第6話 暗殺
【ヴォルド宮 ティワード私室】
私とテティスはそっと広い部屋の奥へと進んでいく。部屋の奥にはベッド。そこで寝ているのは連合政府グランド・リーダーのティワード!
私はそっとナイフを取り出す。心臓を一突きにすれば、彼の命はおしまい。私たちサキュバスを奴隷にしようと企む連合政府は崩壊する。
だが、部屋の中央まで来た時だった。いきなり警報が鳴り響く。な、なんで!? 姿は見えないハズなのに!
「……何事だ?」
そう言っている内にティワードはベッドから起き上がる。黒い刃をした大きな剣を手に握り、辺りを警戒しながら見渡す。
どうやら私たちの姿は見えていないようだった。……そっか、機械に見つかったんだ! 生命反応を感知する機械がどこかに……!
「セイレーン、行くよ!」
テティスが剣を引き抜いてティワードに飛びかかる。私も剣を握り締め、一気に走り出す。こうなったらさっさと片付けるだけっ!
ティワードはベッドの上で辺りを見渡しているだけだったが、そっと目をつぶる。テティスの剣が彼の胸を貫こうとした時だった。
「そこか」
「えっ?」
ティワードは目を開き、テティスの剣を握り締めた! バレた!? いや、でもまだ私がいる……!
でも、彼は既に私の存在を感知していた。片手をこっちに突き出す。その瞬間、紫色の電撃が飛んできた! 私はそれを正面から思いっきり喰らって吹っ飛ばされる。
「あうっ!」
「きゃぁっ!」
テティスも同じようにして吹き飛ばされる。私たちは入ってきた扉のある方向に吹き飛ばされ、壁に背中を打ちつける。
「わたしの命を狙う者が現れたな。だが、わたしを甘く見ない方がいいぞ!」
ティワードはそう叫ぶと黒い刃をした剣を大きく振る。黒い霧が一気にそこから広がり、瞬く間に部屋を包み込む。だが、それも一瞬のことだった。黒い霧が消える。
「…………! セイレーン!」
「ちょ、そんな大きな声出したら――」
そこまで言って気付いた。テティスの姿が普通に見えている。私の姿もだった。しまった、さっきのは透明魔法を打ち消す魔法だったんだ!
「ほう、サキュバスのセイレーンではないか。それがディオネの“返答”か」
「クッ……」
私は剣を握って立ち上がる。ディオネ女王陛下、申し訳ありませんっ……! こうなったら、ティワードを相討ちでも殺すしかない。もし、私たちが逃げ出せばティワードはアポカリプスに軍勢を差し向ける。私たちじゃ連合軍に勝てない!
「サキュバスは人間ではない。討伐される魔物だ」
「あんたみたいな人間が6年前、私たちの仲間を殺したんだっ」
「仇を取りたいのなら国際政府首都に行くべきだったな」
「……あの時の女性指揮官フィルドはもう死んだ。次はお前だ。私を拷問して奴隷にしたこと、絶対に許さない」
私は翼を広げ、ティワードに素早く近づいて行く。テティスも一緒だった。2人でかかれば彼を刺せる!
でも、その考えは甘かった。ティワードは黒い剣を振る。黒い魔法弾が何発も飛んでくる。ああ、マズイ、破壊弾だ!
私とテティスは素早くそれを避ける。破壊弾はコンクリートの壁にぶつかり、砕いていく。まるで砲弾を撃ち込んだかのような穴が開く。
「ティワード総督閣下!」
扉が開かれる。レザースーツを着た女が入ってくる。連合軍七将軍のケイレイトだ! さっき廊下ですれ違った女性! そして、彼女の後ろには何十人ものスーパー・フィルド=トルーパーが待ち構えていた。
「降伏するがいい、サキュバス王国の使者よ」
「誰が!」
私とテティスはお互いを見て頷く。そして、ティワード総統の後ろに広がるステンドグラスに向けて黄色い電撃を飛ばす。ステンドグラスは粉々に砕ける。
「クッ、なにを……!」
ティワードは砕け落ちて来るステンドグラスから身を守る。その隙に私とテティスは物理シールドを張り、翼を勢いよく動かして夜のヴォルド宮から飛び出す。すぐ近くにはサキュバス王国の飛空艇が飛んでいた。
「テティス!」
「分かってるよ!」
私たちは飛空艇に飛び込む。中にはアルテミスが待っていた。彼女は私たちが飛び込んでくるや否やイリスに出発するように命じた。飛空艇はすぐにヴォルド宮から離れて勢いよく空を飛ぶ。
「セイレーン、暗殺はどうなった?」
「ごめん、失敗したっ……」
私は膝と手をついたまま絞り出すようにして言った。これでみんなに迷惑がかかる。ティワードは兵を王国に向ける。
「そうか……。ひとまず、聖地に帰ってから今後のことを決めよう。今は休んで」
「ごめんっ……」
私はぐっと拳を握りながら言った。復讐を果たせなかったのは悔しい。でも、それ以上にこれでみんなに迷惑がかかるとうことを考えると胸が張り裂けそうだった。
連合軍が大軍を差し向ければ、私たちは確実に負ける。科学力と軍事力で圧倒的な差がある。例え勝っても大きな犠牲が出る。
……また、繰り返されるのかっ。6年前と同じように私たちは討伐されるんだ……! 人間は異質な生き物を殺すのが好きだから、私たちはみんな殺されるだろう……。




