第37話 黒い夢の朗報
【連合政府首都ティトシティ ヴォルド宮 最高司令室】
わたしは立体映像の前で跪いていた。大型コンピューターの上に映し出される青色の大きな立体映像。
「パトフォー閣下、お喜びください。我々の実験台が見つかりました」
[なに?]
「実験体No.1――フィルドは生きておりました。その所在も掴みました」
わたしは薄っすらと笑みを浮かべながら目の前の立体映像――パトフォー閣下に報告を入れる。実験体No.1の生存。彼女の居場所。わたしも、パトフォー閣下も切望していた。
コマンドは貪欲だ。彼の権限強化と「ギルティニア」の全資本移転を約束した途端、彼はあの日のことを全て話した。彼によると、ヴォルド宮がセイレーンに占拠されたあの日、フィルドもその場にいたらしい。
[それは本当か?]
「はい、閣下」
フィルドは、我々の進める『ラグナディス計画』に欠かせない存在。彼女は我々の作り出した人工ウィルス――サイエンネット・ウィルスに適合する唯一の人間。彼女を使うことで、“人の進化”という我々の夢を達成できる。
人間は魔法を使えない。身体能力も高くない。そして、生命力も低い。だが、サイエンネット・ウィルスを使うことで、普通の人間が魔法を使い、高い身体能力を有し、生命力を上げることが出来る。それはつまり、普通の人間がパーフェクターやサキュバスの力を得るということなのだ。
だが、進化する人間は1人だけでいい。他の人間がサイエンネットの力を持つ必要はない。サイエンネットの力を持つべき唯一の人間は、――
[……で、今どこにいる?]
――今、わたしと話しているパトフォー閣下。彼だけがサイエンネットの力を持ち、世界の絶対的な支配者となる。
「確定ではありませんが、恐らくコマンダー・アレイシアの元かと思われます」
[ほう、あの女を捕まえられたのか]
「ええ……」
[では、早急に取り返し、連合政府ルイン本部の実験施設へと連れていけ]
「はい、閣下。お任せください」
わたしは立体映像に頭を下げる。映像は消えていく。
シリオード制圧は失敗した。セイレーンも生きているらしい。だが、わたしの心は愉快なものだった。死んだと思われていたフィルドが生きていた。あの女を使えば、サイエンネット・ウィルスを完成させられる。もう、黒い夢の結晶は完成間近だった。
「赤い夢は黒い夢に利用される。フィルド、黒い夢の大成にはお前が必要不可欠なのだ……」




