第9話 漏れる情報
※前半はコマンダー・アレイシア視点です。
※後半はイプシロン視点です。
【連合軍 司令艦 最高司令室】
シリオード大陸南東部に着陸した連合軍の艦隊。司令艦1隻、コア・シップ5隻、軍艦25隻。私たちはここまで撤収していた。
「敵の数は30万。私たちの半数みたい」
「でしょうね。シリオードがそれだけ兵を集められただけでも予想外ですよ」
私は解毒剤を飲みながら言った。あのイプシロンとかいう女、かなりの強敵だ。毒性がかなり強い。危うく毒だけで命を落とすところだった。
パーフェクターとは特殊能力者のことだ。生まれつき特殊な能力を持つヤツがこの世界には存在する。とはいっても、その確率は1000万人に1人以下らしい。
「ケイレイト将軍はこの後どうする予定で?」
「…………」
ケイレイトは黙り込む。特にいい策がないらしい。緒戦であれだけ悲惨な目にあったらさすがに何も浮かばないか。
近くにいるクローン将官のクナやフィルスト、コマンダー・レイ、コマンダー・モルも黙ったまま。うわっ、空気悪いな。
「……一度撤収してみてはどうですか?」
側にいたコマンダー・レイがようやく口を開く。彼女も私と同じクローン。階級は少将(クナ、フィルスト、コマンダー・モルも少将だけどな)。
「それが出来たら苦労しない」
ケイレイトがため息交じりに言う。そう、どうしても撤収できない理由があった。……おっと、噂をすればさっそく現れたようだ。
最高司令室の扉が開かれ、1人の男性が入ってくる。連合政府リーダーの1人――パラックルだ。その後ろから2体のバトル=パラディンを伴ってやって来る。
「侵攻作戦の新案は完成したかな?」
「いえ、まだです」
一番近くいたコマンダー・モルがパラックルの質問に答える。
「なに? まだ出来ていないのかね? フン、動きのクローン共ですな。自然の魔女共も動きは遅かったが、まさか人工の魔女も動きが遅いとは」
コイツ、最前線に放り投げたろうか。
「もうよい。どくのだケイレイト」
パラックルは半ば無理やりケイレイトを押しのけると、自分自身が最高司令席に座り込む。そして、目の前に表示される戦闘データを見ないで口を開いた。
「作戦はこうだ。まずは敵の前線基地を陥落させる。その為にコマンダー・レイとコマンダー・モルが左の間道から、クナとケイレイトが右の間道から進むのだ。わたしとキャプテン・フィルドで中央から一気に進む。異論は?」
誰も口を開かない。例え、反論したところで彼が聞く耳を持たないのはみんな分かりきっている。それに他にいい作戦もない。
「よし。左と右はそれぞれ10万の兵を率いるのだ。我々は20万の兵を率いて中央から正々堂々と進む。分かったな?」
「大勢の犠牲が出そうですが――」
「黙れ。すぐに準備に取り掛かるのだ」
パラックルはそう言うとさっさと最高司令室を出て行く。残された私たちは従うしかなかった。誰かがため息をついた。私もため息を付きたかった。
◆◇◆
【シリオード帝国軍 前線基地】
私は目の前の画面を眺めていた。“連合政府の司令艦からの短い電子メール”。それによると、人工の魔女たちがまたやってくるらしい。
「ニュクスは左、エレボスは右から来る連合軍を始末しなさい。兵力はそれぞれ5万ずつ」
私は南王ニュクスと西王エレボスに命令を下す。2人は一礼して下がっていく。シリオード軍なら倍の数のクローン軍を相手に出来る。左右から来る軍勢は10万ずつ。ならば5万の兵力で勝てる。
「カリュプソ。あなたは20万の兵を率いて正面の連合軍を倒しなさい」
「分かりました」
女性の東王カリュプソもさっきの2人と同じように一礼して下がっていく。だが、部屋を出るその足が不意に止まる。
「捕まえた捕虜をどうする気ですか?」
「それはあなたには関係のないことよ。私が拷問するわ。さっさと行きなさい」
「……分かりました」
彼女はそう言うと、左右にスライドする扉を開け、部屋から出て行く。私は再び画面に目を戻す。送られてきた電子メールを削除すると、少しだけ笑った。
コマンダー・アレイシア、ケイレイト……。あなた達連合軍の中に裏切り者がいるって知ったらどうする?
「ホント、ラグナロク大戦は面白い戦争よね」
私は目の前の大きな薄いパネル画面に今度はコマンダー・アレイシアやクナの姿を映し出す。EF2008年に生み出されたまがいもの。
コマンダー・クナ。EF2010年に誕生。超能力・魔法特化。コマンダー・レイ。EF2013年2月に誕生。コマンダー・モル。EF2013年3月に誕生。この3人はケイレイト直属の部下なのね。家族のように大切にされているらしい。
「バカね。クローンなんて、奴隷でしょう? 機械が生み出した魔物よ」
特にコマンダー・レイとコマンダー・モルという名前はケイレイトの友人の名前から取ったらしい。モルトレイ。クローンたちのオリジナル――フィルドに殺された連合軍秘書だった。まぁ、よく割り切れてるものね。あなたの友人を殺した女のクローンを大切に出来るなんてね。
「失礼します、イプシロン元帥。そろそろ捕虜の尋問を行う時間です」
「分かったわ。すぐに行く」
私は画面を消すと、椅子から立ち上がる。さて、一番楽しい時間ね。人工の魔女はどこまで耐えられるかしらね?
◆フィルド=ネスト
◇「国際政府」の女性軍人。
◇フィルド・クローンのベースとなった女性。
◇EF2007年に「サキュバス討伐作戦」で指揮官を務めた。
◇連合政府の実験台にされていたが、1年ほど前に研究施設から脱走した。




