第27話 希望
【東都 外部エリア】
私のすぐ側で1人のクローンが倒れる。シリオード軍の猛攻。何万という兵士たちによって私たちは“狩られて”いた。
「コ、コマンダー・アレイシア中将! 軍は壊滅状態です!」
頭から血を流した姉妹の1人が私の側に走り寄り、報告する。そんなことは分かってる。誰がみてもこれは壊滅状態だ。
「ケイレイト将軍、コマンダー・モル少将、コマンダー・クナ少将、コマンダー・フィルスト少将、コマンダー・ログ少将とも連絡が取れません!」
「…………」
ケイレイトはコマンダー・ログことフィルドと戦っている。コマンダー・モルは裏切り者だった。クナとフィルストはその裏切り者を勝手に追っている。
このクローン軍を指揮する者は誰もいない。各兵がバラバラに戦っている。今更、私が指揮したところで、もう纏めることは出来ない。集団戦の経験が少ない私たちクローン軍はパニック状態だ。
「いやぁッ!」
「助けて助けて助けて!!」
悲鳴が響く。姉妹が次々殺されていく。私は彼女たちを助けられない。私が行ったところで私も同じように殺されるのがオチだろう。
私はぐっと拳を握りしめる。終わりだ、もう。シリオード軍は東都を完全に包囲している。4人のパーフェクターを筆頭に猛攻撃をかけている。
「ア、アレイシ、アしょ……」
「…………!」
私の側に全身を焼け爛れさせた姉妹がフラフラと歩み寄ってくる。全身火傷。服は辛うじて下着が纏わせているだけだった。「大丈夫か?」とはとても言えなかった。彼女はもう致命傷だ。助かる見込みはない。
「帰り、たい……」
かすれた声でそう言うと、そのクローンは倒れる。私は慌てて彼女を抱きかかえようとした。……彼女は死んでいた。
彼女の最期の言葉が“帰りたい”。ティトシティに……? 私はふと思った。もう、このシリオード大陸に来て2ヶ月がすぎた。サキュバスの一件はどうなっただろう……? ティワードは? セイレーンは……?
そう思った時だった。ある事が、私の頭に電撃が走ったかのように閃いた。
「そうだ、帰るんだ」
「えっ?」
「撤収だ……。撤収するんだ!」
私は素早く立ち上がる。そうだ、まだ終わりじゃない。撤収するんだ! このシリオード大陸からティトシティに!
私は側にいたクローンの手を引いて走り出す。それとほぼ同時だった。東都城の最上階が凄まじい轟音と共に爆発する。建物の上部が吹き飛び、全体に大きく亀裂が入る。一部が崩れ出す。
「アレイシア中将、今のは!?」
「構うな! 急ぐぞ!」
もうシリオード軍はすぐ側まで迫っている。グズグズしていたら、やられる! 私は降ってくる瓦礫を避けながら走る。撤収する為に……!
◆◇◆
【東都 下層フロア 廊下】
私は気絶したフィルストを引きずる。さっきのよく分からない爆発は助かった。あのフロア全部が崩れたおかげで何とか逃げ出せた。
シリオード兵はたぶん全員死んだと思うけど、ニュクスはきっと生きている。あの光のパーフェクター、どうやって倒せばいいんだろう?
私はそんなことを考えながら、フィルストを背負う。ほぼ同い年の男の子を背負うのは初めてだな。重くないのが幸いだった。
「っと、どうしよう……。どこ行けばいいかな……?」
ママとキャプテンのいるカリュプソ御座まで戻るべきかな……? でも、ここからじゃ遠すぎる。それに、フィルドもいる。……東都外部に止めてある司令艦がよさそうだな。あの大型飛空艇を動かして戻れば、戦況が逆転するかも知れない。
「よしっ」
私はフィルストを背負い直し、半ば急ぎ足で暗く埃と塵の蔓延する廊下を歩いて行く。辺りには瓦礫ばかり。天井や壁が崩れていた。
ママ、無事かな……?
◆◇◆
【東都 上層フロア】
私はゆっくりと立ち上る。まだ意識がもうろうとする。全身が痛い。……痛いという事はまだ生きているんだな。あの爆発で死んだかと思ったけど……。
私は腰に触れる。砕けたブーメランが1つだけ残っていた。あの爆発で他のブーメランはどこかに吹き飛ばされてしまった。
フィルドはどうなっただろう? イプシロンは? 毒液に火をつけて爆発させたフィルド。毒液の塊のような女だったイプシロン……。イプシロンは全身起爆して死んだかも知れない。
「クッ……」
私は歩き出す。全身の痛みを堪えて。行き先は……司令艦がよさそう。この建物は半壊。シリオード軍もなだれ込んできている。守りきれない上に、守るべき建物でもなくなってしまった。例え、守り抜いても、次の攻撃で陥落。だから、ここは司令艦にまで戻ろう。
クナやコマンダー・アレイシアはどうなったんだろう……? 無事でいて欲しい。あの女のクローンだけど、中身は違う。アレイシアはアレイシア。クナはクナだ。
私は歩き続ける。壁に開いた穴や亀裂からは、風が吹き込む。風と共に爆音と女性の悲鳴が聞こえてくる。
シリオード4人のパーフェクター。私もパーフェクターだ。でも、実力はあっちの方が上らしい……。それでも、私は戦う。クナや私の部下を守る為に……!




