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黒い夢と赤い夢Ⅰ ――魔女狩り――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第1章 †淫魔† ――アポカリプス大陸――
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第3話 黒い思惑

 血の舞った夜。たくさんのサキュバスがあのミュータント・インキュバスによって殺された。残酷な殺し方で殺された。

 結局、彼は森のどこかへと逃げ失せた。ディオネ女王によると、彼はこうやって何度も不定期に襲撃してくるらしい。その目的は不明。一説には殺戮を楽しんでいるとか、自らの鍛えた肉体がどこまで通用するか腕試ししているとかいわれている。また、自分と互角に渡り合えるサキュバス・女性を探している、とも……。


「寝れない?」


 隣にいるテティスが不意に私に話しかけてくる。


「うん……。アイツ、なんだったんだろ。なんであんな酷いこと、出来るんだろう……」

「……アイツはね、私たちの間じゃ“バーサーカー”って呼ばれてるんだ」


 バーサーカー、か。なるほど、“狂戦士”の名にふさわしい殺戮ぶりだった。手当たり次第、殺している感じもした。


「数百年前に絶滅したインキュバスの生き残りって噂もある。数百年前、とあるサキュバスがね、インキュバスの子供を攫ってさ、ずっ~~と死なないように吸精し続けた結果、その子が突然変異してミュータント・インキュバスになったって伝説もあるんだ」

「…………」


 私は、それはない、って思った。インキュバスの寿命は平均で20年。どんなに長生きしても25歳が限界だ(私たちサキュバスは80年ぐらい生きるケドね)。とにかく、数百年も生き続けるのは不可能だ。


「12歳の時に攫われたその子は6年間、吸精奴隷にされ、毎日苦しんだ。女性・サキュバスへの過剰なまでの恐怖と憎悪が身体を変異させ、私たちを見境なく殺すようになったんだって」

「……12歳と6年間ってのはどっから出て来たの?」

「インキュバスは12歳が一番攫いやすいの。11歳以下じゃ1回で吸える魔力が少ないし、13歳以上じゃ力が強くて攫いにくい。だから12歳が有力」


 なるほど……。確かにインキュバスは12歳頃が一番攫いやすかったらしい。それは北の大陸にいる時に聞いた事がある。インキュバスを殺すには12歳までに、と……。

 ちなみに人間の間ではインキュバスは無数にある魔物の中でもかなり嫌われている。原因は簡単。インキュバスは人間女性を襲って無理やり妊娠させ、インキュバスを生ませるからだ。だから、何千年もかけて人間たちはインキュバスを皆殺しにした。


「6年間という数字はその子、18歳の時に変異したから。知ってる? インキュバスは18歳を迎える頃、急に凶暴になるんだって」


 聞いた事ある。寿命間近の18歳になると、子孫を残そうと本能的に凶暴化し、女性を襲うらしい。なるほど、ミュータント・インキュバスも18歳の時に凶暴化。でも、それが過剰すぎて突然変異を起こしたって考えられているのか。


「寝れない?」

「ちょっとショックすぎたから……」


 6年前、仲間がたくさん殺された時もしばらく寝られなかった。1人で逃げて、怖くて、寂しくて……。あの時と同じく寝られそうにない。

 そう考えていると、テティスが私の寝転がるベッドの横に立つ。彼女は何も言わずに私の薄いシーツと腰巻を取る。


「えっ、な、なに……?」

「寝られないのなら、寝られるようにして上げるよ。気持ちよくなればショックなこと、忘れられるよ」


 優しそうな笑みを浮かべたテティスはそう言うと、色白で美しい手を私の股に手を伸ばしてきたのだった。


















































◆◇◆



















































 【コスーム大陸 連合政府首都ティトシティ ヴォルド宮】


 出入り口からやや奥行きのある縦長のエリア。連合政府首都ティトシティ北部に立てられた全軍司令城のヴォルド宮。奥にある椅子にわたしは座っていた。


「ティワード総統、サキュバス10万匹、まだご用意致せませんかな?」

「サキュバス女王からまだ返答が来ないのだ」

「ほう? それはそれは……」


 わたしの椅子の前に設置された大型コンピューターを見ながらわたしは言う。彼は連合政府加盟組織“ギルティニア”総帥のパラックル。長身の細長い体型をした色白の男性だ。茶色の瞳に青色の髪の毛をした彼はサキュバス10万匹をわたしに求めていた。


「フッフッフッフ、“蛮地”の魔物どもは動きが遅いですなぁ……」


 パラックルは笑いながら言う。黄色に白や青色のラインや模様が施されたスーツを着るパラックルは黒いゴム製のハンドグローブを弄りながら歩き出す。


「連合政府の縁の下の力持ちは誰か? 言うまでもなくこのわたし。わたしが連合政府に莫大な資金を投資しているからこそ、戦争を優勢に進められるのだ」


 パラックルは甲高い声で言う。連合政府リーダーの1人でもある彼はややプライドが高い。下手に怒らせると、少々面倒なことになる。


「6年前、サキュバス共を虐殺した国際政府。その仇討ちをしようとするのが連合政府。ならば、サキュバス共は我らに奴隷という貢物をするのは当然のことだ」

「…………」


 実際には我々は仇討ちする組織ではない。連合政府は国際政府から分離・独立し、1800年もの間政権を握ってきた愚かな政府を滅ぼす為の組織。新世界の世界統治機構。――という名目の下に成り立っている。


「奴隷を渡さないのなら、ヤツらは反逆者。つまりは裏切り者ですな?」

「……そうだな」


 パラックルはニヤリと笑う。彼はサキュバスを奴隷として全世界に売り出すのが目的。それで、10万匹のサキュバスを求めている。

 わたしからすればどうでもいいことだった。サキュバス王国が本当に10万匹のサキュバスを送ってこれば、パラックルに渡せばいい。送って来なければ別にそれでも構わなかった。


「ティワード総統」

「なんだ?」


 別の部下がわたしの大型コンピューターの前までやって来る。


「3日後、サキュバス王国より返答の使者が参るようです」

「そうか、サキュバス王国の使者が来たらティトシティに招き入れよ」

「イエッサー」


 彼は一礼して下がって行った。パラックルは満足そうに笑う。連合政府リーダーの彼はよっぽどサキュバスで一儲けしたいらしい……。

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