第33話 フィルド=ネスト
※セイレーン視点です。
――EF2011年2月 【連合政府・パスリュー本部】
サキュバス討伐作戦から4年が経った。EF2011年2月、連合軍は臨海都市ティトシティを占領し、国際政府に宣戦布告した。ラグナロク大戦の始まりだった。
私は中央大陸でなるべく目立たぬようにして暮らしていた。だけど、戦争勃発と共に連合軍に捕えられた。そこで部下になることを強要された。
大陸北西にある地下の巨大要塞パスリュー本部に連行された私は、そこで拷問を受けた後、部下となった。
私の主な役目はあのフィルドをオリジナルとして生み出されたクローンたちの訓練だった。泣き叫ぶ彼女たちを拷問に等しい訓練を施し、有能な兵士に仕立て上げるのが私の役目だった。
だけど、それもやがて終わった。それは戦争勃発から1年後の10月。EF2012年10月――
「自分たちの実験体に殺されるのはどんな気分だ?」
再び捕まっていたフィルドは脱走。パスリュー本部で殺戮の限りを尽くす。大勢の兵士や将校が殺されていった。
「ち、ちがっ、私! 助けて! 殺さないで! 死にたく、死にたくな、ないッ!!」
彼女は非戦闘員かつ研究員でもない女性をも殺したらしい。ケイレイトの友人でもあり、部下でもあったレイとモル。
レイは命乞いをした。丁度、ポート本部のサキュバスと同じように。結末は……ポート本部のサキュバスと同じだった。彼女の命が助かる事はなった。
「ケイちゃん、ケイちゃんッ、助けてッ! 痛いよぉッ! 怖いよぉッ!!」
「モ、モルを放せ!」
「“放して下さい”の間違いだろ? 土下座して言え」
モルを人質に取ったフィルド。モルは泣きながら、ケイレイト将軍に助けを求めた。ケイレイト将軍はフィルドの言う通りに土下座して言った。でも……。
「モル!」
「痛い、痛いッ……」
モルは突き飛ばされ、床に倒れる。ケイレイト将軍が近寄ろうとしたその瞬間、フィルドは無残にも、超能力でモルの身体を斬り裂き、殺した。ケイレイト将軍の目の前で。
その後、ケイレイトは死んだレイとモルの名前を2人のクローンに与えたらしい。コマンダー・モルとコマンダー・レイ、として。
私とフィルドはパスリュー本部脱出の途中で再会した。それは彼女も私も、全く予期せぬ再会だった。私とフィルドは一時的に手を組んだ。パスリュー本部から脱出するためだけに。――パスリュー本部から無事脱出できたら、関係はそこまで。
「死、にたくは……。痛い、苦しいッ……」
それは奪った大型戦闘ヘリのガンシップで逃げる途中だった。苦しむフィルド。超能力の使い過ぎで魔力を欠乏させていた。魔力は生命エネルギーでもある。サキュバスはそれを男性から吸精し、魔法を使う。彼女の苦しみは、まさに殺戮の代償だった。
「殺しはしないよ、私はね」
直接、殺しはしない。
フィルドは私を殺そうと、襲い掛かる。だが、超能力を乱発させることしか、出来なかった。ガンシップは壊れ、急速に高度を落としていく。
「……さようなら。もう、会うことはないかもね」
私はガンシップから飛び出す。羽を使い、空中に飛び出した。ガンシップは炎を上げ、フィルドを乗せたまま、深い森に墜落した。
これで彼女は死んだハズだ。サキュバス討伐作戦で、命乞いした私の友達を殺した狂気の殺戮騎はこの世から去った。
残る敵はティワードと連合政府リーダーたち――。
*
【連合政府首都ティトシティ ヴォルド宮 ティワード私室】
私はティワードの椅子に座る。私の背には大きなステンドグラス。2ヶ月半前、ここを割ってティトシティから逃げた。あの時一緒だったテティスやアルテミスはもういない。
「――よ、よし! お前に島を買ってやろう!」
「…………」
みんな死んでしまった。ディオネ女王、ピロテース将軍、テティス、アルテミス、……。もう、私に仲間はいない。もう、一人ぼっちだ。
死んでいったみんなの顔が思い浮かぶ。私はそっと手を目にやり、自然と流れ出る熱い液体を拭う。寂しいよ……!
その時だった。ティワード私室の扉が勢いよく開かれる。入って来たのは、クローンのリーダーともいえるコマンダー・アレイシアとケイレイト将軍。2ヶ月半前もそうだったな。あの時も、あの扉を開けて入って来たのはケイレイト将軍とクローン。
「お、おお! ケイレイト! は、はやくわたしを助けよ!」
「…………」
私は小さく笑う。これで、私も終わりかも知れない。……それでもいい。ようやく、みんなのところに行けるのだから。
「セイレーン……」
「ケイレイト将軍、お久しぶりです」
私は魔法で剣を作り出す。紫色の半透明をした剣。これを使うのも、これで最後。なんとなく、そんな気がした。
「ま、待て、セイレーン!」
「…………?」
「私たちはお前の味方だ! 敵じゃない!」
「えっ?」
コマンダー・アレイシアの言葉に私はすぐに反応できなかった。味方……?
「な、なにっ? 今何と言った!?」
私より驚いているのはコマンドの方だ。彼は急に顔に焦りを浮かべ、困惑する。当然の反応だと思う。自分の味方がいきなり敵の味方だと言い出すのだから。
「わたしの聞き違いか!? ワケが分からんぞ!」
私は動揺しまくっているコマンドに手をかざす。その途端、彼は腹部を強い力で殴られ、ステンドガラスに背を打ち付け、床に倒れる。そのまま彼は気絶した。
「どういうこと?」
私はコマンダー・アレイシアとケイレイトの方を向いて言う。もしかしたら、ワナかも知れない。人質のコマンドは、動けないようにしておいた方が無難だろう。
2人が私の方に歩み寄ってくる。私は彼女たちの動きを注意深く見ていた。いきなり攻撃されて殺されるのは絶対に避けたい。
「時間がないから手短に話す。実はティワードを殺し、連合政府を乗っ取ろうと思うんだ」
「…………!?」
コマンダー・アレイシアとケイレイト将軍が私に、これまでの事と連合政府乗っ取りについて話していく。その間、私は2人の動きを注意深く見ていた。殺される事を警戒したのはもちろん、彼女たちの話が本当かどうかを見極める為にも……。
「ティワードと連合政府リーダーを殺して連合政府を……」
「そう。そして、連合政府は新たに生まれ変わる」
…………。ケイレイト将軍の事だから、騙しはしないと思う。でも……。
「私たちのこと、信じれないかな……?」
「…………。ケイレイト将軍、さっき“連合政府リーダーを全員、殺す”って言いましたよね? でしたら、――」
私はハンドガンを床に倒れているコマンドに向ける。
「殺しても、いいですよね?」
「ああ、もちろん」
ケイレイト将軍の代わりにコマンダー・アレイシアが言う。その表情はさっきから全く変わらないものだった。……この話、信用できそう。私の心に希望の光が湧いてきた。まだ、終わっていない。みんなの仇、まだ取れる。そう思った瞬間だった。
「なかなか面白い事を考えているんだな、魔女ども」
「…………!」
突然、部屋に響く女性の声。私たちは一斉にその声のした方向、部屋の中央にかかるシャンデリアの方を見る。
「そ、そんな、あなた、死んだハズじゃ……」
私は背筋に冷たいモノが走るのを感じた。
「生きていたのか、お前……」
「シリオードからどうやってここに……!」
その女は狂気的な、不気味な笑みを浮かべ、シャンデリアから飛び降りると、部屋にほとんど無音で着地する。
「簡単には死なないさ。セイレーン、コマンダー・アレイシア」
彼女は明らかな敵意を持って私たちを見ていた。
私たちの前に現れたのは、サキュバス討伐作戦の指揮官、モルとレイを殺した張本人、コマンダー・アレイシアらクローンのオリジナル、私がかつて葬ったハズの実験体――フィルド=ネストだ!




