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「しかしそれは無用である」

「セシリア嬢、お聞きになられましたか」


「知っているわ、ルルイエくん相変わらず人を騙して弄ぶのが上手みたいね」


「……は、それはどういう?」


「うふふ、貴方には内緒よローレンス」


ヴァイロン隊長、セシリア・アンベルグローランド。

二人の憑き神をその身に宿し、憑き神使いにその人ありと謳われるローライトが生んだ最大の逸材。


そして数々の戦場に赴いては輝かしい戦歴を残していき、いつしか生ける戦略兵器と呼ばれる伝説の傭兵、ローレンス・ミッドフィールド。


「それにしても、少し刺激しただけでこの騒ぎ……ねー、地上の悪魔も底が知れているわ」


「いささかやり過ぎた気も致しますが」


「相変わらず小さい男よね、ローレンスって」


「…は、精進致します」


「まぁ貴方のおかげで第3次西方旅団は恐らく旧デトロイト区の制圧という目的を達成させるわ、王国軍も初めからローライトに尻尾を振っていればこれほど多くの犠牲を払うことも無かったものの……馬鹿な王様だこと」


「プライド、というモノでございましょう」


「わかっているわ、くだらない、下々の命を何だと思っていらっしゃるのやらね」


「……しかし、このような地獄を開拓する意味など…本当にあるのでしょうか」


「さぁね、王国は日本を恐れてるのよ。前歴時代の遺産を多く保有する日本が羨ましいんでしょ、だから王国は前歴の遺産が僅かに残っているこのアメリカ大陸を欲してる。まったく、本当に情けなく感じてしまうわ」


「確かセシリア嬢が隊長を務めるギルド、ヴァイロンと言いましたか、そこに日本人の少年が新しく入ったと以前聞き及んだのですが」


「いつの話よそれ」


「…は、申し訳ございません。東方開拓師団から帰還してすぐにこの第3次西方旅団に参加したもので、この数ヶ月戦場に身を投じ続けておりますゆえ、世間話など耳にすることがありませんでしたので」


「ふーん、そのわりにはルルイエくんの話はすぐ耳に入ったのね」


「…私と奴には少しばかりの因縁がございますので」


「へぇ、初耳。ルルイエくんとローレンスにそんな接点があったなんて」


「……昔の話です。…セシリア嬢、今はそんなことよりも」


「そうね、旧デトロイト区の制圧と奪還。失敗はせずとも計画の遅れは英雄譚の汚点になってしまうわ」


「行きましょうか」


「ローレンス、これみよがしに私をリードしようとしても無駄よ」


「…は、出過ぎたことを致しました」


===================


「京くん、これで全員だよ」


「…わかりました」


城の最上階に位置する大会議室には、ローライトが誇るギルドの中でも錚々たるメンバーが顔を揃えていた。


第五位、クィルラ。

第四位、リブロブリッジ。

第三位、ヴァイロン。

第二位、教徒隊ウィンガル。

第一位、ノートルダム。


これらが、ローライトの中でも特に力を持ったギルドである。


「自己紹介と顔合わせは昨日行いましたので、さっそく本題に入りましょう」


僕はフィリー先輩と立てた計画通りに話を進める。


「ウシロガミ」


進めようとしたのだが………。


「………何でしょうか、フィンセント先輩」

「意見だ」


ガブリエラ・フィンセント。

第一位ギルド、ノートルダム隊長にして五大憑き神の頂点、大天使をその身に宿すローライトの第一位である。


その彼が、口を挟んできたのだ。


「この場に相応しい有益な内容でしょうか」


「有益かどうか、それはわからないがこの場で話す価値はあるだろう」


僕はフィリー先輩と目配せをして合図をとる。


「…」


どうやら構わないようだ。


「…………どうぞ」


「ローライトにおけるギルドの本質は、比較的少数の集団による行動が生むケースバイケースの対応力と俊敏さにある。しかし我々ノートルダムは参謀であったルルイエが殺されてしまったので、その集団における強みを欠如してしまっているのだ。だから、この会議は我々ノートルダムにとっては都合のいい、…いや、むしろこの会議自体がノートルダムのためと言っても過言ではないだろう」


それは、そうだ、その通りである。

全ては学校長の計らいなのだから。


「しかしそれは無用である」


フィンセントの言葉で、会議室が少しだけざわついた。


「…無用、ですか」


「いや、言い方が悪かったか、はっきり言って下位のギルドなど我々にとって邪魔にしかならない、ルルイエの代わりになるものなど存在しえないのだから。聞くところによれば、ヴィルヘルムも療養中なのだろう?」


フィンセントの視線がフィリー先輩を捉える。


「…いつ回復するか見込みはないよ、フィンセントくん」


「そうか。ならばなおさら、この会議に価値は無い」


「大天使様~!それはあんまりじゃないでしょーか!」


場に馴染まない浮ついた声を発したのは、第四位ギルド、リブロブリッジの隊長である、アイリーン・ハーバードだ。


「あんた達ノートルダムが快適に任務をこなせているのは、下々のギルドのみんながちゃんと根回ししてしてくれてるからなのよ?それをぞんざいに扱ってくれちゃってさー、なんていんか、カチンときちゃうんだよねー」


「ちょ、ちょ、アイリーンちゃん…!」


フィリー先輩が慌てて止めに入ったが、どうやら間に合わなかったようだ。


「リブロブリッジの妖精姫だったか、貴様の言いたいことは理解しているつもりだが、納得するつもりはない」


「うぎゃー!ムカつく!そのしれっとした態度がマジでムカつく!」


「事実である」


「あッ今鼻で笑った!絶対笑った!」


「…………………」


しばらくすると、いたるところから口々に愚痴が上がり始めた。


「…み、みやこくん」


「……………はぁ」


飛び交う罵声、擁護の声と批難の声が入り乱れて、非常に耳障りである。


思わずため息をついてしまう有様だ。


会議はまだ始まったばかりなのに、もう最終手段を使わなければならないのだろうか。


「…………」


僕らは目配せをして意思を疎通する。


「…い、いいんじゃないかなぁ」


「…さ、三分待ってみましょう」


三分後。


「…………はぁ」


そう、僕には奥の手があるのだ。


正直、この会議が静粛に執り行われるなど初めから考えてはいなかった。


必ずこうなると予想できているのにも関わらず、策を講じないわけがなかろう。


「……スゥ」


僕は静かに息を下腹に溜め込み、戦場の時の感覚を身体中に張り詰める。


ーそして、


「「「!?」」」


僕を中心にして発生した風圧によって、近くに灯されていた蝋燭が消えてしまったが、室内の明るさは以前よりましていた。


「静かにして下さい」


そう告げる僕の髪色は、白く、その身体には純白よりも穢れのない光を纏っていた。


百鬼王羅刹姫、後ノ神。


「…それがウシロガミか」


一気に静まりかえった会議室に、フィンセントの声が密かに響いた。


「生産性の無い議論はこの場に相応しくありません、…今は各ギルドがどのように連携し、目的を達成するのかを決める必要がありますので、それを踏まえた上でなおこの場を乱すようでありましたら即刻退場とさせていただくことも可能ですので」


うっ、ガラじゃなさ過ぎて吐き気が…。

僕はこういうのに慣れていないのだ。


…初めは波長の合わない議論が続いたが、次第に本来の目的を確立していき、会議が終わる頃には全員の意志は石のように固まっていた。


「ふぅ、お疲れ様~みやこくん。みやこくんのおかげで凄く助かったよ!」


「いえ、フィリー先輩こそお疲れ様でした」


沈黙とは違う静寂が、会議室の中に満ちていた。


「………医療棟に寄ってから帰りましょうか」


「…そうだね、もぅヴィルってばすぐ元気になってくれればいいのに」


フィリー先輩は呆れたように呟くが、今にも昨日の泣き顔が覗いてしまいそうだ。


「(…………)」


僕の役目はひとまず終了だ。

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