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鬼の居た時代

作者: 小雨川蛙

 まだブラウン管テレビが主流だった頃。

 お祖母ちゃんがまだ生きていた頃。

 親が子を殺す事件がテレビで流れた。

 それを見てお祖母ちゃんが言葉を落とす。


「あぁ。鬼の居る時代が懐かしい」


 幼い私がどういう意味かと尋ねると、お祖母ちゃんはお祖父ちゃんの遺影を見つめながら話す。


「私は鬼に攫われた。攫われたから生きている」


 既に呆けたと思っていたお祖母ちゃんの言葉を私はまともに受け取っていなかった。

 だが、今にして思えばあの言葉は嘘ではなかったと思う。


 事実。

 お祖母ちゃんは攫われたのだろう。

 出身地を問えば曖昧なイメージだけを語り、学校に通ったかと聞けば一度も通わなかったと口にした。


「仕事だけをさせられた。馬鹿だったから」


 馬鹿だったから。

 お祖母ちゃんはその一言以上を教えてくれなかった。

 あるいは教えられるものが何もなかったのかもしれない。


 お祖母ちゃんは読み書きが出来なかった。

 両親に聞いても『お祖父ちゃんの手伝いばかりをしていた』と言葉が返ってきたばかりだ。

 対して私が生まれた頃には既に他界していたお祖父ちゃんはと言えば『片っ端から女に手を出す最低の男だった』とだけ教えてもらっていた。

 それ以上を聞いたことはなかった。



 *



 今日もまた親が子を虐待するニュースが流れた。

 先日は放置子が死んだという話も聞いた。

 悲惨でこそあれど、聞かなくもない時代となってしまった。


 だから、私の『これ』も珍しくない話として一般人の記憶には残らないだろう。


 ゴミ部屋に転がった骸。

 それが自分の産んだものだとは思えない。

 どこかに消えてしまえばと本気で思っていたものだが、このような形で消えるなんて迷惑千万。


 あぁ、いっそ。

 誰かが攫ってくれたなら良かったのに――。


「あぁ」


 逃げ場を失った思考が過去と繋がり、私はようやく祖父母の馴れ初めを悟った。


「鬼が居た時代ならば良かったのに」


 心の底から言葉を吐いた。

 自分が僅かな罪悪感も抱いていないことに驚きながら。

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― 新着の感想 ―
ちょっとこの主人公に憎悪を覚えてしまいました。 なんで自分の子供に愛情が持てない人がいるのだろうか。 人間の脳は本能をも超えてしまうものとなっている。そう感じます。 その力を平和のために使えば良いのに…
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