第35話 決着
フィルドはふらふらとセイレーンから離れる。その身体には深々と剣が刺さっていた。持ち主の手から離れた剣は消滅する。それと同時に傷口から真っ赤な血が一気に噴き出す。
彼女は自身の剣を落とし、その場に倒れる。……死んだか? ヴォルド宮のティワード私室は静寂に包まれる。
だが、それも僅かな間だった。フィルドはゆらりと立ち上がる。傷口から、たくさんの血が流れ出る。彼女はゆっくりと顔を上げる。
「“私を、殺せるか”?」
「…………?」
「……死にたいならお望み通りっ!」
セイレーンは走りながら、床に落ちたフィルドの剣を拾い上げ、その剣の持ち主を大きく斜めに斬りつける。1回だけじゃない。何度も、何度も……
風を切るような音と共に何度もフィルドの身体が斬られていく。血が白色の大理石の床を汚していく。そのセイレーンの動きには、明らかな憎悪がこもっていた。
「……お、まえには私を、殺せない」
「…………ッ!?」
それは不意だった。フィルドが振り下ろされる剣を握り締める。そして、空いた手でセイレーンに手をかざす。……マズイ!
私たちはあまりの光景に一瞬、反応が遅れた。私とクナが斬撃を飛ばした時には、もう遅かった。セイレーンの身体が、フィルドの斬撃によって深々と斬られていた。
「うぐぅ……!」
「セイレーン!」
上半身と下半身で真っ二つに分かれなかっただけマシか!? だが、それでも重症だ。セイレーンは口から血を吐き散らし、床に倒れ込む。……完全に斬れなかった? なぜ? …………!
セイレーンが床に倒れたのと、ほぼ同時だった。クナとケイレイトの放った斬撃。それがフィルドの身体を大きく斬る。
「…………ッ!」
フィルドは辛うじて踏みとどまる。そして、こっちを向くと、手をかざし、斬撃を飛ばす。私は素早くキャンセル・シールドを張り、彼女の斬撃を防ぐ。だが、それでも体に痛みが走った。それだけ威力が強いということか……! ……だが、もう――。
「……苦しそうだな、フィルド」
「――――!」
フィルドの顔が強張る。やっぱりな。私の予測が確信に変わる。
私もクナもフィルドと同じように超能力を使える。使い続ければどうなるか、十分すぎる程に分かっていた。使い続ければ、体内の魔力を消費し、生命維持に影響をもたらす。サキュバスなら吸精によって魔力を回復させるが、人間にはそれができない。
その時だった。床に倒れていたセイレーンが震える手をフィルドにかざし、黒い液体状の魔法弾を放った。それはフィルドの身体に吸い込まれる。その途端、彼女は苦痛を訴える叫び声と共に、後ろに飛んで距離を大きく開ける
「……生命破壊魔法、よ……」
荒い呼吸をしながらセイレーンはゆっくりと立ち上がる。生命破壊魔法……。確か強力な特殊魔法の1つ。体内の魔力を激減させ、生命を壊す魔法。膨大な魔力を必要とする為、使用者の負担も大きいハズだ。
「クナ! セイレーンを頼む!」
「えっ?」
「あとは私とケイレイトで片付ける!」
クナの返事よりも先に私とケイレイトがフィルドに向かって行く。私の手には剣。ケイレイトの手にはブーメランが握られていた。
「ハハハハ! さぁ、来い! みんなまとめてあの世に送ってやる!!」
口から血を流しながら、狂気的な笑い声を上げるフィルド。壊れた殺戮騎……。
「コマンダー・アレイシア、狂気の殺戮騎を、――」
「分かってる!」
私とケイレイトはお互い頷き合うと、フィルドに向かって走り出す。
「ハハハハ……!」
フィルドが手をかざす。斬撃だな。私がケイレイトの一歩前に出ると、その斬撃を剣で防ぐ。その隙にケイレイトが紫色の電撃を放ち、殺戮騎を弾き飛ばす。そして、ブーメランを投げ、風を起こす。風によって勢いを増すブーメラン。鋭い刃が宙に打ち上げられていたフィルドを斬る。
「クッ……! やってくれる! 連合、軍ッ!」
血を吐きながら、フィルドが叫ぶ。彼女の身体は床に叩き付けられる。もはや、着地する力も残っていないように見えた。
私は火炎弾、衝撃弾、サンダーと魔法を次々と飛ばして追撃を加える。フィルドはそれらを正面から受けていく。もう、防ぐことさえ……。
だが、ただ攻撃を受けているだけじゃなかった。殺戮騎の最後の悪あがきといったところか、斬撃や衝撃弾を飛ばしてくる。……それは威力の弱いものだった。シリオード東都でケイレイトと戦ったときのような威力はなかった。
「連合政府の、クズ共……が!」
ケイレイトのブーメランが大きく彼女の身体を斬る。私の放った火炎弾と電撃弾が彼女の腹部に直撃する。更に後ろからも毒弾と光線弾が飛んでくる。セイレーンの攻撃だった。彼女は震える身体で魔法弾を撃っていた。
「み、んなの……仇っ!」
セイレーンの放った複数の魔法攻撃と物理攻撃を受けたフィルドは遂にがっくりと膝を着く。
「――――」
「…………?」
瀕死の殺戮騎は倒れる。ヴォルド宮の決戦は遂に終わりを迎えた。強大な力を誇るフィルド。彼女に私たちは勝った――!
――勝ったのだが……。




