「兄が殺されてしまったようで」
「久々のご実家はどうだったかな?」
「…それほどゆっくりしている暇はありませんでしたので」
「そうか、変わりないようでなによりだ」
仮面の学校長は、いつものように紅茶のそそがれたシルバーを片手に座っていた。
「…それにしても、テティくんの方からここにくるとは…、君の用件から訪ねようか」
「兄が殺されてしまったようで」
「……………………」
学校長の眉間に少しシワがよった、…ような気がした。
「…ふむ、あぁ事実だ、お悔やみ申し上げる」
「知っていらっしゃったのですね」
「逆に問うが、君はどこでその話を聞いたのかね」
「すでに情報は公開したのでは?先ほど偶然出会った友人が余りにも態度がおかしかったので、問いただしたところすぐに教えてくれましたよ」
もちろんハッタリである。
「…まぁ私のところに憑き神が一人でやって来た時点で、その予想はついていましたが……」
「…ほう、ならばミルモット家のアカシックレコードは今は君の中に?」
「はい、このことを伝えに参りましたので」
これもハッタリである。
「…そうか、ルルイエくん同様、君にも期待している。兄の分まで邁進してくれたまえ」
「…ありがとうございます」
そう言って私は一歩後ずさり、会話の節を摘む。
「では私はこれで……」
静かに振り返り、校長室の扉に手をかけた瞬間だった。
「ールルイエくん」
「ッ」
肩が一瞬で強張って固まるのがわかった。
「…どうかしたのかね?」
「…い、いえ、何でも」
「そうか、ルルイエくんともう一度紅茶でもすすりながら物議を醸したかったと思っただけだが」
「…そう、ですか、草葉の陰できっと兄もそう思っているでしょうね」
「そうか、そう祈ろう」
部屋を出る時、私の背中を見送る学校長の口元が、私には笑っているかのように思えた。
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「バッカニーナ、魔人将軍様のご様子はどうだった」
「順調に回復に向かっているそうですリッチェル中将、…それと冥府庁からの言伝です」
「なんだ」
「引き続き憑き神の討伐を続行、将軍様が復帰なされるまでその指揮権をリッチェル中将に委ねると」
「…………ふん、結局いいように使われる羽目になるわけだ。まぁしかしかまわん、今まで通り頭から叩いていく」
「ローライトには強大な憑き神だけで絞ってもまだ、『大天使』『騎士王』『溶岩龍』『ヴァンパイアロード』『邪眼』『妖精姫』…それと『ウシロガミ』が居ます。先遣隊によるとこの内、『ヴァンパイアロード』と『邪眼』は今、ローライトを離れているそうですので、今が狙い時かと」
「…大天使、騎士王、溶岩龍、妖精姫、ウシロガミか…」
「中将はいかがなさいますか」
「私はチラビッツ、ドゥークス、モーランドの三人を連れてローライトに向かう。…大天使の相手を出来るのは恐らく魔人将軍様だけだ、大天使に勘付かれる前になるべく多くの憑き神を行動不能くらいには追い込もう」
「はい」
「そして、バッカニーナ、君には今ローライトに居ない憑き神の捜索にあたってもらいたい」
「了解しました」
「…では皆を集めろ、すぐに出発だ」