「…最悪貴方を殺しちゃってもかまわないのだけれど」
「ご機嫌麗しゅう、セシリア嬢」
「……うわ、ヘカトンケイルじゃない。お久しぶりね」
「ふふ、そう睨まないで頂きたい」
「セシリア嬢、この男は?」
「…ヘカトンケイルよ、ローレンス。五大憑き神が一人、境界門の門番ね」
ローレンスは腰に掛けた太刀に手をかけて牽制する。
「………門番か、お初にお目にかかる、俺の名前はローレンス・ミッドフィールド。ただのしがない傭兵だ」
「君のことは知っているよローレンスくん。ただのしがない傭兵ね、案外思慮深い人間のようだ。それに僕がここに来たのは君達と戦いに来たわけじゃあない、魔人どもに関してのことだ」
三人は瓦礫の山の上、一定の距離を保ちながら会話を進める。
「ふーん、まぁいいわ、獣王の時はフィリーちゃん達を助けてくれたそうだし。話は聞いてあげる」
「ふふ、そうしてもらえると助かるね」
「それで?魔人どもに関してってなによ」
「このデトロイト区から欧州に戻って、ローライトの憑き神達を守ってやって欲しいのさ、彼らがもし一人でも殺されてでもすれば困るんだよ」
「…困るってどう困るのかしら?」
「長年積み重ねて来た計画が丸潰れ、かな」
「つまり、私がローライトのみんなを守ろうとすれば、ヘカトンケイル、貴方の計画の手助けをしてしまうと?」
「そうなる」
「…はぁ、相変わらず食えない人……人ではないのだけれど」
セシリアは少し頭を畝らせる。
「…正直に言ってしまえば、私は貴方に言われなくとも欧州に帰って魔人どもから生徒たちを守ろうとは思っていたわ、星の記憶のルルイエくんが負けてしまったくらいの相手ですもの。…だから貴方のお願いは聞いてあげることになる」
「……」
ヘカトンケイルの表情は変わらない。
「でも、ローライトには大天使も居るし京くん達も居る。貴方のその計画とやらと、みんなを守るという二つの関係を天秤にかけて、もし貴方の計画の方が阻止すべきものなのだとすれば、…最悪貴方を殺しちゃってもかまわないのだけれど」
セシリアは白い歯を見せながらヘカトンケイルを睨みつける。
「それは問題ない、だが、彼らを守っていただくのが先だ。この件が収束すれば必ず僕の計画をセシリア嬢にお聞かせする、…と、言うよりも元よりそのつもりであった」
「…?そういうことなら私は別にかまわないのだけれど、…それにしても今日の貴方はいつもにまして何を考えているのかわからないわ」
「ふふ、それではこの話は平和的に成立したととってもかまわないのだろうか」
「そうね、かまわないわ」
ヘカトンケイルの口元が、ようやくいつものような不敵な笑みを浮かべた。
「セシリア嬢、一ついいでしょうか」
「どうかしたの?ローレンス」
「奴は、一人でも殺されてしまえば困る、と言っていましたが…、星の記憶はすでに殺されてしまったのでは?」
「うふふ、貴方には内緒よ、ローレンス」