番外編 月夜の手紙猫
ある夜、ユメは夢の世界の丘の上に座っていた。
冬の星祭りが終わった後の静かな夜空は澄み渡り、満月が銀色の光を丘に降り注いでいる。
その光は、雪や草原に映るユメの尾の光をさらに美しく引き立てていた。
まるで夜空の星が地上に降りてきたかのように、ユメの尾の光は柔らかく輝き、風に揺れる草や雪の中に、ひとひらの夢を描いているようだった。
ユメは深呼吸をしながら、目の前の星々を見上げた。
冷たい空気が心地よく、彼女の中で静かな感動が広がっていた。
「こんなに綺麗な夜空、いつまでも見ていたいな」
ユメは思わず呟き、星々の光に心を預ける。
そのとき、どこからともなく軽やかな声が聞こえた。
「ねえ、ユメ」
ユメはふと首をかしげ、その声の主を探した。
精霊の猫が、静かに尾を揺らしながら、ユメの隣に現れた。
彼の尾の先からは、ほんのりと光が漏れ、夜空の一部のように浮かんでいた。
その光は、ユメが見るすべてのものを包み込み、優しい輝きを放っていた。
「月に手紙を書けるって、聞いたことある?」
精霊の猫が目を細めながら問いかけた。
ユメは首を傾げて、目の前の猫を見つめる。
「月に……手紙?」
その言葉はユメにとって初めてのもので、少し驚きながらも興味を抱いた。
精霊の猫は尾を軽く揺らし、空に向かって目を細めた。
「そう、月に向かって手紙を書いたら、星たちが届けてくれるんだって。夜空の月へ、あなたの想いを届けることができるんだよ」
その言葉にユメは目を大きく開き、心の中で何かが弾けるような気がした。
ユメはその話に心を動かされ、精霊の猫の後に続いて少し歩きながら考え始めた。
月に手紙を送る……それはとてもロマンティックで、何か特別なことのように感じられた。
「じゃあ、どうやって書くの?」
ユメが尋ねると、精霊の猫はその問いに満足そうに答えた。
「ほら、見てごらん」
精霊の猫が尾を揺らすと、空中に一枚の光の紙がひらりと現れた。
それは透明で柔らかく、見るからに特別な素材でできているように見えた。
「この紙は、あなたの尾の光で文字を描くことができる特別な紙だよ。文字が書かれるたびに、光が踊るんだ」
ユメはその光の紙を見つめ、目を輝かせた。
精霊の猫が笑顔を浮かべながら、ユメに言った。
「さあ、何を書こうか?」
ユメは少し考え、そして筆を取るように尾の先を紙に触れた。
光の紙は、ユメの尾の光を吸い込むように反応し、彼女の動きに合わせてその上に輝く文字が現れ始めた。
「最初は……何を書こうかな。」
ユメは声を出して自分に問いかける。
手紙を書くという行為は、ユメにとってとても大切な意味を持っていた。
彼女は心の中で大切な思い出や感謝の気持ちを整理し始めた。
「まず、四季の旅で出会った光のこと、友達のこと。冬の雪の森で迷子を助けたことも、忘れたくない」
ユメは尾を揺らしながら、文字を一つ一つ慎重に書き込んでいく。
光の文字は、ユメの尾の動きに反応し、柔らかな銀色の光となって紙の上で踊るように輝き出した。
その後、ユメは続けて書いた。
「そして、春風に乗った丘で感じた自由の喜びや、夏の川で友達と遊んだ日々、秋の光の道で作った新しい友達のことも……」
文字はユメの感情とともに流れるように現れ、彼女の心をそのまま映し出していた。
書き終えたユメは、少し不安そうに精霊の猫を見つめた。
「これで……届くのかな?」
その問いには少しだけ震えた声が混じっていた。
精霊の猫はユメの顔を見つめ、優しく微笑んだ。
「大丈夫、星たちは必ず届けてくれる」
その言葉に、ユメの胸の中に少しだけ安心感が広がった。
ユメは深呼吸をして、手紙を空に掲げた。
尾の光が文字を優しく包み込むと、光の文字は宙に浮かび、ゆっくりと夜空に舞い上がった。
星たちがその光を迎え、やさしく抱きしめるように光を包み込んだ。
二匹はしばらく静かにその光の行方を見守った。
ユメは目を閉じて、心の中で手紙が届くことを感じ取ろうとしていた。
「届いた……気がする。」
ユメが静かにそう呟くと、精霊の猫は尾を揺らして答えた。
「うん、きっと届いてるよ。星たちは、君の気持ちをしっかり受け取った。」
その言葉を聞いて、ユメの心は軽くなり、温かさが広がった。
夜空に輝く月と星々、そしてユメの尾の光が交わる瞬間、ユメは自分の心が月の光に届いたことを確信し、静かに微笑んだ。
手紙を送ることで、ユメは自分の気持ちや思い出を整理し、夢の世界の住人たちと繋がることができた。
尾の光を揺らすたびに、夜空の星々がやさしく瞬き、遠く離れた場所にまで光の思いを届ける。
丘の上で夜が更けるまで、ユメは尾を揺らしながら光の橋を眺め続けた。
迷子であった自分も、光を通じて誰かと繋がることができる。
そんな安心感に包まれ、心の奥がふわりと温かくなる。
ユメはそのまま静かに座り、月と星たちが描く光の世界を楽しんだ。
そして、自分がどこにいても、心からの思いがどこかへ届くと信じることができた。
夜空に輝く月と星々が、ユメの小さな幸せを見守りながら、夢の世界の夜をゆっくりと包み込んでいくのだった。




