「ふっ、頼もしい限りだ、バッカニーナ」
「フィリー先輩、ノートルダムの隊長の方と面識はありますか?」
「うーん…、顔見知りは顔見知りなんだけど……まともに会話もしたことはーほとんどないかも」
「そうですか…」
ローライト第一位ギルドであるノートルダムではなく、第三位のヴァイロンに指揮権が委ねられたのには訳がある。
殺されてしまったルルイエ先生はノートルダムの参謀であり、ノートルダムというギルドの中枢的な人物であったからだ。
彼一人欠ければ、個々の実力で群を抜いているノートルダムであっても、組織的な行動において最下位ギルドにすら劣ってしまうのだ。
それほど、彼の存在は大きかった。
大き過ぎるが故に、失った際の損失は肥大化する。
…しかし、いくら僕らに指揮権を行使する権限があったとしても、ノートルダム、並びに他のギルドの隊長格の人物と親密な関係を築いておくことは、指示する側になるのだから当然のことである。
「ぽっと出の僕に、いきなり命令されても誰も聞いてはくれませんからね……」
「はぁーこういう時ヴィルかセシリアちゃんがいればなー」
フィリー先輩の言う通りである。
ヴィルヘルム先輩はともかく、何故うちの隊長はこう言う時に限っていつも不在なのだろうか。
「でも、私は京くんでも問題は無いと思うよ?」
「…そんなことありませんよ、僕にはカリスマ性がありませんからね」
「そんなことないよ!ローライトのお友達はみんな京くんのこと知ってるよー?『獣王と対等に渡り合い、騎士団総長を行動不能まで追い込んだ新入生』、ってねー」
「字面だけみたら派手に思うかもしれませんが…」
全て誰かの助けがあったから、得られた結果である。
とても鼻を高くして誇れるようなものではない。
「ともかく、一度主要ギルドの隊長方に集まってもらって、会議の場を設けましょう。学校長から具体的な説明は一切無かったんですから、おそらく僕らヴァイロンの力量を計っているんですよ、きっと」
「…はぁ…、わたしがもっと頼れる先輩だったら京くんに苦労かけることもなかったんだけど…」
フィリー先輩が珍しく渋い顔をしている。
そういえばフィリー先輩はいつも自分の童顔と幼体を気にしていた。
確かに、フィリー先輩の容姿じゃあ、舐められてしまうのは仕方が無い、彼女自身もその自覚はあるのだろう。
「と、ともかく今すぐにでも主要ギルドに話をつけましょう、………この件はすぐにテティの耳にも入るでしょうし…」
「…そう、だね」
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「逃げられました」
「…………本当に驚いた、この我輩が一杯食わされてしまうとは」
「もしかすると本当のローライト第二位は彼だったのでは?」
「ふむ、いや、確かに海賊王が最も得意とする海原での戦闘ならいざ知らず……、それでも星の記憶には敵わんだろう」
「左様ですか、星の記憶を宿す人間、ルルイエ…と言いましたか、彼はそれ程までに凄まじい人物であったと?」
「少なくとも我らでは相手にならなかった」
「……まさか……我々『魔人』のチカラを持ってしても敵わぬ人間が居ようは」
「我らが、人間でも悪魔でもない第三の存在だとすれば、星の記憶はそれら全てを超越した、第四の存在と呼ばれよう。…そもそも憑き神を宿した者を、『人間』と呼んでしまうのにはいささか抵抗があるがな」
「……まったく、星の記憶と魔人軍が戦った時、境界門で待機していて正解だったようですね、確かに100人いた魔人の軍団の半数以上を星の記憶に葬られたのですから、人間とはとても言えません。間違いなく私も殺されていました」
「うぬ……しかし、魔人総統も瀕死の状態で憑き神狩りを続行しようなど、はやり無理があったようだな」
「…そのようですね。偉大なる海賊王だったから、という点も指摘出来ますが」
赤いフードコートの二人組は瓦礫の山と化した街を徘徊していた。
「こちらの生き残りは7人、ですか…当分は活動出来そうにありませんよリッチェル中将」
「そのようだ。…バッカニーナ、一度境界門をくぐり魔界に退却する、現時点での現場の指揮権は我輩にあるはずだ」
「はっ、…私は何があろうと貴方について行きますよ」
「ふっ、頼もしい限りだ、バッカニーナ」