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『ウシロガミの目は誤魔化せないよ、テティちゃん』

「ウシロガミ!待って下さい…!」


僕達が地下牢を出てすぐ、さっきバッカニーナと出くわした場所と同じ、正面ロビーを歩いていた時、彼女が僕達の後を追うように走ってきた。


「もういいのか?」


「…お父さ……、いえ、リッチェル中将閣下が、あなた達について行けとおっしゃられましたので」


「…そっか。…そうだ、バッカニーナちゃん」


「は、はい」


僕は彼女と初めて会った時のような表面だけの笑顔ではない、零れでたような笑顔で言う。


「僕の名前は後神京、別に好きな名前で呼んでくれて構わないけどさ、ダイレクトにウシロガミと呼ばれるのは抵抗があるんだ」


「…そうなんですか、すいません、で、では、……後神さんと」


さ、さん付けか。


「じゃ、じゃあそれで」


同い年くらいの女の子に、後神さんと呼ばれるのにも、いささか抵抗があるものだな…。


「あともう一つあるわね」


突然、セシリア先輩は思い付いたように告げた。


「その喋り方よ、敬語で喋るとテティちゃんとキャラがかぶって、どちらかが没個性になってしまわないかしら」


「……は、はぁ…」


没個性なんて言葉、現実で聞いたのは初めてかもしれない。


「まぁそれはそうとしてバッカニーナ、バッカニーナねぇ、少し長ったらしくて呼びづらいわ」


「あ、名前に関してでしたら、幼い頃からよく言われるので、みんなはプライベートではニーナと呼んでくれています」


「ニーナか、可愛らしくていいわね」


よし、とセシリア先輩は続けて言った。


「ひとまず医療棟に向かいましょう、ヴィルヘルム君のお見舞いをしないといけないわ」


================


ヴァイロンのメンバーが、医療棟の病室で一同に介した。


「…は、初めまして、…フィオラルド・バッカニーナと言います」


「初めましてー!私の名前はフィリーブレッド!ヴァイロンの副隊長だよ!」


「…テティ・アイリス・ミルモットです、初めまして」


「それでこっちのベットの上で目を覚まさない馬鹿っぽい人がヴィルだよ~」


「…………、……海賊王…」


ニーナは、ベットの上で横たわるヴィルヘルム先輩の姿を見た途端に、再びうつむいてしまった。


「……」


それもそうだろう、彼女自身がとどめをさした訳ではないだろうが、海賊王との戦闘に参加していたのだ。

僕ならば、もう二度と会いたくはない相手である。


「……ニーナ、…」


その時、何故かセシリア先輩と目が合った。


「………?」


「…思ったのだけれど、ニーナちゃんの医療魔術で、ヴィルくんとテティちゃんを治してあげることなんて……出来ないのかしら?」


「…私の、医療魔術で、ですか?」


「そう、物の試しでかまわないわ、やってみてもらえるかしら」


「…は、はい、やってみます」


ニーナは、ヴィルヘルム先輩の身体の上に両手を浮かべ、小さな声で呪文のような言葉を並べた。


「…………」


「………!」


瞬間、柔らかな光が彼女の両腕を包みこんだと思えば、


「…………ッ」


あっという間に、その光は空中に霧散してしまった。


「痛って」


ーただそれだけだ。


「…え?」


「…………マジで痛てぇ、アキレス腱を切られたのがかなり効いた……って、あぁ?」


「…ゔぃ、ヴィル!?」


ほんの数秒で、ヴィルヘルム先輩の意識を取り戻してしまったのだ。


「…なんだ、耳元でわめくな」


「うわあああああ!!!ヴィルだああ!」


その場にいる全員が、目を丸くしていた。


「……あはは」


「…すごい、何が起こったのか、わかりませんでした」


「ヴィルーー!!!心配してたんだよ!」


「ベタベタするな気持ち悪い!」


………いや、全員ではない、彼女だけは、


「…うふふ、テティちゃんの怪我もすぐに治りそうね」


ヴァイロン隊長、セシリア・アンベルグローランドだけは、全てを見透かしたかのような瞳で、薄ら笑いを浮かべていた。


===========


このあと、ヴィルヘルム先輩は急遽退院することになり、肋骨にヒビが入っていると診断されていたテティも、ニーナの医療魔術でほぼ完璧に完治していた。


主治医であるミッシェル先生も、あまりの回復スピードに驚いてはいたのだが、「治ることに越したことはない」と、快く見送ってくれた。


そして、ヴァイロンの屋敷で一息ついた僕達は、ニーナの歓迎会、そして、ヴィルヘルム先輩の退院祝いとして、屋敷の専属の料理人が振舞う豪華な晩餐に舌つづみをうったのだった。


「なぁ、テティ」


学生寮の自室に戻り、二人分の紅茶をトレイに乗せて、僕は彼女に問いかけた。


「…なんですか」


「ルルイエ先生のことなんだけどさ、もしかして、まだどこかで生きているんじゃないか?」


「…どうしてそう思うんですか?」


「……それは」


確信は無いが、根拠はある。


「今の僕には見えないけど、テティの横に、星の記憶が居たのを見た」


「…………」


「普通、憑き神は憑依している媒体の命が尽きれば、憑き神自身も死んでしまうはずなんだ。…僕の場合は少し例外だけど」


テティはトレイから紅茶の入ったカップを手に取り、少しだけ口を付けた。


「………どうなんでしょうね」


テティは僕と目を合わさない。


『ウシロガミの目は誤魔化せないよ、テティちゃん』


「…!?」


突然、部屋のどこかから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「……兄さん」


『ちょ、鞄の中から出しておくれ、生き苦しいんだ』


「…か、鞄?」


テティはいかにも面倒くさそうに立ち上がり、壁にかけてあった鞄の中から、一丁の拳銃を取り出した。


『やぁ後神くん、久しぶりだね』


「…る、ルルイエ先生?」

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