「全てを巻き込んで、星の予言を覆す、ね」
「ヴァイロンのみんなはもう行っちゃったみたいね」
ヴァイロン隊長、セシリア・アンベルグローランドは、隊員の居ないヴァイロンの屋敷の応接間のソファに腰掛けた。
「セシリア嬢、ヘカトンケイルの話を鵜呑みにされるおつもりで?」
そしてその隣には、不詳の傭兵、ローレンス・ミッドフィールドが、付き添うように佇んで居た。
「そんなわけないでしょう、ローレンス。…まぁでも、彼もまた五大憑き神の一人であり、私達人間とは敷居の違う存在よ?基本的には尊ぶべきだと思うのだけれど」
「ようするに、受け入れると」
「……まぁ、そうなるわね」
先日の魔人襲来の折、ヘカトンケイルは私達二人に、ある計画の概要を説明した。
その計画とは、掻い摘んでまとめれば、歴史の軌道改変。
「全てを巻き込んで、星の予言を覆す、ね。聞いたような話だわ、シェイクスピアだったかしら」
「いえ、シェイクスピアにそのような物語はございません」
「あらそう」
「それ以前にこの話題を、このローライトの敷地内で交わすのは、少なからずの危険性が無きにしも非ずでは」
「それもそうね」
ーさて、と、セシリアは続けて呟いた。
「とにかく今は様子見よ、それでヘカトンケイルの言葉の真偽もはっきりするわ」
「…俺には、諸肌の策だと思いますが」
「それはそれで面白いじゃない、それに、貴方も戦場に入り浸るばかりじゃなくて、この街でたまにはゆっくりするといいわ」
「……御意」
セシリアは淹れたての紅茶をカップに注ぎ、砂糖を入れずにひょいと取り上げた。
「歴史が進むわ、400年前から停滞していた、この星の歴史が」
そう言って伏せた彼女の瞳は、ずっと先の世界を見据えていた。
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「二回殺されかけた…」
僕は震える脚をなんとか堪えて、客室のベットにその身を投げた。
「お疲れ様です京くん、今の今まで戦ってたんですね」
「…海での海賊王のチカラは、…陸上とは比べ物にならないって事だけわかったよ」
「流石ですねヴィルヘルム先輩、京くんでも敵いませんか」
『やーいヘタレ後神ー』
「兄さんは黙っていて下さい」
癇に障るが、確かにルルイエ先生の言う通りだ。
「…ルルイエ先生」
『なんだい後神くん』
「殺してしまう強さより、勝つための強さを手に入れるには、どうすればいいんでしょう」
僕はうつ伏せのまま、そう問い掛けた。
『キザなこと考えるねー、後神くん、守るための強さが欲しい的なアレと同じタイプの思考形態だ』
「星の記憶で手っ取り早くわからないもんですか」
『なぁ後神くん、今朝君に言ったところだろ?星の記憶で、ウシロガミに干渉することは出来ないんだってば』
「……そうでした」
『でも』
ルルイエ先生は、一つ間を置いてから、続けてこう告げた。
『たとえ干渉出来たのだとしても、その答えを容易に教えることはなかっただろうね、僕だって仮にも教師だから』
「…その言葉、拳銃の姿じゃなければ、もう少し威厳があったのかもしれませんね」
『はは、違いない』
その日の会話は、それだけで終わってしまった。
まぁ僕自身が、瞬きのうちに眠りについてしまっただけの話なのだが。