第6話「異世界市場は大パニック!?鉄球をぶん回す魔法少女(物理)が全部解決します!」
《市場襲撃――魔法少女(物理)が街を救う!?》
街一番の市場は、今日も活気でいっぱい――のはずが!?
突如として現れた魔物の群れに、屋台も人々も大パニック!
立ち向かうのは、プリンで変身する魔法少女(物理)と、クセ強ギルド仲間たち!
……って、包丁で戦う戦士とか、配信アプリ起動で必殺技とか、ツッコミどころ多すぎ!?
笑って燃えて、最後はちょっぴり胸が熱くなる第6話!
市場は、夕飯時を前にして、焼きたてのパンや果物の甘い匂いであふれていた。
「おねーたん! みてみて!
あのおじたん、なんかつくってまちよ! おいちそうでち〜!」
みきぽんは目を輝かせて、屋台に向かって走り出そうとする。
慌てて私は手をつかんで引き戻した。
「ちょっと待って! 勝手に走ったら迷子になるでしょ!」
「えへへ〜……ごめんでち」
にぎやかな笑い声と、商人たちの呼び込みが市場に溢れる。
――だがその平穏は、鋭い悲鳴と共に消え去った。
「ぎゃああああっ!」
「た、助けてくれーーーーっ!」
路地から慌てた様子で、街人たちが逃げ出してきた。
それを追うように、黒い影のような小鬼の群れが飛び込んでくる。
灰色の肌はどす黒く、濁った黄色の眼がぎらついている。
口を裂くほどに伸びた牙からは涎が垂れ、手にした粗末な槍には乾ききらぬ血がこびりついていた。
ケルトの伝承に語られる〈ファル・グラス〉――“灰色の民”。
人間の死肉を好み、夜陰に紛れて村を襲ったという忌まわしい怪物だ。
「市場が魔物に襲われてる! 冒険者を呼べ!」
「くそっ、――警備兵はまだ来ないのか!」
商人たちが商品を抱えて逃げ惑い、子どもたちが泣き叫ぶ。
ほんの数刻前まで賑やかだった市場は、一瞬で修羅場と化した。
その騒ぎの中、私たちの前に飛び出してきたファル・グラスが、ぎらぎらとした目で睨みつけながら槍を振り上げた。
「……みきぽん!」
「まかせるでち!」
私たちは目と目で合図をする。
するとみきぽんの胸のブローチが、ぱあっと光を放った。
次の瞬間、どこからともなく出現したプリンがふわっと宙に浮かび、これまたどこから出てきた状態の銀のスプーンが手元に収まる。
「プリンを食べて、華麗に変身!
魔法少女――マジカル☆みきぽん!!」
パクッとひと口食べると、甘い香りとともに光のリボンがみきぽんを包み込んでいく。
ツインテールがふわりと舞い、ワンピースはフリルやリボンをまとって“魔法少女ドレス”へと変化した。
(てか……やっぱり敵さん、変身が終わるの待っててくれてるのね……)
最後に鉄球付きのステッキが「ガシャーン!」と音を立てて顕現し……
「いっくよーー☆」
みきぽんはゆめかわ空間の中心で、キラーンとポーズを決めた!
目の前で何が起きているのか理解できずに、敵も味方もみんなポカーンとしてる。
……わかる。わかるわー、その気持ち。
「ギギギギギッ!」
痺れを切らしたファル・グラスが襲いかかってくる。
私はすかさず杖を構えて、覚えたてのファイア・ボルトを唱えた。
「ギャギャアアアッ!」
でも一匹を倒しても、すぐにまた次のファル・グラスが飛びかかってくる。
呪文は効いているんだけど、とにかく数が多すぎる!
これはやばいかも……
――その時。
「よっしゃあ、ここは俺に任せろ!」
野太い声とともに、屋台の向こうから飛び出してきたのはバルガンだった。
両手には……大きな包丁!?
「な、なんで包丁なの!?」
「ダーッハッハッ! 斧を取りに帰るのがめんどくさくてな……つーか、こいつらにはこれで十分だ!」
包丁をブンブンと振り回しながら、ファル・グラスを豪快になぎ倒していく。
しかも切った後に、なぜか
「カブは葉っぱまで食えよ! 食事は栄養バランスが命だ! ダーッハッハッ!」
……と説教までしている。
バルガンの豪快で自由奔放な包丁捌き。
それは自己流ながら、数多くの闘いを経て磨き上げられてきた重みを感じさせる。
「待たせたな――下がれ、この場で私が終わらせる!」
先に店の中に入り込んでいた小鬼を退治していたリゼは、私たちに合流すると、鋭く叫んで剣を構えた。
「女神モリガンの名にかけて――黒翼連舞ッ!」
次の瞬間、流れるような剣舞と共に黒い羽根が舞い散り、小鬼たちは一瞬で地に這いつくばった――!
王立軍の中でも精鋭揃いと名高い《黒翼戦士団》の団長を務めているリゼは、目にも止まらぬ剣捌きでファル・グラスを次々と薙ぎ払った。
彼女の冷徹な剣技に一瞬で戦意を失った小鬼たちは、ギイギイと悲鳴を上げながら逃げていった。
「ふふっ……流れは決まったようね」
ノエルが一歩踏み出て優雅に竪琴を爪弾き始めると、優しい光が仲間たちを包み込んだ。
不思議と疲れが消えて、体が軽くなっていく。
それは吟遊詩人の、まるで歌うように紡がれる癒しの魔法だ。
「……ありがてぇ、疲れが吹っ飛ぶぜ!」
「どうしたバルガン、あれしきの戦いで音を上げるお前ではあるまい」
「ちげーよ、その前の大鍋を振るってた疲れだっつーの、ダーッハッハッ!」
しかし、余裕を見せられたのはほんの一瞬だけだった。
次の瞬間、路地の奥から――ぞろぞろと、影のように小鬼たちが湧き出してきた。
「な、なんでこんな数……!?」
十、二十……いや、数えるのが間に合わないほどの早さで増えていく。
黒い波のように市場へ雪崩れ込み、瓦礫を蹴散らし、逃げ遅れた人々を狙って牙を剥いた。
暗がりにぎらりと光る無数の赤い瞳。
その異様な光景に、背筋が凍る。
「くっ……これじゃキリがない!」
気付けば、私たちは完全に取り囲まれていた。
槍の穂先を突きつけながら、ファル・グラスの大群がじりじりと間合いを詰めてくる――!
「おねーたん……!」
みきぽんが震える小さな手でステッキを握りしめる。
「オッケー!」
私はうなずくと、ローブからスマホを取り出して掲げた。
あの時のように配信アプリが立ち上がると、画面からあふれ出したコメントが、続々とホログラムのように私を取り囲んだ。
【うぉぉ、待ってました!今日の配信はこれか!?】
【待ってたよ、まきぽん!】
同時接続者数……300人!?
やば、新記録じゃん!!
「みんなー! 今日も見に来てくれて、ありがとー!」
【まきぽん、また戦ってるの? がんばれ!】
【ちびっこ魔法少女、いけぇ!】
コメントは光の呪文に変わり、渦を巻きながら私の周りを周りだす。
「みきぽん、みんなの声を……!」
「うん! ぜんぶ、ちょーだいでち!」
魔法のステッキから伸びた鉄球に、光の奔流が次々と吸い込まれていく。
一筋一筋が絡み合い、やがて渦を巻きながら収束すると――鉄球の表面に鋭い稲光が走った。
バチィッ! バチバチッ!
火花が四方に散って――
今にも爆発しそうなその迫力に、私は思わず息を呑んだ。
「ひっさつ! マジカル☆――」
【うおおおおおおお!】
【ぶちかませーーーーー!】
みきぽんが振りかぶる。
「シャイニング――モーニングスターーーーッ!!!」
ドッゴォォォォンッ!!!
雷をまとう鉄球が大地を砕き、残ったファル・グラスたちを根こそぎ吹き飛ばした!
……あ、建物もついでに2、3個吹っ飛んでる……ま、いっかw
辺りに舞い上がった土煙が静まり返ると……
そこには呆然とする人々と、誇らしげにポーズを決めるみきぽんの姿があった。
【や、やったぞーーーっ!】
【マジかwww】
【妹、もはやマップ兵器……】
「みきぽん、すっご……」
「えっへん! またまたおねーたんをまもったでち!」
私はその愛らしい笑顔に思わず笑ってしまった。
そしてどこからともなく拍手が巻き起こり、市場の人々が口々に叫び出した。
「助かったぞ、冒険者たち!」
「ありがとう! 魔法少女ちゃん!」
歓声と拍手が市場を揺らす中、胸の奥に引っかかるものがあった。
……そうだ、これだけは言わなきゃ。
「……あのっ!」
思わず声を張り上げる。
「お店、いっぱい壊しちゃって……ごめんなさい!」
頭を深く下げた私に、一瞬だけ場が静まり返る。
けれど、杖をついた市場の長老がゆっくりと歩み出てきて、穏やかな声で言った。
「フォフォフォ……いいんじゃよ。
人の命さえ無事なら、店などいくらでも建て直せる」
その言葉に、胸がじんと熱くなった。
「……ありがとうございます!」
涙がこぼれそうになるのをこらえた瞬間、再び大きな拍手と歓声が広がっていく。
あふれんばかりの温かさに包まれて、私は――
やっと、この異世界に「居場所」を見つけた気がした。
※今週は毎日更新予定です!
次回もお楽しみに♪
読了ありがとうございます!
市場に現れたファル・グラスを、みきぽんの 「マジカル☆シャイニング・モーニングスター!!」 がド派手に吹き飛ばしましたね!
……ついでに建物も2、3軒ほど消えましたが(笑)
まきぽんが“ここで生きていい”と感じ始めた、大切な転機の回でした。
次回――
みきぽんの入団祝いは 異世界居酒屋で大騒ぎ!?
みんなでワイワイ、生配信も始まって――
酒場で繰り広げられるドタバタの陰で、まきぽんが感じた”違和感”とは……!?
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