「お前達の上官を、僕は殺してしまった」
数時間に及ぶ報告会の後、僕たちは学校長室をあとにした。
「大丈夫?後神くん。何時間も質問攻めをされるのは気が滅入ってしまったでしょう」
「…はい」
まぁこれも仕方のないことではある、今回の一件は、当事者が余りにも少ないのだから。
「うふふ、このあとはバッカニーナちゃんの歓迎会でも開こうかしら」
「………」
セシリア先輩は明るく振舞っているが、彼女はずっとうつむいたままである。
「……あの」
するとバッカニーナは、うつむきながら絞り出すような小さな声で呟いた。
「彼は、リッチェル中将は、生きていますか……?」
「…あぁ、確か、さっきの報告会でちらっと見せてもらった捕虜のリストの中に、フィオラルド・リッチェルという名前の人物がいたと記憶しているわ、もしかすると、その彼かしら」
「 よ、よく覚えていますね」
「記憶力はいいほうなのよ」
すると、暗く沈んでいたバッカニーナの表情に、無邪気な子供のような笑顔を浮かんだ。
「ほ、本当ですか!?」
===============
「リッチェル中将閣下‼」
彼女は、彼の姿が見えた瞬間に、走り出した。
「……バッカニーナ!?」
僕たちは、ローライトの城の地下に設けられた、地下牢にやってきた。
『…ちょ、こ、困りますセシリア殿…!!捕虜と勝手に面会など…!!』
「いいのよ、気にしないで」
『そうは言われましても…!』
僕は、衛兵を気の毒に思いながら、彼女のあとを追うように足を進める。
「…ウシロガミ…!」
「…また会うなんて、思わなかったよ」
僕は引きつった笑顔で、鎖に繋がれ、身動きの取れない巨体の彼を見下ろした。
「…貴様が彼女を、バッカニーナを、助けてくれたのか……?」
「いや、そうじゃないよ、羅刹姫とテティが、殺さずにいてくれたんだ」
「……そうか……」
リッチェルは、なんとも言えない、と言う風に口を噤んだ。
「…ごめん」
「…なんだと?」
僕は、無意識のうちに謝罪の言葉を並べていた。
「…いや、魔人将軍、お前達の上官を、僕は殺してしまった」
「……き、貴様はなにを言って」
自分でも、この言葉に何の意味も無い事はわかっているつもりだ。
しかし、僕は、僕自信を正当化したい。
謝罪を並べて、本当はしたくなかった、と、仕方がなかったのだと。
「哀れみを受けるつもりは無いぞウシロガミ!我々魔人軍に、死を覚悟せず任務に挑むような輩はいない!彼は彼で本望なのだ!」
「…………」
あぁ、そういうものなのだろう。
「……………だが、バッカニーナを、我が娘を殺さずにいてくれたことは、…感謝する」
「……え?」
すると、リッチェルの目頭に、熱い、透明な水滴が浮かんだ。
「……本当にありがとう……!」
「…お父さま…!」
すると、制服の袖が誰かに引っ張られた。
「後神くん」
「…隊長」
「後は親子水入らずってね」
僕とセシリア先輩は、バッカニーナとリッチェルを残して地下牢を後にした。