第24話 不可視のスパイ
※前半はアレイシア視点です。
※後半は…………。
【シリオード大陸東部 東都(東シリオード王国首都)】
この極寒の大陸に来てから早くも2ヶ月が経った。私たちは強大なシリオード軍と戦い続け、東シリオード王国を占領した。
シリオード軍は東王カリュプソを新元帥に、抵抗を続けている。彼らの抗戦は思いのほか強く、なかなか西進出来ないでいた。
……それと、もう1つ。我が軍にスパイがいる。情報が筒抜けになっている。それを私は未だに特定できずにいた。
「コマンダー・アレイシア中将、ケイレイト将軍がお呼びです」
「了解。すぐに行く」
私はコマンダー・モルと共にテラスを後にする。テラスから見える外の光景は雪ばかりだった。本当にここは一年中、雪が降っているんだな……。
*
【東都 カリュプソ御座】
私は薄暗い、コンピューターの光しかないカリュプソ御座(東都・最高司令室)へとやってくる。中ではケイレイトとクナ、フィルスト、コマンダー・ログ、コマンダー・モルがいた。
実は、私はこの中にスパイがいると思っていた。漏れている作戦内容はこのクローン将官たちやケイレイトと話し合ったものばかりだ。
「ママ、早く話し合いしよ!」
クナ。超能力特化のクローン。ケイレイトのことを本気で慕っているコイツがシリオード軍と共謀しているとは考えられないな。頭も悪いし。
「コマンダー・アレイシア中将、悪い報告です。シリオドアのタナトス皇帝が大軍を率いて発進したとの情報があります」
コマンダー・ログ。私にやたらべったりなクローン。私のことを慕っているらしいが、本当だろうか? 流す情報が欲しくて私の側にいるだけじゃないのか?
「現在、カリュプソ率いるシリオード軍は後退。しきりに、敵将イプシロンの人質交換を求めています。応じてはいかがですか?」
コマンダー・モル。冷静で、落ち着いたクローン。1ヶ月前、左の間道から進んだ際、ニュクスに捕えられたコマンダー・レイの友達で、人質交換に応じようと私に迫ってくる。悪いが、“価値”はイプシロンの方が上だ。
「そうだね……。レイ、大切な仲間なんだから、助けて上げないと、ね」
ケイレイト。連合政府七将軍の1人。クローン軍の管理官。実は情報を流しているのはコイツだったりしてな。クローンを大切にするのは、オモテの顔なのかも知れない。根拠はないが。
「捕まった姉や妹はどうなるんでしょうね……」
フィルスト。クローンの男性バージョン。臆病な少年だが、能力はそこそこ高い。臆病ゆえ、自身の命を保証するのと引き換えに、姉妹を売ってるのかも知れない。
「カリュプソは比較的優しいらしいが、他のヤツらはさんざん弄んで殺すらしい」
「そんな……」
「捕まりたくなければ、必死で戦うんだな」
私はそれだけ言うと、カリュプソ御座から出ていく。コマンダー・ログが呼んでもないのについてくる。情報が欲しいのか?
彼女はこの戦いから私について来るようになった。それまでは、コマンダー・ログは私に全く付いて来なかった。なぜ急に? やはり、彼女がスパイなのだろうか?
「コマンダー・アレイシア中将、人質交換に応じてみてはどうですか?」
「なぜだ?」
「コマンダー・レイが捕えられてからもう長くなります。もしかすれば、彼女はシリオード軍の内部情報を得ているかも知れません」
なるほど。……と言いたいところだが、レイが確実に情報を持っているとは言えない。ログがスパイだったら、イプシロンを解放するためだけに言っているのかも知れない。
……いや、待てよ。これを切り口にしてスパイを焙り出せるんじゃないか? いい加減このスパイ問題も決着を付けないとな。
私はログに向かって頷く。彼女は頭を下げ、私に礼をしてから去っていく。その背中を見ながら、私はぎゅっと拳を握る。スパイを、絶対に捕えてやる。姉妹を売るヤツを許しはしない。
「…………」
◆◇◆
【東都 カリュプソ御座】
誰もいないカリュプソ御座。私はそっと作戦メモリーカードを引き抜く。ごめんね、みんな。私は自由になりたい。“あの人”は私に約束してくれたんだ。情報を渡せば、自由の身にしてやるって。
ケイレイト将軍は優しい人。でも、やっぱり私は自由になりたい。もう、戦争は嫌だ。人を殺したくない。だから、優しい将軍とたくさんの姉妹を裏切る。
私だって人間。人工の魔女じゃない。意志があるんだ。奴隷人形として生きていくのは哀しくて、辛くて、苦しい。
「ごめん……」
持っていた小型コンピューターで作戦データを転送すると、私はメモリーカードをもとに戻す。罪悪感が湧く。でも、今更後戻りできない。やめれば、私は殺される。いや、もっとひどい目に合わされる。怖く、恐ろしい実験の道具にされるかも知れない。
「助けて、あげる……」
姉妹の中でも仲のいい人は絶対に守る。そのためならば、コマンダー・アレイシア中将やケイレイト将軍の命をも奪って見せる。
「あと少し……」
あと少しで私は自由の身だ。私は奴隷じゃなくなる。1人の人間女性として、新しい人生を歩み始めるんだ。
自由になったら、好きな人見つけて、どこか戦争のない、平和な場所に小さな家を建てて、そこでひっそりと暮らそう。幸せになるんだ。
――絶対に自由になってみせる!




