第20話 魔女の女王
※前半はアヴァナプタ視点です。
聖地の決戦。無数のサキュバスとバトル=メシェディたちが戦いを繰り広げる。何度も剣や槍が交わる音が鳴り響く。魔法が飛び交う。
「首を取ればいいんだ……」
私はディオネに向かって飛びかかる。あの女を殺せば、サキュバスたちは戦意を失って逃げ出すだろう。アレがいるからまだこうやって集まって戦い出すんだ。
ディオネはふわりと空中に浮かび、手をコッチに向ける。その瞬間、黄色い電撃がほとばしり、私の身体を吹き飛ばす。
「あうッ!」
私は床に倒れ込むが、すぐに起き上がる。クッ、なんて魔力だ。さすが、サキュバスの女王。だが、私とて世界を統治する巨大統治機構――国際政府を脅かす連合軍の将軍。負けるか……!
素早く魔物の女王の元に向かおうとした時だった。私は自身の体の異変に気付く。体が動かない……! なんだ、これ!?
「驕れる者の末路はどんなもんかのう……」
「…………!?」
自身の脚に黒い煙が巻き付いていた。私の足元には黒い煙が広がっていた。そして、そこからディオネの不気味な声が発せられていた。
「愚かな人間よ。お前たちがわらわたちより強くなったのは科学の力じゃ。裸で戦ってみよ。わらわたちには勝てぬ」
足元に広がった黒い煙からディオネが現れる。彼女は私の首を握り締める。く、苦しい! この魔物……! 私に何をする!!
「消え、ろッ!」
私は手に持った鉄扇でディオネの肩を突き刺す。それは深々と刺さり、赤い血が流れ出る。彼女は声を一言も発さずに素早く離れる。その途端、私の足に巻き付いていた黒い煙は消滅した。私はバランスを崩し、その場に手をついて倒れる。
だが、その瞬間、再び黒い煙が広がる。今度は手足に巻き付く。しまった、手をついて倒れたのはマズかった。いや、そのまま倒れてもマズかったケド。
「キツイ呪いを味わうがよい」
体の下に広がる黒い煙が突然、私の口を目がけて柱の如く突っ込んでくる。私はそれを防ぐことが出来ず、身体の中への侵入を許してしまう。これは本当にマズイ……!
意識が次第に遠のいていく。目の前が暗くなっていく。わ、私は、死ぬのか……?
◆◇◆
「アクセラ中将!」
突然、グレートが叫ぶように言う。俺は目の前のサキュバスを斬り殺すと、そっちに素早く向かう。すぐ近くにいた。
「どうした? グレート中将」
「あれを……!」
グレートの指差す方を見ると、そこには裸の女性がいた。サキュバス? いや、違う。あの黒髪は……アヴァナプタ将軍?
だが、彼女の背中からは、対になった黒い大きな羽があった。なんだ、あれは……? まるでサキュバスの羽……。
「ま、まさか、アヴァナプタ将軍か?」
「そんなバカな。なぜ人間がサキュバスになるんだ?」
その女はゆっくりと立ち上がると、近くの蒼い布きれから蒼い鉄扇を手に持つ。蒼い布きれはアヴァナプタ将軍の着ていた服だ。そして、あの武器は言うまでもなく、将軍の武器。
「アヴァナプタ将軍……?」
「…………」
彼女はゆっくりとコッチを向く。黒色だった瞳が不気味な赤色に変わっていた。やっぱりサキュバスか? もしそうならアヴァナプタ将軍はどこへ……?
立ち上った彼女は俺たちを見て舌なめずりする。吸精前のサキュバスの仕草に似ている……。まさか、俺たちを餌だと思っているのか?
「ど、どうする……?」
「どうすると言われても……」
命令はサキュバス討伐だが、それを理由に連合政府リーダーでもある将軍を殺していいハズがない。でも、襲い掛かって来たら……。いや、そもそもアレがアヴァナプタ将軍であるという証拠はない。
そんなことを考えていると、彼女は羽を使って空中を舞い、こっちに突っ込んでくる! クソッ! 戦うしかないか!
俺は剣で彼女を斬ろうとする。だが、彼女は手に持った鉄扇で俺の剣を防ぐ。火花が散る。防がれながらも、彼女の表情を見る。欲情したサキュバスの顔だった。口の端から一筋の涎が垂れる。
「うっ、クソッ……!」
近くにいたグレートが剣を大きく振り上げ、彼女を斬ろうとする。だが、そのサキュバスは素早く俺たちから離れる。奇声を上げながら、どこかへ飛んでいく。
「大丈夫か?」
「あ、ああ……」
俺はそう言いながら、空中を見渡す。あのサキュバスはいなくなっていた。
「面白いものを見たようじゃな」
突然、ディオネの声が聞こえてくる。いつの間にか、彼女が歩いて来ていた。俺たちは素早く戦闘態勢に入る。まさか、さっきのはコイツの仕業か……?
「人間の女を“デミ・サキュバス”に作り替えられるのは、一部のサキュバスだけじゃ」
「…………!?」
ならば、さっきのはやはりアヴァナプタ将軍……。最悪だな。
「ただ、これは簡単な魔法ではない。1回使うごとに何百人もの男から魔力を吸精せねばならぬ」
「へぇ、そりゃすごい。……で戻す方法は?」
「お前たちに教える義務はない」
「……そうか」
ということは、方法がないワケでもないんだな。ならばまだ希望はある。俺は剣を握る。
「ならば、その身体に聞くまでだ」
「ふっふっふ……。お前たちの相手をする義務もない」
「…………! ま、待て!」
ディオネの姿は黒い煙に包まれ、消えていく。それは一瞬のことだった。俺は歯ぎしりするが、どうにもならなかった。それどころか、サキュバスが一斉に群がってきた。
「邪魔な魔物どもめ!」
「コイツらを瞬殺してディオネを追うしかあるまい」
「うむ」
俺とグレートはお互いに頷き合うと、飛びかかってくるサキュバスに向かって突っ込む。俺の剣がまた1人、また1人とサキュバスを斬り殺していく。コイツらと同じようにアヴァナプタ将軍を斬るのは、ごめんだな。




