「入りましょう、日本へ」
この船の舵を握っている船長から、もうすぐ陸に着くという連絡が入った。
そしてそれは、遂に日本に帰って来たということを差している訳であって。
「………もうダメだ」
この姿になってから早三日。
手鏡に写る自分の姿は、か細く可憐で、もうまさしく本当に、羅刹姫そのものになってしまっていた。
いやもちろん元の姿になるための様々な試みも企てたのだ。
結果的にその全てが無駄だったというだけなのであって、それ以上でも以下でも無く、語るまでにも至らない。
「…京くん、行きましょう」
椅子にもたれかかってうな垂れている僕に、テティは憐れむような瞳で呼び掛けた。
「………うん」
「大丈夫です京くん、元の姿に戻るために日本に来たんですから、今ここで嘆いていても何も始まりませんよ」
「…………うん、わかってるつもりではいるんだけど」
それでも、だ。
この姿を馴染みのある人達に見せるのは、かなり抵抗があるだろう。
口数の多い妹や従兄弟に、一体何を言われるかもわかったものではないのだ。
「(………でも、…行くしかないか)」
僕は頼りの無い拳で、空気を握りつぶした。
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「船長さーん!ありがとー!バイバーイ!」
「もたもたするなフィリー」
僕たちの後に続いて、フィリー先輩とヴィルヘルム先輩、そして、ニーナが船から降りた。
「………」
「京ちゃん!あそこに見える境界門を潜れば、京ちゃんの生まれ故郷だね!!」
「フィリー先輩、京ちゃんって呼ばないで下さい…!」
確かに沙汰から見ればそちらの方が正しい風に見えるかも知れないが、当人の僕からすれば狂気の沙汰だ。
「それにしても、日本は本当に厳重な国ですね、大陸の境界門からでしか入国出来ないなんて」
姿勢の低くした僕を横目に、テティは少し張った声色で、話題を繰り出した。
「…一応この境界門も僕が居ないと開かないようになってるしね」
「陰気な国だな、後神の国は」
「ヴィル、そんな言い方よくないよ、京ちゃんの故郷は聞くところによるとすっごいらしいよ」
「だから京ちゃんって呼ばないで下さいよ!」
そんなこんなで、今度こそ日本へと繋がる境界門の前に、ヴァイロンの五人が出揃った。
「私がこちらの世界に来た時と似たような雰囲気で、何だが緊張します…」
ニーナは一歩下がったところで巨大な境界門を見上げながら、そう呟いた。
「学園長の話が本当なら、この境界門は京ちゃ、……ごほん、京くんのご実家に繋がっているとのことだよ!」
「今度は本当だなフィリー」
「間違いないよ!」
「さぁ」
僕は少しの高揚を踏まえて、境界門の錠に手をかけた。
「入りましょう、日本へ」