表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/45

「…威嚇射撃です、次はありません」

『…ルルイエ、魔人が人間界に侵入した』


星の記憶がそう呟いたのは、学校長と話したすぐ後、ヴァイロンの屋敷へ向かっている最中のことであった。


「思っていたよりも早いな、どこの境界門からだ?」


『ガブリエラニーチェフの境界門』


「すぐ近く……いやもうローライトの街の中じゃないか!」


「兄さん、ヴァイロンの屋敷の前にそちらを優先すべきじゃないでしょうか」


「…あぁ、そうだね、そうするべきだ。よし、行き先変更!」


「…………」


ーおかしい、どうしてローライトの管理するニーチェフの境界門を出入りすることができるのだ?

ローライトの生徒でもなければ、人間でもない魔人が……。


「…魔人はそういう特性なのか、それともそういう能力を持った奴がいるのか…」


『恐らく後者であるぞテティ、境界門を出る時に何かの魔術式を構築している。…ふむ、魔人の数は随分と減ったな、たったの四人だ。おおかた海賊王を襲った連中だろう』


「ふふふ、面白くなってきた」


「まったく面白くありませんよ…兄さん」


私たちはローライトの中心街、ガブリエラニーチェフの境界門が構える中央大広場に向けて走り出した。


=================


「ふむ、境界門とは実に便利な代物だ。このローライトの地にこれほど早く辿り着くとは」


「リッチェル中将、命令通り私はここから単独行動へ移ります」


「あぁ、健闘を祈る」


「……では」


バッカニーナと呼ばれる女性は、レンガの敷石を蹴って姿を消した。


「よし、諸君、ここはもう敵の本拠地のど真ん中だ。心して憑き神の息の根を止めるように」


すると、魔人の一人が驚いたように口を開いた。


「………リッチェル中将、こちらに向かっている憑き神が…、なッ!これは、ほ、『星の記憶』!?」


「…………………なんだと?ルルイエ・アイリス・ミルモットの息の根は確かに止めたと聞いているが」


「…はい、それは間違いないはずです…私も星の記憶を討伐する際の戦闘に参加しておりましたので…、一体何がなんなのやら…!」


リッチェルは眉間にシワを寄せて思案する。


「(………一杯食わされたのか…?…あの将軍様が……いや、相手はあの星の記憶だ、ありえなくもない話なのだろう)」


「リッチェル中将、いかがなさいますか」


「………ふむ、人も集まって来たな、騒ぎになる前に……ふっ、もう十分騒ぎになっておるがな。ひとまず体制を立て直す、行くぞ」


「はっ」



=================


「兄さん!」


「あぁ奴らだよテティちゃん、皆同じ装束を纏っているから間違えようがない!」


大広場の中央に位置する、ニーチェフの境界門の前に立っていた彼らは、真っ赤なフードコートで全身を覆い、いかにも異質の空気を纏っていた。


「止まりなさいッ、私はローライト第三位ギルドヴァイロン第四席です!」


「…間に合わなかったか…」


私が制止を促すと、赤装束の彼らはこちらを凝視しながら、何やら会話を交わしているようだった。


「…………貴方たちが、魔人、ですか」


「……ほう、我々のことを知っているのか。…もしやと思ったが貴様は星の記憶の親族か?」


「…兄さん、貴方たちが殺したルルイエ・アイリス・ミルモットの妹です」


「………ふむ、確かに一杯食わされたようだ……、当人を殺せば憑き神も死ぬと報告にあったのだが…。それとも何かの小細工をしておったか、だな…………ん?」


すると、三人の魔人を率いる巨体の男が目を見開いて呟いた。


「……まさか今は貴様が星の記憶か……?」

「……」


この質問は予想出来ていた。


「……そうです」


「…なんと、将軍様は無駄骨を折ってしまわれたようだ」


巨体の大男は、大げさに飽きれたような手振りをする。


「動かないでください」


私は背中に背負っているライフルを腰までおろし、その銃口を大男の頭に狙いを定めた。


「遠距離銃をこの距離で腰撃ちか?…ちゃんと使い方は教わったのかね」


大男は薄ら笑いでそう応えたが、私はそれに対して僅かに口元を緩めて応じる。


「…私はいちいち照準を合わせたりしませんのでご心配無く。それよりもご自身の保身に走るべきかと」


「………?それはどういう」


そして私は間髪入れずに、ライフルの引き金を引いた。


「ッ!?」


火薬の炸裂する気持ちのいい銃声が、広場の隅々へと響き渡る。


そしてそれと同時に、大男の赤いフードに、10mmの綺麗な風穴が空いていた。


「…威嚇射撃です、次はありません」


「……いや、驚いた、流石に慢心していたようだ。相手はあの星の記憶なのだったな」


「(…流石僕の妹だテティちゃん!どんな場面においても、たとえどんな体制であっても、完璧な精度を誇るテティちゃんの我流銃術!…こればっかりはこの僕でも真似することが出来なかった代物だ)」


「…というわけですのでそこに大人しく座って置いてください」


「………?」


私がそう促すと、赤装束の四人は、呆気にとられたかのような表示を見せた。


「…いやだから、大人しく捕まって下さいね」


「………それは、どういう意味でだ?」


「言葉のままです、ここの学校長の言葉を借りれば、そのままの意味を汲み取ってかまわない、です」


「…………何かの策略か…?」


「…気を付けて下さい、リッチェル中将」


「…………?…」


ーここで私はようやく後ずさり、顔を青ざめた。


「…に、兄さん?私遠距離戦や多対多の戦闘は得意ですけど、一対一や数で劣る戦闘については…ほとんど役にたたないというか……なんというか」


「………え、兄さんに聞かないでおくれ」


「そ、そんな…何か手があるんじゃないんですか…?」


「……ふふ、今の僕に何が出来るっていうんだい……?」


『やはり止めた方がよかったようだ……、魔人の元へたった一人で挑みに行くなんて無謀極まりない愚行を…』


「…………ここはひとまず退散、です」


そして私は一目散に走り出す。


「ぁ、逃げましたよ、リッチェル中将」

「……………何がなんなのだ?」


「…あの、後を追うべきでは」


「…ふむ、よし、殺して構わない、星の記憶の討伐を第一とする」


「はっ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ