第4話 連合政府
【連合政府首都ティトシティ】
コスーム大陸東部に建てられた連合政府首都ティトシティ。美しく光を反射する白色の多い建物群。無数のビルといった建物が立ち並び、建物同士の間には小さな歩行用道路がたくさんあった。また、建物と建物の間にある空間には無数のエア・カーが飛び交っていた。
「す、すごい……!」
テティスは南の大陸から出た事がなかったらしく、あまりの街の規模に驚いていた。さっきからずっと窓の外を眺めている。
ここよりも遥かに凄いのが政府首都グリードシティだ。ここの何十倍もの規模がある。というかあそこは異常だ。発展し過ぎ。
「アルテミス隊長、連合政府の軍事総本部が見えてきました」
「よし、指定の場所に着陸するんだ」
メンバーはアルテミスというサキュバスを隊長に、パイロットのイリス、護衛のテティスと私。合計で4人だった。アルテミスとイリスは昔はコスーム大陸にいたらしい。
私たちを乗せた小型飛空艇は軍事総本部の内部着陸上に入ると、後ろ向きに着陸する。後ろの扉が開く。
「行くよ」
アルテミス隊長を先頭に私たちは飛空艇の後ろから出て行く。私はしっかりとローブを被る。元々、私は連合政府所属だった。裏切って逃げ出しているのだから、顔がバレたらヤバいかも知れない。
飛空艇の外では連合政府の人間が出迎えていた。周りには黒いレザースーツを着た6人ほどの女性兵士……。
「よくぞお越しいただけました。わたしは連合政府リーダーの1人パラックル。どうぞよろしく……」
「私はサキュバス女王陛下の代理使者アルテミスに御座います」
「ささ、ティワード総統がお待ちかねです。どうぞ、奥へ……」
連合政府リーダーの1人――パラックルはそう言うと、さっさと進み出す。私たちも後に続く。周りを固めるのは黒いヘッドアーマーを被り、細長いサングラスをつけた女性兵士たち……。
連合政府はグランド・リーダーの下にリーダーが15人もいる。パラックルもその1人だ。肩書きは連合政府リーダーの1人だが、名前ほど超重要な人間じゃない。
「連合政府の状況はどうですか?」
「フッフッフ、そこそこだな」
「あら、そうなんですか。以前、連合政府リーダーの1人――クラスタ将軍と会談した時は圧倒的優勢と聞いていましたが」
「クラスタは裏切りおったよ。全く、恥知らずの愚女め」
パラックルは吐き捨てるように言う。
クラスタは連合政府で最も有能な将軍だった。あと一歩というところまで国際政府を追いつめた。でも、連合政府本国は彼女のことを脅威と見た。あまりに有能過ぎたんだ。結局、彼女は失脚させられ、その地位を失った。
「デスピア、ララーベル、コメットの死で連合政府リーダーは4人も欠けたよ。いや、本当に残念でしたよ」
そう言うパラックルの表情はどこか嬉しそうだった。そりゃそうだ。ライバルが減っているのだから。これが連合政府の実態。みんな自分のことばかり考えて、常に他の人を妬んでいる。
私たちは建物から広大な中庭に出る。明るい陽射しが降り注いでいる。向かう方向にあるのは大きな建物。ヴォルド宮だ。
「一時期、連合政府の勝利は時間の問題と言われたが、今やほぼ互角状態。これには頭が痛い」
「それはそれは……」
「国際政府の名将パトラーを討ち取ればひっくり返るでしょうが……」
「そうですか」
「サキュバス王国の兵士は超人。パトラーの首を取ればその名は世界中に響く。これほど素晴らしい事もない」
パラックルの見え透いた狙い。人望高きパトラーの暗殺をやらせようとしている。そんな手に乗るか。私が生きている限り、絶対に連合政府には加担させない。
そんなことを会話をしている間に私たちはヴォルド宮に到着した。灰色の扉が左右に開き、私たちは中へと進んでいく。
奥行きのあるヴォルド宮はやや暗かった。灰色の床と壁。高い黒の天井。奥にはティワード総統専用の大型コンピューター。その更に奥にある壁には、色の付いた大きな連合政府の紋章。ステンドグラスだ。
私たちは奥へと歩いて行く。左右に並ぶのは黒いレザースーツを着た女性兵士。彼女たちはスーパー・フィルド=トルーパーと呼ばれるクローン兵士だった。6年前、私たちを虐殺した女性指揮官のクローン……。
「ティワード総統閣下、サキュバス王国の使者――アルテミスに御座います」
「……援軍の件はどうなった?」
「大変申し訳ありません。近頃、ミュータント・インキュバスの出没に伴いまして、そちらの討伐に兵を割いております故、連合政府に兵を送ることは出来ません」
アルテミス隊長はそう言い、ミュータント・インキュバスの詳しい説明と援軍を送れないことへの謝罪をする。
「なるほど……。ミュータント・インキュバスとは興味深いな。捕まえることは可能か?」
「不可能ではございませんが、多数の犠牲者が出るでしょう」
「そうか。では10万の兵は諦めよう。だが、条件をつける」
「なんでしょう?」
「そのミュータント・インキュバスを捕えて連れてこい」
ティワードは落ち着いた声で冷ややかに言う。人間はいつだってそうだ。私たちを魔物という理由でゴミ屑扱い。私たちの命を何とも思っていない。だから、そんな無茶を平気で言うんだ。
「……分かりました。善戦を尽くします」
「頼んだぞ」
私たちはティワードに頭を下げ、ヴォルド宮を後にする。別に返事はどうだっていいんだ。なぜなら、コイツは今日、死ぬ予定なんだから……。
私はチラリとパラックルの方を見る。なぜか何か言いたそうな顔をしていた。なんだコイツ? 私のきのせいかな……?