第8話 強大なシリオード軍
※コマンダー・アレイシア視点です。
哀しい運命。
哀しい本能。
人は差別の生き物なのだろうか――?
“自然の魔女”も“人工の魔女”も、扱いは変わらない。
哀しい悲劇は繰り返される――。
【シリオード大陸 雪原】
シリオード大陸。中央大陸の北に位置する白銀の極寒大陸。雪原と雪山の世界。人の生きて行けぬ世界だった。
雪で覆われた丘を越え、黒い装甲服を着た女性兵士が大勢現れる。両手にアサルトライフルを握り、向かって行く。
迎え撃つのは黒い服に白い防弾チョッキを着たシリオード帝国軍の兵士たちだった。彼らは特殊な形をしたハンドガンを握って迎え撃つ。
「来たぞ! 連合の魔女だ!」
「殺せ! 一人残らず!」
「あれは人間ではない! 機械が生んだ人間のまがいもの!」
帝国軍の兵士はハンドガンの銃口を私たちに向ける。発砲。飛んでくるのは銃弾じゃない。薄いシールドに覆われた黄緑色に光る燃料弾だった!
それは着弾すると、爆発する。それだけじゃなく、四方八方に燃料が飛び散り、小さな爆発を引き起こす。私の姉妹ともいえるクローンたちは焼かれ、また吹き飛ばされる。
「怯むな!」
「私たちの力を見せてやれ!」
複数のデミ・フィルド=トルーパーがアサルトライフルを持ち、シリオード帝国兵に向かって飛び込んでいく。
だが、その動きは素早いとはいえないものだった。雪に足をとられ、上手く歩くことが出来ないのだ。どうしても遅くなってしまう。
シリオード兵は雪に慣れていた。軽快な動きで近づいてくるクローンたちを殺していく。次々と撃たれ、斬られ、雪に鮮血をまき散らしながら倒れる。
「コ、コマンダー・アレイシア中将ッ!」
雪の上に倒れたクローン兵が私に助けを求める。彼女のすぐ後ろにいるのはシリオード兵。彼は手に持っていた剣で彼女の背中を貫く。
私は剣を引き抜き、彼の首をハネる。だが、その瞬間、私は吹き飛ばされる。すぐ近くで爆発。恐らく、燃料弾が着弾したのだろう。緑の光が見えた。
「クッ……!」
真っ白な地面に灰色の雲が立ち込めるシリオード大陸。中央大陸は夏だというのにここはまだ冬だった。寒さで体力も奪われていく。
「う、うわっ!」
「やだぁッ!」
「助けて!」
クローンたちの叫び声が私の耳に入る。黒いシリオード兵は燃料弾や剣で次々とクローンを殺していく。全く容赦なかった。
私は彼女たちから目を背け、走り出す。敵の総指揮官を殺す! そうすればシリオード軍は一気に乱れ、崩れるハズだっ!
敵の指揮官イプシロン=シリオードはすぐに見つかった。まだ若い女性だった。白銀の髪の毛に赤い目をした女性。彼女はシリオード兵と同じく黒の服に、胴体には白い装甲を纏っていた。違うのは紫色のマントを羽織っている部分だ。
「イプシロン!」
「…………!」
私は剣でイプシロンを突き殺そうとする。だが、彼女の動きは早かった。素早く剣を引き抜き、私の防ぐ。
「コマンダー・アレイシア。人工の魔女の親玉ね。機械によって生まれた歪んだ生き物」
イプシロンは冷たい笑みを浮かべて言う。彼女はさっと私から距離を取ると、剣を投げ捨てる。どういうつもりだ……?
「フフフ、アナタの首を引き抜き、ケイレイトに送れば彼女は兵を撤退させるでしょうね。彼女は逃げるのが好きだから」
そう言うと、イプシロンはこっちに向かって走って来る。剣もなにも持っていない。なに考えてるんだアイツは。私は勝利を確信し、剣を握る。あの女の首をハネれば一気に優勢に立てる。逆転勝利間違いなしだ。
だが、それは間違いだった。
「クローン、“特殊能力者”って知ってる?」
「……えっ?」
こっちに走って来るイプシロンの身体は急に半透明の紫色に変化する。ゼリー状の身体にあっという間に変化すると、腕を伸ばし、大型化した手で私の身体を包み込む。そのまま持ち上げられ、雪に叩き付けられる。
「…………ッ!」
身体に紫色のゼリーがへばり付く。毒液に触れた部分から鋭い痛みが走る。しかも、毒液から発せられる煙が呼吸と共に身体に入って行く。頭痛と眩暈がし出す。クソ、なんだこれっ……!
「クッ、あぁッ……」
「苦しい? そうでしょうね。でも、それもすぐに収まるわ」
雪の上に倒れた私の目の前にイプシロンが歩いてくる。その手には剣が握られていた。ク、クソッ、こんな所で……! イヤだ、死にたくない!
「クローンの親玉も呆気ないわね。もっと私を楽しませてくれるかと思ったのに」
「……ぁ、ぐっ……」
身体が上手く動かない。毒が私の身体を急速に蝕んでいく。どうなってんだ。コイツ、ただの人間じゃない。間違いなく、“毒の特殊能力者”だっ……!
「…………!」
突然、イプシロンは素早く後ろに飛ぶ。彼女のいた場所にブーメランが突き刺さる。それと同時に大勢のクローン兵が私の後ろから現れる。
「あら、敵の総指揮官もご登場かしら?」
イプシロンが不気味な表情を浮かべる。彼女は両手を紫色のゼリー状で出来た巨大なコウモリの翼に変化させ、飛び上がる。
クローン兵たちは空に飛んだ彼女に向けて一斉に射撃する。その間に1人の女性が私を担いで走り出す。
「せ、戦況は……」
「全部隊シリオード軍に圧倒されてる……。撤収しよう」
「……ケ、ケイレ、イト将軍……」
私を担いで走るのはケイレイト将軍だった。後ろから悲鳴と絶叫が上がる。みんなが殺されている。あの毒のパーフェクターに……。
遠くなる意識。泣き叫ぶ姉妹の声が頭に響いた――。
◆パーフェクター
◇1000万人に1人の割合で存在する先天性の特殊能力者。
◇ある特定の分野の魔法を使える(イプシロンの場合は「毒」)。




