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黒い夢と赤い夢Ⅰ ――魔女狩り――  作者: 葉都菜・創作クラブ
第3章 †虐殺† ――アポカリプス大陸――
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第21話 アヴァナプタVSプロパネ

※プロパネ視点です。

 俺はかつての仲間を前に手を出せないでいた。俺の目の先にいるのはアヴァナプタ。その斜め後ろにはディオネ。


「遅かったようじゃのう、プロパネ」

「バカな……。彼女は人間だったハズだぞ!?」

「そう、人間“だった”のじゃ」


 ディオネが冷酷な目で言う。アヴァナプタは無表情で俺を見ている。いつもの元気そうなあの笑顔はどこにもない。


「プロパネ将軍、噂の女王の能力では?」

「恐らく人間をサキュバスに変えるという……」


 側にいるコスモネット中将とリーグ中将が言う。噂では聞いていたが、まさか本当にそれが可能とは知らなかったな。


「彼女はお前に好意を持っていたそうじゃ。その好意に応えてやってはどうじゃ?」

「…………!」


 ディオネがニヤリと冷たい笑みを浮かべる。吸精させてやれ、ということか。


「将軍、なりませんぞ」

「そうです。もうアヴァナプタ将軍は――」

「黙っているんだ、コスモネット、リーグ」


 俺としては吸精させてやる気も、彼女を殺す気もない。出来ることなら元に戻してやりたい。だが、出来るのか……?

 いや、やらねばならない。出来なかったら、俺が死ぬか、彼女が死ぬかのどちらかだ。そんな事はさせない。必ず彼女を取り戻して見せる――!


「ディオネ、大人しく彼女を元に戻せば即座に軍を撤収させてやる。どうだ?」

「ふっふっふ、交渉か。――却下。お前たち人間はウソ偽りの多き生き物。彼女を元に戻した途端、総攻撃されるのがオチじゃ」


 俺はぐっと拳を握りしめる。ならば、あの女のはらわた引きずり出して殺すだけだな。そして、アヴァナプタも連れて帰る。

 俺はクナイを取り出す。起爆性のある投げて使う手裏剣の一種だ。サキュバス程度なら一個でも刺されば終わりだ。覚悟しろ、ディオネ。


「たっぷり吸って来るがよい。あの男はお前の好きだった餌じゃぞ?」

「…………」


 ディオネがアヴァナプタの耳元で言う。それを聞いたアヴァナプタは舌なめずりをする。よく見れば彼女、かなり息が荒い。今日だけ見れるサービスシーンだな。

 アヴァナプタは鉄扇を両手に俺の方へ飛び込んでくる。俺は刀を引き抜く。俺がこの女と何年一緒にいると思っているんだ! 彼女の技は全て知っている!


「リーグ! コスモネット!」

「イエッサー!」


 2人は素早く俺の側から離れる。俺は走り出す。向かって来る彼女に向かって。


「楽しい殺し合いじゃな。安易にサキュバスの地にやって来るからそうなるのじゃ」

「……そうだな。それは正しい! もう少し慎重になって貰いたい、アヴァナプタっ!」


 俺の刀と鉄扇が触れ合う。激しい金属音が鳴り響き、火花が散る。俺は素早く離れる。アヴァナプタがもう片方の鉄扇を振ったからだ。3本の長い針が石の地面に当たって倒れる。危ない武器だ。

 彼女は素早い動きで俺に近づいてくる。俺は刀を振る。白い尾を引く魔法の弾、衝撃弾が3発飛ぶ。それらは彼女の体に当たると爆発し、吹き飛ばす。


「ぐうぅ!」


 獣のような声を上げるアヴァナプタ。俺は彼女の元に駆け寄り、刀で片方の鉄扇を叩き飛ばす。だが、片方飛ばしたのはよかったが、もう片方がある。彼女は残った方で俺の腹を斬る。俺が素早く身を引いていたからその傷は浅く済んだ。もし、身を引いていなかったら、内臓を斬られていた。


「クッ……!」


 彼女は俺の血が付いた鉄扇を何度も振り回し、近づいてくる。俺はその度に刀で彼女の鉄扇による斬撃を防ぐ。

 だが、腹を斬られた痛みはかなり大きい。ズキズキと痛み、血が流れ出る。思ったよりも深くやられたか……!


「痛いじゃないか、アヴァナプタ!」

「…………」


 彼女は無表情で鉄扇を振るう。何度も金属音が鳴り響き、火花が俺の血が落ちた石の床に落ちる。俺は押されつつあった。このまま戦いが続くとヤバいかも。クナイを使えば彼女に勝てる。だが、それは同時に彼女を殺す事になる。俺は、彼女を殺したくない。例え、戻せなくても……。


「将軍!」


 周りを取り囲むバトル=パラディンの集団の中からリーグの声が聞こえてきた。その瞬間、クナイが飛ぶ。それはディオネの右腕に突き刺さる。よし!


「…………! なんじゃこれは?」


 彼女は自身の右腕に突き刺さったクナイを引き抜こうとする。だが、その瞬間、それは爆発し、彼女の右腕は根本から吹き飛ぶ。サキュバスの女王はその場に勢いよく倒れる。


「ぐ、あッ!? が、はッ――!!?」


 さすがにこれにはサキュバスの女王も効いたらしい。彼女は苦痛にその顔を歪める。身体を震わせる。部下の中将たちは上手くやってくれたらしい。さっき、こっそりと俺のクナイを渡しておいたのだ。

 だが、アヴァナプタは俺の刀を弾き飛ばし、押し倒す。しまった! あっちに気を取られた……! 彼女は俺と無理やり唇を合わせようとする。やめろ、アヴァナプタ……!


「クッ……! …………?」


 突然、彼女の動きが止まる。苦しそうな表情を浮かべ、うめき声を上げながら、片手で頭を抑える。アヴァナプタ……?


「プ、ロパネ……! 私を、殺して……」

「…………!?」

「任務…は、サキュバス、討伐…っ! 私は、まも、のっ……、ころ、し――! ぅぐッ! うああああああ!!」


 アヴァナプタは突然、悲鳴を上げる。そして、床に転がっていた鉄扇を拾い、立ち上っていたディオネに向かって走る。


「……ここまでじゃな。セイレーン、わが一族の怨みを人間に――」


 アヴァナプタはディオネの首に折りたたまれた鉄扇を深々と突き刺し、そのまま大きく広がる。サキュバスの女王の首と胴が離れ、床に崩れるようにして倒れた。

 その途端、アヴァナプタの背中から生えていた羽は黒い煙となって消滅する。彼女はその場でフラつくも、倒れはしなかった。


「ア、アヴァナプタ……?」


 俺は腹を抑えながら、彼女の元に駆け寄り、その身体を抱き抱える。も、戻ったか……?


「……プロパネ」


 俺に身を任せるアヴァナプタは静かに俺を名を呼んだ。その瞳は赤色ではなく、元の黒色に戻っていた。


「ごめん、私のせいでまた……」

「なに、大丈夫だ……。もう、サキュバスじゃないんだな」


 俺の言葉に、人間に戻ったアヴァナプタはゆっくりと頷いた。俺はそっと自身の身に着けていた紫色のマントを彼女の身体を覆うように纏わせる。そして、彼女の抱き抱え、歩き出す。


「プロヴィテンス中将」

「はっ」

「戦いは終わりだ。全部隊、引き上げの準備をさせろ」

「分かりました」


 俺は腹の痛みを堪えながら歩き出す。痛いが、大したことない。もし、彼女を失っていたら、癒えない傷を作っていただろうな……。

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