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「彼女の称号は、歴史、名実ともに、最強の憑き神だよ」

「(………あの赤いの……一体どこに向かっているんだ?)」


血のように赤いフードコートを纏った人影を追っているうちに、かなり山奥まで来てしまったようだ。

このままついて行けば、どこに辿り着くかわかったものではない。


…そろそろ足止めさせるべきだろう。


「………ウシロガミ」


僕がそう呟いた瞬間、薄暗い森の中が、真っ白な光に照らされて淡く光った。


「ッ!?」


すると、前方を走るその人影もこの光に気付いたのか、驚いたように立ち止まり、小柄な身体を草陰に潜める。


「隠れても無駄ですよ、僕はある程度の感知も可能ですから」


「………………」


僕がそう促すと、思いのほかあっさりと、その人影は姿を現した。


「…………ウシロガミですか」


しかし、今度は僕が驚かされてしうことになる。

フードを脱いだその人影の容姿は、


「………女の子…?」


ー人間の、女の子だ、歳はテティや僕とそう変わらない。


「…君は、…どこかの所属?そんなユニフォームのギルドは見たことがないけど……、あ、それと名前は?」


僕はわざとらしい笑顔を見せる。


「…私の名前はバッカニーナ、それ以外答えることが出来ません」


「…そうか」


………少しカマかけてみてもいいかもしれないな。


「………まさか」


僕は視線に僅かな殺気を込めて言い放つ。


「…海賊王を襲ったのは君……だとか」


「…!…海賊王はもう口が聞けるほどに回復したのですか」


「……………はは」


ビンゴ、だ。


僕の意地悪い予想も、的中していただきたくなかったものなのだが。


「(………しかしこの少女が、ヴィルヘルム先輩を……?)」


ーとてもそんなことが出来るようには思えないが………いや、見た目で判断するのは早計、か。


…どちらにせよ油断は出来ないのだから。


「大人しく捕まるか、抵抗して僕に殺されるか、二つに一つだ。どうする」


「……前者はありえないでしょう」


「…………そうか」


ー決まりだ。


次の瞬間僕は、間隔も無く、固い地面を思いっきり蹴った。


まずは間合いを詰めるのだ、後神家が代々子息に伝えていく後神流流護身術の基本は近距離戦にあるのだ。


「ッ」


揚々と突っ込んだのはいいものの、案の定向こうも何かの行動を起こす。


ー針?


憑き神の目でなければ捉えることも出来ないであろう、細く、銀色に光る針を放ったようだ。


それが、まさに目の前にまで迫っていた。


「…」


ーしかし針の一本程度、よけることは容易い。

僕は勢いを殺さずに彼女の左に回り込む。

そして、


「よっと」


そのまま赤いフードコートの襟を掴み上げてから、地面に勢いよく押さえつけた。


「…くぁッ」


彼女の小柄な身体は、案外容易く僕の腕の力に屈する。


「…抵抗しないで下さいね」


「…甘く、見るな、ウシロガミ」


ーそこで、僕はようやく左足から伝わる痛覚に気付く。


「ッ!?……針?…いつのまに…!」


左足だけではない、先ほどの針が全身のいたるところを捉えていたのだ。


「…重いっ」


痛みに身体の自由を奪われている隙に、彼女は僕の拘束を逃れて再び間合いをとる。


「…っ、くっそ!」


僕はウシロガミの力を全身から放ち、身体中に刺さる針を弾き飛ばす。


「…針が細過ぎて痛みを感じるのが遅れてるのか…?」


僕はすぐにバッカニーナと名乗った少女を睨みつける。


「(………もう傷口が閉じていっている……ウシロガミもまた化け物というわけですか……)」


================


「(………さて、困りましたね…)」


私がたった一人でウシロガミの相手をしたところで、致命傷をあたえるなど到底不可能に近い……。


「(………ーそれに)」


「ハァッ!」


「…くッ」


ウシロガミのこの間合いを詰めるスピードと、海賊王の喧嘩殺法とは違う、武術経験のある動き…。


「(……もう一度、リッチェル中将達と合流するべきですね)」


私はウシロガミが繰り出す連激を切り抜け、彼の肩を蹴って近くにあった木の上に飛び移った。


「ーウシロガミ、話があります」


「…なんだ、平和的なものだったら歓迎するよ」


「…平和的、そうですね、貴方次第ですが、非常に幸福的で降伏的な内容かと」


「……はは、上手く言ったつもりかよ」


「…くすっ、そうですね」

…ウシロガミは意外と平和ボケで面白い人なのかもしれない。


「正直言って私は貴方に敵いません、このままではただの消耗戦になってしまうのがオチです」


「…………」


ウシロガミは少し怪訝な表情を見せる。

こちらをまだ疑っているのだろう。


「…それで、話というのが、今、ローライトには私の仲間が憑き神を狩るために攻め込んでいます」


「……あの時聞こえた銃声か…!!…聞き間違いじゃなかったんだな」


「…銃声?…あぁ、確か私が森に入った直後くらいに聞こえましたね。恐らく貴方のお仲間でしょう」


どうやらウシロガミの中で合点がいったようだ。


「…それで、私は貴方にこう言います、仲間に合流させてほしいと」


「………どう意味だ?」


「平和的でしょう?貴方は仲間を助けに行ける、私はウシロガミから逃れ、仲間のもとに帰ることができる。……ーそれに、言ったでしょう」


私は笑顔でウシロガミに告げる。


「私でも、貴方と消耗戦を繰り広げるくらいのことはできると」


「………………」


…しかし、


「…はは」


私は甘くみていたのである。


「馬鹿なこと言うなよ、バッカニーナちゃん」


平和ボケしていたのは、私の方だったのだ。


「…なにッ!?」


ー瞬間、ウシロガミの纏う白いオーラのような光が、今まで比べ物にならないほどに、強く、暗い、白い光りに変わった。


「…ウシロガミ、閻魔王羅刹姫、後ノ神。彼女の称号は、歴史、名実ともに、最強の憑き神だよ、バッカニーナちゃん」


「ーあ」


まばたきをする暇も与えられず、私の視界は白い光りに包み込まれてしまった。


==============


バッカニーナと名乗る少女は、ウシロガミの力に充てられて気を失ってしまった。


「……困ったなぁ」


まさかこんな場所に女の子を一人、寝かせておくなんてこと出来るわけも無いし……。


「………」


いやしかし、ヴィルヘルム先輩をあんなことにした敵なのだぞ。


「…仲間がいるとか言ってたな」


その仲間とやらにキチンと回収してもらうべきだろう。

それに、ローライトが襲われているとなれば、ぐずぐずしている暇ではない。


「その途中で教徒隊の連中に連行されたら、その時はその時ってことで」


僕は小柄な彼女の身体を背負って、夕暮れの森を来た道を辿って走り出した。


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