第11話 毒の魔女
※前半はアレイシア視点です。
※後半はイプシロン視点です。
「撤収だと? 認めん!」
パラックルは冷酷に言い放つ。私は従うしなかなかった。拳を握りしめながらも、頭を下げ、彼の前から下がる。
2つの戦いで大勢の姉妹が殺された。シリオード軍は思っていたよりも遥かに強大だった。魔法の科学力は私たちを凌いでいる。知らない地形、知らない世界、知らない武器。明らかにシリオード軍の方が優勢だった。
「コマンダー・アレイシア中将、敵は既に守りを固めています。守りやすく、攻めにくい地形です。ここは撤収するべきかと」
クローンの1人――コマンダー・ログが私に声をかけてくる。彼女はクローン准将らしい。ということは私と同じく正式な地位を持っている数少ないクローンだ。
「分かってる。だが、パラックルは許してくれなかった」
「では、作戦は続行する、と?」
「……すまない」
「…………」
私は左右の山の方を見る。高い雪の降り積もった岩山だった。そこからは未だに爆音が鳴り響き、厚い雲に緑の光が反射する。ケイレイトやコマンダー・レイたちが戦っているのだろう。
「コマンダー・ログ。頼みがある」
「なんですか?」
「私と無能な連合政府リーダーに変わって部隊を率いてくれ」
「アレイシア中将はどうするつもりですか?」
私は深い森の方を睨むようにして見つめる。本道から進んでも勝てる見込みはない。恐らく全滅するだろう。例え勝ったとしても、ほとんどの兵を失うだろう。ならば――
「私は少数の部隊を引き連れ、森から敵軍基地へと向かう」
「奇襲、ですか?」
「……ああ」
カリュプソ率いる軍勢を、コマンダー・ログが引き付ける。その間に森を通ってシリオード軍の本陣でもある前線基地を奪い取る。それが私の作戦だった。
「分かりました。盛大に敵軍を引き付けておきますよ」
「……すまん」
私はコマンダー・ログの側から立ち上がると、雪が降り積もった冷たい地面を歩こうとした。そこでちょっとした疑問を口にした。
「……なんで、私たちが3手に分かれて侵攻する事がバレたんだろうな」
「どういうことですか?」
「……作戦が、シリオード軍に漏れてる」
それだけ言うと私は歩き出す。不思議だった。なぜシリオード軍は南にある3つの道に軍を配備できた? しかも、ほぼ全部隊。まるで来ることが分かっていたみたいだった。
考えたくはないが、私のすぐ近くに裏切り者がいる。誰が……? あの時、最高司令室にいたのはクローン将官だ。クナ、フィルスト、コマンダー・レイ、コマンダー・モル、コマンダー・ログ……。誰が敵に情報を流してるんだ……?
「…………」
◆◇◆
【シリオード軍 前線基地 拷問部屋】
椅子造りの薄暗い拷問部屋。私は椅子に座って、鞭打たれる裸のクローン共を見ていた。部屋には3人のクローンが両手首を縛られ、吊り下げられていた。彼女たちに3人のシリオード兵が鞭を振るう。
「へぇ、クローンって頑丈なものね。拷問され慣れてるのかしら?」
背中を血まみれにしてもなかなか情報を吐かない人工の魔女。彼女たちは皆同じようにすすり泣くだけで、一言も発してくれない。
まぁ、裏切り者がいるからそんなに情報が欲しいワケでもないんだけどね。……残念ね。彼女たちがどんなに口を堅く閉じても、裏切り者が何もかも教えてくれる。いわば、彼女たちの努力は無に等しい。
「前線基地を陥落させた後はどのようにしてシリオドアに迫るつもりかしら? シリオード大山脈を軍艦の艦隊で越える? それとも西進して街々のある平地を進むのかしら?」
帝都シリオドアに迫る方法は2つ。この基地を拠点にして北進。シリオドアの南に出る。ただ、シリオード大山脈を越えなければならない。もう1つは、ここから西進し、大きく迂回してシリオドアの西に出る西進。かなりの回り道になる。
「私なら西進するでしょうけどね」
北進はほぼ不可能だ。軍艦程度で猛吹雪のシリオード大山脈を越える事は出来ない。コア・シップは大きすぎる。それに、西進する予定があるから60万の大軍を引き連れて来たのだろう。
私はナイフを握り、クローンの1人の目の前に立つ。涙の膜を張った赤茶色の目。私への明らかな恐怖心がそにはあった。
「あなたたちの将軍と中将もすぐに後を追わせて上げるわ」
私はそのクローンに近づくと、彼女の股に手をやり、弄り回す。数分の間弄ってたが、不意に手を離すと持っていたナイフで彼女の股を勢いよく突き刺す。
悲鳴。私の指で弄り回されたそこは敏感になっていた。彼女は暴れ、泣き叫ぶ。激しく動いたせいで、股に突き刺した血まみれのナイフは床に音を立てて落ちる。
「西か、北よ」
隣のクローンに近づくと、左の乳房を鷲掴みにし、血の付いたナイフを下乳に押し当てる。なにをされるかわかったそのクローンは血相を変えて叫ぶ。
「西! 西です!」
「へぇ、そうなんだ」
私は一言そう言うと、ナイフを横に勢いよく滑らせた。このクローンも悲鳴を上げる。私は構わずに右の乳房にナイフを走らせ、完全に斬り落とす。
自身の手を血まみれにした私はハンドガンを手にし、それをクローンたちに向ける。それを見た瞬間、彼女たちは表情を強張らせる。
「いいじゃない。ここで死ねて」
「い、イヤ……」
「楽になりなさい」
私はそう言って、彼女たちに向けて発砲した。今までは胴体から血を流していた彼女だったが、今度は頭から血を噴く。魔女たちの最期だった。




