『始まったか』
『始まったか』
昼食後にやって来た手洗い場で、兄さんは突然声を上げた。
「…どうしたんですか?」
私は少し小声になって、周囲に人の気配がないかを伺った。
『この前、僕はテティちゃんにまだ星の記憶を受け継かさない理由を言ったのを覚えているかい?』
「…私のためであり、兄さんのためである、というやつですか」
『そう、……京君にも指摘されたが、僕もただで生き残ったわけじゃないからね、それなりの理由と目的があるんだよ』
「……それで、何が始まったんですか?」
『…現状を把握出来るかい?星の記憶』
兄さんが星の記憶に問いかけると、何処からとも無く、スゥッと星の記憶が姿を現した。
『……ふむ、大天使がついに動いたようだな』
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「何者かが、私の魔術に干渉したようだ」
「…この魔法陣に気が付いた者がいるのか」
第一位ギルドノートルダムの隊長、大天使ガブリエラ・フィンセント。
そして、同じくノートルダムの熔岩龍、アルス・マグナ。
この二人は、城の壁上からローライトの街を見下ろしていた。
「恐らくただ者では無いだろう、念の為に確認して来て貰えるか、我が計画に、一点の曇りすらあってはならない」
「…了解だ、フィンセント隊長」
熔岩龍、アルス・マグナは躊躇無く壁上から飛び降りてしまった。
「…さて、招かれざる客は、ヘカトンケイルか、はたまたヴァイロンか」
大天使は、高く上がった太陽を背に、その影の内に表情を隠した。
「…どちらにせよ、もう引き返すことは出来無いのだがな」