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『憑き神の世にその人ありと謳われる彼女がね』


結局、僕と祖父、そして羅刹姫との会話は、特に何の進展も無く、ただ単調に、眈々と平行線のままにその幕を降ろした。


ようするに一週間後には羅刹姫を再度封印し、僕のこの違和感しか感じ無い容姿や髪色ともおさらばというわけだ。


確かにそう捉えてしまえば、ずっと気も楽になるというものなのだが。


それでも僕はどこか、違和感にも成りえない、小さな脳内の痼りのようなモノを拭えないでいた。


「よう京、じっちゃとの長話は済んだのか」


祖父の居た別棟から本堂に帰る途中、玄関で偶然にも、従兄弟の京介と出くわした。


「ああ、一週間後には封印の儀式だよ」


「うえー、マジかよ」


儀式となると、それに駆り出されるのは後神家の親族だ。


恐らく本家の人間である京介もまた、確実に儀式の準備を強いられることになるだろう。


「ったく、……まぁ、なんだ」


京介は、少し目を細くしながら肩の力を抜いた。


「…六年前の」


六年前の。


京介はそこまで言ってから言葉を噤んだ。


「…まぁ、何でもいいか」


何か思い至ったのか、彼はそのまま僕の隣をゆっくりと抜けていった。


「…ん、そういえば京、お前の連れの黒髪の女の子が、お前のことを探していたぞ」


「黒髪の…?」


黒髪で女の子となると、テティしかいないだろう。


「わかった、ありがとう京介」


「ああ、またな、京」


彼はそう言い残して、玄関の扉をくぐり抜けざまに閉じていった。


=================


「京くん」


僕がヴァイロンのみんなのために用意された座敷部屋に入るやいなや、待ち構えていたテティに、服の裾を摘ままれた。


「ついて来てください」


テティは何やら真剣な趣きのままで、僕の足取りをリードする。


そして、屋敷の縁側の、少し開けたひと気の無い所まで歩いてから、その場を伺いながらに立ち止まった。


「ここに人はよく通りますか?」


「いや、普段からあまりこの道を使う人は少ないよ」


「そうですか、ならここで話を済ませてしまいましょう」


テティはいつもと変わらない、座った瞳を流し目に、僕の顔を見上げて言った。


「…ローライトが、今、少し面倒な事になっているそうです」


僕の身体が、ローライトという言葉に反応したのがわかった。


「面倒事…?」


「はい、具体的には大天使であるフィンセント先輩が、大規模な魔術を行使したようです」


ガブリエラ・フィンセント。


ローライトの第一位ギルドノートルダムの隊長であり、五大憑き神の頂点である大天使をその身に宿す完全無欠の人物だ。


「ちょ、ちょっと待って、それをわざわざ言うってことは」


「はい、これは阻止しなければならない事項、……らしいです」


「………」


僕は呆気に取られて言葉を飲んだ。


『ローライトの全域を覆ってしまうほどの広域魔術さ、後神くん、何か怪し過ぎるほどに臭うとは思わないかい?』


突拍子もなく、視界の下方から聞こえてくる男性の声に、今度は驚く事も無く聞き取れた。


「…魔術の基礎は陣と贄、飛躍しているかもしれないけど、ローライトそのものが陣であり、贄でもあるなんてことは…」


『ありえるね、フィンセントならやりかねない』


「まさか…」


僕の背筋に冷たいものが走った。


「何のための魔術なのか、…大天使の記憶は覗けませんよねルルイエ先生」


『愚問だね、出来たら苦労はない』


ーしかし、と、ルルイエ先生は続けて言った。


『君達の隊長が、今ローライトいるんだ』


「セシリア隊長が、ですか」


『そう、憑き神の世にその人ありと謳われる彼女がね』


確かに、彼女が居れば大概の心配事は淘汰されてしまう。


それほどまでに、彼女一人の人間には実力があるのだ。


『だからぶっちゃけ、フィンセントの事は無視しちゃってもいいんじゃないかと思っているのが本音なのさ』


ルルイエ先生は、下心を孕んだ笑みを浮かべながらそう言った、…ような気がした。


「他人頼みですね、ルルイエ先生にしては珍しく」


『まぁね、セフィロトの木がある限り僕はヒエラルキーの頂点に君臨する大天使には勝てっこないわけだから、相手をするだけ無駄ってものさ』


「兄さん、それを言うなれば、セシリア隊長だって大天使には勝てない事になりますよ」


『まぁそうだけど、彼女なら何とかしてくれるような気がするだろう?』


ルルイエ先生は思いのほか投げやりにそう言った。


「じゃあ、ローライトはセシリア隊長に任せる、という事ですか」


『そうなるね後神くん、まぁ単に君の耳にも挟んでおきたくて君をここに連れ出しただけだから、あまり気にしないでくれたまえ』


「…しないわけにもいきませんが、今はどうすることも出来ませんしね」


そう、どうすることも出来ないのだ、僕らは今、極東の地にいるのだから。


「……そうだ」


これで話の節を切ろうとした矢先、先程の祖父と交わした会話の中に、星の記憶に聞いておきたいことがあるのを思い出した。


「星の記憶、やっぱりウシロガミの本体に干渉することは出来ないんだよな?」


『ルルイエの言ったとおり、憑き神はセフィロトの木に記されたヒエラルヒーを遵守しておるのでな、私の存在では力不足だ』


「なら、ウシロガミの通った形跡を洗い出すなんてことは出来ないのか?」


『……ふむ、軌跡をか』


『残念だけど、後神くん、その方法は以前に一度試したことがあるんだ、…それで結果は言わずもがな』


『ウシロガミの本体もやはり馬鹿ではない、余程の事が無ければボロは出さないだろう』


「……そうですか」


僕が少し低い声のトーンで俯くと、星の記憶がフォローをするように口を開いた。


『しかし、再び試してみる価値はあるだろう、ウシロガミも馬鹿ではないにしろ、今も動き続けているのだから』


「…やってくれるか」


『ルルイエの知人の頼みであれば』


「ありがとう、星の記憶」


僕らはそう交わして、すぐに座敷部屋に戻った。

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