『人間は神に畏れを抱くくらいが心地よいものだ』
「兄さん、ありましたよ」
テティは瓦礫に埋れていた一丁の拳銃を、丁寧に取り上げた。
「ローライトの連中に回収されてなくてよかったよかった、ありがとうテティちゃん。……あとはー」
『アイリス・ミルモット、ルルイエの妹のテティだな』
「…!」
「やっぱり待っててくれてたのかい、星の記憶」
その声の主に姿は無い。
『…あぁその拳銃、ルルイエか、…そうか、ふむ…なるほど。錬金術が成功したか、我が記憶に新しいページを追加しなければならないようだ』
「ふふふ、また君の上を行かせてもらったよ」
『……そのようだ』
なんとも言えない、不気味なやり取りである。
この場所に二つの足で立っているのは私だけ。
だのに、私以外の二人が会話をしているのだから。
『……で、…ふむ、なんだ、テティに私を憑かせに来たのではないようだな』
「あぁ」
『…なるほど、確かにそうだ、…あぁ、ルルイエらしい考えだ』
「だろう?」
『…ふむ、ならばそうするがよい、私はまだルルイエの憑き神なのだから』
「ありがとう、星の記憶」
…………いや、会話はしてない。
というよりも会話として成り立っていないのか。
「兄さん、…あの」
『あぁ、テティは私と会話するのはまだ…二度目だな、ならばそう考えるのも頷ける、当然だ』
「……『星の記憶』で私達の考えを読み取っているのですか」
『その通り』
「まぁ星の記憶、僕の考えは大方把握したろ?念のためにテティにも説明しておくよ」
『そうするがいい』
「ーよし、テティ」
「…はい」
「僕はまだテティに星の記憶を継がせようとは思っていない……いや、まだ継がせたくはないのさ、正直言っちゃうとね。それにこれは僕のためであってテティのためでもある」
兄さんのためであり、私の為でもある……?
「まだ何の根拠も、星の予言で知らされているわけでもないんだけど、テティが星の記憶の使い手にならなければいけない時が必ず来る。…その時のためだよ」
「……」
「それで、テティにはこれからこの僕、ルルイエは死んでしまったものとして扱って欲しい。ローライトの連中はもちろん、…ヴァイロンのみんなにもね」
「…どうしてですか」
「都合がいいのさ、そっちの方が」
「…そうですか」
どうして都合がいいのか、そこまで言及する気にはなれなかった。
兄さんはいつも正しいのだから。
間違っていたことなんて、一度もない、だから、疑いなんてできるわけがない。
「…まぁ、後はー、そうだな。わかっているとは思うけど、今の僕はウシロガミに触れられてしまうだけで死んでしまうからね、それだけ気を付けて欲しい」
「…わかりました」
「そのくらいかな、星の記憶からは何か言いたいことはあるかい?」
『私はミルモットの人間のために動くのであれば何も厭わない。ルルイエの考えに従おう』
「はぁ…そう僕に従順にする必要は無いといつも言っているだろう?まったくやめて欲しいね、僕には君の考えていることなんてわからないんだからさ、正直気味が悪いよ」
『それでよい、人間は神に畏れを抱くくらいが心地よいものだ』
「そういうものなのかねー」
さてっ、と、兄さんは背伸びをするように言った。
「そろそろローライトに戻ろう、今頃僕の仇を討とうとみんな必死になってくれているだろうからね、なんか悪い気もするけど。それに魔人の情報も渡しておきたいし、もちろんテティを介して、だけどね」
「…はぁ」
みんなにどんな顔をしていればいいのやら。