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異世界で待ってた妹はモーニングスターで戦う魔法少女(物理)だった件  作者: 未知(いまだ・とも)
第2章 〜私たちの還る場所〜

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第48話「雪中の晩餐——弔いの夜」

仲間やリスナーたちと力を合わせて、見事強敵、フア・モールを倒したまきぽん。

でも、一難去ってまた一難。

今度は『生きる残るための戦い』が始まった……!?

私たちはしばらく息を整えながら、フア・モールを見つめていた。


地に臥した巨体は再び動く気配を見せず、

粉々になった氷のたてがみは、王の死を弔うかのようにキラキラと輝きながら辺りに散らばっている。


「ふぅーっ……」


バルガンは大きく息を吐くと、戦斧を肩に担ぎ、空を仰いだ。

氷の壁に映っていた過去の仲間たちの姿は、いつの間にか消えている。


「……行っちまったな」


「これで、終わったんだね……」


行く手を塞ぐ強敵との戦いも。

彼を苦しめていた、過去の記憶との決別も。


「ああ、そうだな……」


ぽつりとつぶやくバルガンの横顔は、少しだけ寂しそうだった。


「おねーたん、さむいでち」


ローブの中のみきぽんが、小さく震えながら袖を引っ張る。

変身が解けた後のみきぽんは、どこにでもいる小さな女の子なのだ。


「わっ、ごめん! まずはあったかいとこ行かなきゃ」


「そうね。とにかく、この吹雪を避けられる場所を探しましょう」


「ああ、……このままじゃ凍えてみんな死んじまう!」


ノエルの提案で、私たちは近くの岩場へと移動することにした。


幸いすぐ近くに、吹雪をしのげそうな岩の窪みが見つかった。

雪庇せっぴに守られ、風が直接吹き込んでこないだけでも、体感温度が全然違う。


「ここなら、なんとか一晩は過ごせそうだな」


「私はエリアスさんみたいな上位魔法は使えないから、これで我慢してね」


ノエルは竪琴をつま弾き、結界の魔法を使った。

すると辺りは、再び柔らかな光のバリアに包まれた。


「わぁ、あったかいよ……ノエル、ありがとう!」


小さな結界だが、吹雪を防ぐには十分だし、透明な丸いテントに包まれたかのような安心感がある。


「よし。なら、まずはメシだな」


バルガンはそう言って、荷物から手際よく食材と小さな鉄鍋を取り出した。


「わ、お鍋入ってる!」


「おうよ。姫様たちを腹ペコにさせるわけにはいかねえからな」


「おひめたま!」


みきぽんは、先ほどの戦いや身を切るほどの寒さも忘れたのか、もうはしゃいでいる。

バルガンは慣れた手つきで枝を集め、焚き火の準備を始めた。


「おし……火、つけてくれ」


「おっけ!」


私は初級の炎系魔法、フィア・ベグで枯れ枝に火を灯す。

ノエルはその横で、ポーチから乾燥した野菜や香辛料ハーブが入った布袋を取り出した。


「さすがノエル、ちゃんとこういう時の準備もバッチリだね」


「うふふ、こういうのは任せてね〜」


やがてパチパチと小さな火花をあげながら、炎が窪地を照らし始めた。


オレンジ色の暖かな光に照らされると、

さっきまで張り詰めていた緊張が、少しずつほぐれていく。


「……よし、火はこれでいいな。あとは食材なんだが——」


みきぽんは、私に体を擦り寄せるようにして震えている。

ノエルも、かじかんだ指先を擦り合わせて、必死に暖をとっていた。


「この厳しい寒さを乗り越えるには……しゃーねーな」


バルガンは雪原の方を振り返った。

そこには、まだフア・モールの巨体が横たわっている。


「ちょっと行ってくる」


バルガンは短くそう告げると、戦斧を持って雪原へ戻っていった。


「バルガンたん、どこいくでち?」


「大丈夫。すぐ戻ってくるよ」


私は頷いて、焚き火のそばにみきぽんを座らせた。


 * * *


——しばらくして。


ギシ、と雪を踏む音と共に、バルガンが戻ってきた。

片手には、新鮮な肉の塊を提げている。


「待たせたな」


「それって……」


「ああ、フア・モールの肉だ。

 こいつは魔獣だが、瘴気や毒は持ってねぇし、ちゃんと火を通せば食えるはずだ」


「そっか……食べちゃうんだね」


脳裏に一瞬、フア・モールの青白い瞳が浮かび上がった。


「そうだ。たっぷりと脂を溜め込んでるからな」


バルガンは火の側に腰を下ろし、ゆっくりと言葉を続ける。


「俺はようやく、あいつに勝って仲間たちの無念を晴らした。

 ——だがよ、この寒さじゃ俺たちの命も危ねえ」


私は結界の外で吹きすさぶ雪を見つめて、ゴクリと息を飲んだ。


「だから今は、

 こいつの命をいただいて、俺たちの生きる糧にさせてもらう」

 

「バルガン……」


「それによ」


バルガンは、遠くの雪原を見つめた。


「——あいつらにも一杯、よそってやりてえんだ。

 遅くなったが、ちゃんと温かい飯を食わせてやらねえとな」


その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじん、と熱くなった。


「……うん。じゃあ、いただこう。

 フア・モールの命も、バルガンの気持ちも、全部」


私は静かにうなずいた。


みきぽんは大人たちの話に飽きたのか、雪を口に運ぼうとしていた。


「かきごーり!」


「おっと、ちびっ子! ——雪をそのまま食っちゃダメだぞ。

 体温が奪われちまうからな」


「あい……」


「みきぽん、お腹すいちゃったかな?」


私は、みきぽんの頭を撫でてやった。


「よし、それじゃあ調理開始といくか!」


バルガンは気合を入れ直すと、手早く肉を切り分けはじめた。

ノエルはその隣で、根菜とハーブの準備を始める。


「肉は小さめに切った方が、火が通りやすいわね」


「この葉っぱは?」


「タイムとローズマリーよ。肉の臭みを消してくれるわ」


ノエルは慣れた手つきでハーブをちぎり、鍋に放り込んでいく。


私は鍋に雪を満たし、火にかけた。

すると雪が溶け、程なくして、ぐつぐつと小さな泡が立ち始めた。


「いいによいでち〜」


「ほんとだね!」


結界の中に、肉とハーブが混ざり合った香りが、じんわりと広がっていく。


「おし、そろそろいい感じじゃねぇか?」


バルガンが蓋を少しずらすと、白い湯気がふわっと立ち昇った。


「うわぁ……」


思わず声が漏れる。

そこには黄金色の脂が浮かんだ、見るからに美味しそうなスープが出来上がっていた。


「まずは——」


バルガンは木の椀を一つ取り出し、そこにたっぷりとスープをよそう。

肉と野菜を少し多めに入れてから、ふぅと息を吐いた。


「お前ら、待たせちまって悪かったな」


そう言いながら、さっき戦った場所の方を向き、岩の上にお椀を置いた。


「今度こそ、最後まで一緒だ。

 ……ゆっくり食って、ゆっくり休んでくれ」


静かに食事を供えると、バルガンは胸に手を当てて一礼した。


それを見たノエルも胸の前で手を組み、そっと祈りの言葉を口にする。


「あなたたちの旅路に、安らぎがありますように」


「……あの人たち、聞いてるかな」


私が呟くと、ノエルは微笑んだ。


「ええ。きっと、届いているわ」


「じゃ、次は生きてる俺たちの分だな!」


バルガンは雰囲気を変えるように、わざと明るい声を出した。


「冷めないうちに食えよ。ほら、まきぽん」


「ありがとう」


受け取った木の椀から立ち上る湯気が、暖かく頬を包み込む。


「みきぽんちゃんは、ちょっと冷ましてからにしましょうね〜」


「あいでち!……ふー、ふー……」


みきぽんはノエルからお椀を受け取ると、たどたどしい仕草でスープを冷ましている。


「フア・モールのスープって、どんな味かな」


「さあな——」


バルガンは顎髭に手をやった。


「でも、俺たちはありがたくいただくまでよ。

 ……これは弔いでもあり、今を生き抜くための祝杯でもあるんだからな」


「じゃあ——」


私はお椀を両手で包み込むとみんなに目配せをした。


「「「いただきます」」」


「あい、いたらきまち!」


そしてみんなで、同時にスープを口に運ぶ。


「……あったかーい……」


最初に舌に触れたのは、根菜の優しい甘みと、ハーブの爽やかな香り。

その奥から、肉の旨味がじんわりと広がってくる。


さっきまで命がけで戦っていた相手の一部が、自分の血肉になっていく——

なんだか不思議な感覚に、少し戸惑いを覚える。


でも、そんな感情は一口含んだらすぐに吹き飛んだ。


「おいしっ……!」


思わず声をあげると、バルガンもニッと笑った。


「お、意外といけるな?」


「ぽかぽかでち〜!」


「よかった。……これで、少しは寒さも楽になるわね」


ノエルも頬をほころばせながらスープを飲んだ。


挿絵(By みてみん)


 * * *


焚き火のはぜる音と、安らかな吐息が野営地に響く。

さっきまで吹き荒れていた吹雪は、いつの間にか弱まっていた。


私はふと、胸元のスマホのことを思い出した。


「……そうだ」


「おう、精霊との交信か?」


バルガンの言葉に、私はこくりと頷く。


「うん。さっき、戦闘中に中途半端で終わっちゃったから……

 とりあえず、ちゃんと結果を伝えておこうかなって」


私はスマホを取り出し、焚き火と鍋が映るようにカメラを向けた。


「えーっと……みんな、まだ見てるかな?」


【お、再開した! 生きてたか〜!?】

【生還報告きた?】

【うわ、焚き火いい雰囲気じゃん】


ホログラムのコメントが宙に浮かぶ。


「さっきは、すごく危ない戦いになっちゃった。

 でも、おかげさまで——」


私は隣にいるバルガンとノエル、そして膝の上でスープを抱えているみきぽんを順番に映した。


「こうして、全員無事です!」


【よかった……!】

【マジで心臓に悪かったぞ】

【でも、生きてりゃOKだ】


「ありがとう!」


【てかまきぽん、急に上位魔法が使えるようになったとか、聞いてないんだけどw】

【俺らが見てないうちに、何かあった?】


「うん、それなんだけどね。私、女神様に選ばれて、この世界を救うことになっちゃって……」


ティルナノは、AIが

『ゲームの制約の中で各プレイヤーに合わせたオリジナルのストーリーを提供するシステム』

になっている。


……私だけ、ストーリーどころか『転移』しちゃってるわけだけどw


【そうか……救世主になったのか、まきぽん】

【急に、世界救う系配信になってる】


「それで、この『世界を救う』ルートにいる間だけ、条件付きで魔法が全部解放されてる、そんな感じなんです」


【でもさ、いきなり全魔法解放って普通にチートじゃね?】


まあ、そう思う人もいるよね。

だが、そこはすかさず、他のリスナーさんがフォローしてくれた。


【世界救うために代償もしっかり喰らってるんだし、そのくらい許してやれよww】

【つかお前も、インフェルノ一発でこの子がフラフラだったの見てただろ?】


「そうなの、強い魔法ぶっぱすると、私の方が先に倒れそうだから……

 できるだけ、使う魔法は工夫する方向でいくね!」


【なるほど、そういうストーリーだったのか】

【いいなー、俺も救世主シナリオ遊びてぇw】

【よし、じゃあ俺らも世界救済ムーブを見届けるぞ!】


「うん、みんな、応援よろしく!

 ……それでね」


私は少しだけ迷ったけれど、フア・モールのことも端的に話すことにした。


「さっきのフア・モールを倒して……

 今、そのお肉をちょっとだけ分けてもらって、みんなで食べてます」


【えっ、食ってるのかよ!?】

【供養フルコースで草】


「うん。ちょっと抵抗もあったけど、まずはこの寒さを生き抜かないとだしね」


【確かに、凍死しかねないもんな】

【まきぽん、しっかり栄養つけろよ】


「それにね……

 バルガンの昔の仲間たちのためにも、ちゃんと弔いをしようってことになって」


私は、岩場に置かれた一杯の椀にカメラを向けた。


「あそこに、その人たちの分もお供えしたんだ。

 一緒に食べてくれてたらいいなって、思って」


【なんか、それ聞くとちょっと泣きそう】

【バルガン……よかったな】

【画面越しに、俺らも『いただきます』しとくわ】


みんなの言葉に、胸の奥がじんわりと温かくなる。


「さ、今日はもう終わり!

 ちゃんと休んで、明日からまた、境界の聖域を目指すからね!」


私は画面に向かって微笑んだ。


【了解!】

【みんなちゃんと寝ろよ】

【まきぽん、配信切っていいから、また次な】


「うん、ありがとう。

 それじゃあみんな……また、次もよろしくね〜!」


私はそっと配信を切った。

ホログラムの光が消えると、窪地には焚き火の明かりと、スープの湯気だけが残る。


「まきぽん、今日はよく頑張ったな」


バルガンはそう言いながら、スープを流し込んだ。


穏やかな笑みを浮かべた彼の心の中では——

きっと、過去の心残りが少しずつ溶けて、流れて行っているのだろう。


「……そうだ、エリアスたちにも報告しないとね」


今度は、通信アプリに切り替えた。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

雪山編では、バルガンの背負っていた過去に迫ってみました。

こんな風に、またキャラごとの深掘りもしていきたいですね。


次回もお楽しみに♪

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