの表情は青ざめていた。
「どうした? 何かあったのか?」
シルビアが能天気に尋ねると
ドロテアは不安そうな声で
「テレーザが誘拐されたわ」と
答えた。
「おい、それって本当かよ?」
シルビアが驚いた表情になった。
「それで、誰にさらわれた?」
「ダンカン・クレイグよ」
「どうすればテレーザを助けてくれるんだ?」
「5000億ゴールドを支払わなくてはならないわ、
でも……」
「そんな大金払えないよな?」
「そうなのよ……
どうすればいいのかしら?」
ドロテアが涙を流し始めた。
ドロテアを見たシルビアは必死にフォローし始めた。
「そうだ、こうしよう!」
同じ頃、一台の馬車が農道を疾走していた。
その馬車には一人の罪人が乗せられていた。
ボサボサに伸びた髪に、伸び放題のひげの
その囚人の名はフラビオ・トランクィリ、35歳だった。
フラビオは何も言わずに、馬車が走る方角のみを見つめていた。
馬車がある場所に到着すると、フラビオは馬車から強引に
引き摺り下ろされた。
たくさんの民衆が絞首台の前に群がっていた。
今日はフラビオの死刑の日だったのだ。
死刑執行人がフラビオに目隠しをしようとすると、
「いらない」とフラビオに断られた。
「最後に言い残すことはありますか?」と
牧師が尋ねると、
「オレは正義のために死にました、
オレの行動は正しかったはずです、と
この国の全ての人々に伝えてください」と
言い放った。
フラビオの首に縄がかけられ、
足場が下ろされそうになったその途端、
「死刑を中止して!」という
叫び声が聞こえた。
その声の主はドロテアだった。
民衆達がドロテアと一緒にいた
シルビアに挨拶を交わしていると、
二人は絞首台の前に立った。
フラビオはその様子を
理解できぬまま、立ちすくんでいた。