第26話 東都の激戦
※前半はケイレイト視点です。
※後半はコマンダー・クナ視点です。
【東都 カリュプソ御座】
私はブーメランを振り上げる。その先にいるのはフィルド。この女を殺してやる事を、どれだけ願ったか!
フィルドはどのクローンとも違った。私たちの科学力で彼女を再現するのは不可能だ。この女は、“心”が違う。
「死ねッ!」
「ハハハハ!」
フィルドは手をかざす。その瞬間、私は強烈な力で弾き飛ばされる。超能力だろう。私は腹部に強い衝撃を受けつつも、空中で体を無理やり動かして、フィルドの方を向く。腕を彼女の方に向け、勢いよく紫色の電撃を解き放つ!
「…………!」
私の電撃を喰らったフィルドは吹き飛ばされ、壁に背を勢いよくぶつけると、そのまま床に倒れる。気を失ってはいないが、かなりのダメージを負ったらしく、腕と膝を付いて自身の体を支えていた。
私は空中でバランスを整え、床に着地すると、間髪入れずにフィルドの元へと向かう。殺す為に。仲間の仇を、あの女に殺された無数の人々に仇を討つために。
「モルとレイ、サキュバス。みんなの仇だっ!」
思いっきり握ったブーメラン。大きく振り上げる。首をハネれば、それで終わり。死ね!
だが、そう簡単に彼女を殺せるハズもなかった。凄まじい爆発。私は吹き飛ばされる。カリュプソ御座のガラスが砕け散る。フィルドはその場で魔法を使った。強烈な衝撃弾を放ったのだろう。
「私がサキュバスを虐殺したのは国際政府の命令だ。勘違いするな、バカ女」
「……それでも、やり過ぎなんだ! お前がサキュバス・ポート本部でしたことを見たよ。泣き叫ぶ彼女たちを楽しそうに殺っていたじゃないか! お前は命をなんだと思って――」
そこまで叫んだ瞬間、煙の中からフィルドが飛び出してきて、私の首を掴む。く、苦しい! 息が出来ないっ!
「お前たちこそ私をなんだと思っている? 私を実験台にし、散々弄んでくれたじゃないか。私は、モルモットなんだろう?」
私は意識を遠のかせながらも、力を振り絞って紫色の電撃を撃ち放つ。電撃は彼女の体を吹き飛ばす。最高司令席とコンピュータに突っ込み、それらは粉々に砕け散る。
フィルドが瓦礫の山から再び姿を現す。頭と口の端から血を流していた。だが、その覇気は全く衰えていなかった。赤茶色の瞳が私を捉えていた。
「サキュバスに同情するか? ――だが、お前たち連合政府も同じさ。私を異物としてゴミ同然に扱う。人間とは、そう言う存在さ」
そう言うフィルドの目は、憎悪と怨念に染まっていた。彼女のいうことは合っているだろう。サキュバスを人間は迫害してきた。
その時、壁が勢いよく崩れ落ちる。シリオード軍の小型飛空艇が姿を現す。突っ込んできたらしい。その小型飛空艇から誰かが飛び降りる。白銀の髪の毛に赤色の瞳をした少女。服装はシリオード軍人と同じ、黒に白い装甲服……。
「フフフ、ケイレイト将軍と、人工の魔女が1匹。楽しい会議中だったかしら?」
イプシロンはクスリと笑いながら、両腕を紫色のゼリーに変化させる。
「迫害は人間の本性だ。差異を見つけて、排除する――」
そう言うとフィルドは私に背を向け、イプシロンの方を向く。この時、紫色の両腕は巨大化し、毒液を滴らせながら、フィルドに勢いよく迫っていた。
「人工の魔女、狩らせて貰うわね」
「好きにしろ」
フィルドが手をかざしたその瞬間、彼女の体は毒液に包まれた。毒液に包まれた瞬間、私は見た。フィルドは火属性の魔法を放ったのを!
目の前が白く光る。同時に轟音が鳴り響き、空間を切り裂くような爆音が鳴り響いた。毒液が爆発したのだろう。私の体は今まで以上に勢いよく吹き飛ばされ、その意識を失った。
◆◇◆
【東都 廊下】
私とフィルストは廊下を走っていた。許せない。コマンダー・モル。自分だけが助かりたいが為に姉妹を売るなんて!
「待てっ、コマンダー・モル!」
「待てと言われて待つヤツはいないよ!」
コマンダー・モルはそう言いながら、廊下の角を曲がる。んん? 何してるの? さっきから彼女出口に向かってないぞ?
私とフィルストはそれでもとにかく追い続ける。だって、許せないんだもん。苦しいのはみんな同じ。なのに……!
私たちも角を曲がる。だが、そこに広がっていたのは想像だにしない光景だった。
「こんにちは、クナとフィルスト」
そこにいたのは黒い服に白い装甲服を着たシリオードの軍人。確か、アイツはニュクス。光のパーフェクターだ。
「よくやった、モル。後はわたしに任せ、ゆっくりと休め」
若いシリオードの将軍は笑顔で言う。モルは私たちの方を向くとニヤリと笑みを浮かべる。この裏切り者っ……! …………!?
「えっ……!?」
「なに? どうしたのよ? 急にビックリしちゃ――」
モルがその先を言うことはなかった。ニュクスは手に握ったハンドガンで、モルの頭に銃口を向けて発砲した。モルは頭を撃ち抜かれ、血をまき散らしながら、床に倒れる。
「ゆっくり、休め。あの世で!」
「ひ、酷い……」
フィルストが怯えたような目をし、後ずさる。フィルドのクローンにしては、珍しく臆病なフィルスト。彼にこの光景はキツいかも……。
それにしても、モルは自業自得なんだろうか? 私たちを裏切り、シリオード軍の将軍の元へ走った。だが、そのシリオードの将軍に裏切られ、殺された。
「へへ、俺は悪りィヤツか?」
サドスティックな表情を浮かべるニュクス。さっきまでの紳士な顔はどこいったんだ……。こんなヤツがシリオードの将軍とは……。
ニュクスの後ろの廊下から大勢のシリオード兵が姿を現す。全員が、あの特殊なハンドガンを持っていた。こんなところまでシリオード軍が……。
「タナトス皇帝陛下率いる軍と俺らの軍。シリオード全軍が今、ここを襲撃している。お前ら人工の魔女を1人残らず狩り尽くす為にな!」
そう言うと、ニュクスが一瞬にして私の前に現れる。光のパーフェクターっ……! 目の前が真っ白にまる。光速で蹴り飛ばされたらしい。
「っあァッ!」
次に意識がハッキリしたときには、私は床に倒れていた。天井に突き上げられたような気がする。全身に激痛が走っていた。痛いっ、痛いっ……!
隣に何かが落ちて来る。見ればフィルストだった。彼はうずくまり、泣き声を上げる。何度も、痛みを訴えて泣き叫ぶ。
「ガキ2匹、赤子の手を捻るより楽だわ」
ク、クッ……! 私は震える手で私たちに背を向けるニュクスに手をかざす。超能力で斬り殺すっ! 私は最後の力を振り絞り、ニュクスの上半身と下半身を斬り裂いた。
や、やった……! ニュクスの上半身は床に転がる。下半身も、崩れるようにして倒れ込む。シリオードの将軍を1人、殺った!
私は勝利を確信した。――その瞬間だっただろうか?
「――えっ?」
私の体が再度、打ち上げられ、今度はそれに続いて、壁に向かって吹き飛ばされる。壁に大きくヒビが入る。私の体は床に倒れ込む。
「あ、ぐッ……!」
朦朧とする意識。最後に見たのは、泣き叫ぶフィルストの胸倉を掴む、死んだハズのニュクスの姿。彼は、ぱっと手を離した瞬間、彼の腹部に拳を繰り出した……!




