序章 旅の夜明け
昭和68年。
バブルも弾けてまもなく、世の中の‘旅”への関心が高まっていた。
最初は、ほんの小さな、すぐ廃れるような、単なるブームだと思った。
ワイドショーで取り上げられてから、旅がブームであることが認知され始める。
旅番組は高視聴率をマークするようになってからは、もはやゴールデン枠に旅番組を持たない局はなくなった。
年が明けても衰える様子はまるでなく、ヨーロッパ史の大航海時代の始まりをも超える社会の冒険意欲は、暗く沈んだ日本経済に希望の光を差し込むかのように思えた。
しかし、昭和69年が始まってから1ヶ月後、豪雪地帯の上越国境で大規模な雪崩が発生。付近は線路と幹線道路が集まっており、また首都圏から日本海側へ抜けるメインルートでもあったことから、多くの尊い旅人の命が失われた。
冬の日本海に旅情を求めて旅立った旅人たちが、関東さえ抜け出すことができず、列車に乗ったもの、車に乗ったもの、バイクに乗ったもの、自転車に乗ったものたちが、旅の中で命を落とすことになった。
以後、ブームは沈静化した・・・。
昭和70年代に突入すると、自粛モードの影も薄れ、今度は学生を中心として‘旅”が、活発に行われるようになった。
大学生を中心に、徒歩あるいは自転車を使うスタイルで、どんどん人気が加速してきた。
高校生にもブームが来る頃には、もうすでに昭和69年の事故以前の水準を、はるかに超える社会現象になってた。
昭和72年、もはや旅は単なるブームではなくなっていた。
次号から、主人公が登場し、旅が始まります。
いつになるかはわかりませんが、できるだけ早く次号を投稿する予定です。
乞うご期待。