第47話「氷上の決戦、フア・モール攻略!」
上位魔法すら防いでしまう、フア・モールの最強のたてがみ。
まきぽんたちは、どう挑む——!?
【そのチート装甲、破壊できるんよ】
吹雪の中、ホログラムのように浮かぶリスナーのコメントがとても頼もしく思える。
「……えっ、どうやるの!?」
【時間なさそうだから、手短にいくね】
「う、うん」
【中位魔法に『メテオライト・シャワー』ってのがあるだろ】
「メテオライト・シャワー……」
私は、目の前に展開された魔法ウィンドウを必死にスクロールする。
ずらりと並んだアイコンの中から、炎のマークがついた中位魔法が目についた。
「あった、これかな?」
説明欄に目を走らせる。
そこには「広範囲に火球を降らせる、炎属性の中位攻撃魔法」
と、書かれていた。
【そうそう。まずその『メテオライト・シャワー』で熱を与える。
もちろんそれだけじゃ、こいつのカッチカチのたてがみは破壊できない】
「うんうん……」
【でな、次に間髪入れずに氷結魔法を食らわすんだ】
「氷結魔法……?」
【そう。呪文は中位の『フローズン・ニードル』でいい。
それなら、まきぽんの負担もデカくないだろ?】
「フローズン・ニードル……」
今度は水色のアイコンを探して、目的の呪文に指を止めた。
説明には「攻撃対象を氷の微細な針で囲み、凍結させる」とある。
消費MPは、さっきの魔法よりずっと少ない。
【そして……脆くなったところを、物理攻撃でぶっ壊す!】
「物理!」
私はハッとして、隣のみきぽんを見た。
「そうか! 熱してから一気に冷やすと……!」
【うん、物質は硬くなるが脆くなる!】
リアルでの物理法則は、ちゃんとこの世界でも活かされているんだ……。
「わかった、やってみるね!」
目の前では、フア・モールがたてがみの焦げを振り払うために、ぶるりと身を震わせていた。
焼け焦げた部分には、たちまち新しい氷の結晶が成長している。
(やば……ほんとに再生してる……)
首元が、再び青白く光る氷のたてがみに覆われた。
焼け焦げて黒ずんでいた部分は、もうどこにも見当たらない。
「再生……しきっちゃった……」
思わず息を飲んだ、その直後、
巨獣は前足をしきりに雪原へ叩きつけ始めた。
その爪はいとも容易く、氷の大地に深い傷を刻み込んでいく。
「……来るぞ」
バルガンは眦を決して、フア・モールを睨みつける。
かつて彼の仲間を一撃で葬った鋼鉄の爪が、今度はバルガンと私たちに襲いかかろうとしている。
私は、バルガンの横顔に目をやった。
きっと彼は、今、その場面を思い出している。
忘れたくても忘れられず、何度も彼を苦しめた記憶を——。
「……みんな、聞いて!」
私は、さっきリスナーさんが教えてくれたことを、みんなに掻い摘んで説明した。
「……そうか、そんなやり方が……」
バルガンが目を細める。
「わかったわ、防御は私に任せて!」
ノエルは竪琴を抱え直し、そっと頷いた。
「あいでち!」
みきぽんはぴょこんと立ち上がると、胸のブローチをポンと叩いた。
「プリンを食べて、華麗に変身!
魔法少女——マジカル☆みきぽん!!」
ぽふん、とかわいい音を立てて、プリンが出現する。
みきぽんがスプーンで一口すくって、ぱくりと口に入れると——。
辺りは謎のゆめかわ空間に変わった。
淡いパステルカラーの光が渦を巻き、キラキラ光るリボンと星屑がみきぽんを包み込む。
ワンピースはふんわりと広がり、ハーフツインに伸びた髪にはリボンが結ばれた。
「いっくよ〜!」
虚空に手を伸ばすと、その手には見慣れたモーニングスター……
可愛い星型の飾りと凶悪な鉄球が合体した、あの最終兵器が握られていた。
【マジカル☆みきぽんキターー!!】
【俺、これ見るために今日ここ来たんよ】
【なおこの幼女、戦力は一個小隊級】
この時を待ち望んでいたリスナー達で、コメント欄が一気に沸き立つ。
ノエルが奏でる守護の歌を聞きながら、私はスマホを握り直した。
「よーし、ここからだよ! みんな、応援のコメントよろしくねー!」
【いっけー、まきみき!!】
【今日もぶちかましてくれ!】
【たてがみ粉砕RTA始まったな】
コメントはきらきらした光の呪文になって、私たちの周りを渦巻き始めた。
それは魔力へと変換され——
私を内側から励ますかのように、じんわりと心を熱くしてくれた。
「じゃあ、まずは……これ!」
私は『メテオライト・シャワー』のアイコンをタップした。
目の前に巻物が現れ、そこに刻まれたオグム文字が輝きながら浮かび上がってくる。
脳に知識が直接インプットされるような、不思議な感覚。
(よし……さっきよりは、落ち着いて詠唱できる……!)
「数多の祈り込め、焼き尽くせ——
《天響流雨》!!」
天に向かって手を掲げると、鉛色の雲の切れ間に、無数の赤い光点が瞬いた。
次の瞬間、それは尾を引く火球へと姿を変え、流星群のようにフア・モールめがけて降り注いだ。
グォォォォッ!?
轟音と共に、雪と氷が弾け飛ぶ。
フア・モールは咄嗟に首をすくめ、たてがみを立てて攻撃を防いだ。
炎と氷がぶつかり合う眩い光の中で、氷のたてがみが赤々と熱せられていく。
(次はこっち!)
急いで『フローズン・ニードル』のウィンドウを呼び出し、アイコンをタップする。
「凍てつく刃よ、千の針となって敵を穿て——
《氷結細撃》!!」
シュダダダダ……ッ!
熱せられていたたてがみに、今度は鋭い氷の針がびっしりと突き立った。
ジュウウウウウッ……!
一瞬にして爆発的に水蒸気が発生する。
たてがみは急激な温度差に耐えきれず、パキパキと音を立てて欠け落ちていく。
グオオオオオオッ!!
フア・モールが苦悶の咆哮を上げる。
【しっかり効いてるぞ、これ!!】
【おお〜! 理科の実験で見たやつだ】
「みきぽん!」
「いっくよーーーーっ!」
みきぽんはモーニングスターを振りかぶると、雪原を蹴って跳び上がった。
ちいさな身体がふわりと宙に浮かび、背中に広がる妖精の羽がキラキラとした光を放つ。
「マジカル☆シャイニング……」
鉄球が、魔力の光を纏って熱を帯びる。
みきぽんは氷のたてがみに狙いを定めると、そのまま巨獣の首筋へ叩きつけた。
「モーニング……スターーーッ!!」
ガシャァァァァンッ!!
ガラスが砕けるみたいな甲高い音が、雪原に響き渡る。
急冷され、脆くなっていた氷のたてがみは、その一撃で完全に粉砕され、細かな破片となって吹き飛んだ。
「今だよ、バルガン!」
私は叫んだ。
「ん!? 俺は……」
「仲間の仇じゃん! ここはバルガンがとどめを刺さないと!」
ノエルも強い眼差しでバルガンを見つめる。
「私たちなら大丈夫よ!」
その時、ノエルの耳元で揺れる黒い羽が、淡い光を放った。
リゼから託された、女神モリガンの翼のひとひらだ。
「ノエル……それ……!」
濡れ羽色に艷めく漆黒の羽根から、柔らかな光が広がっていった。
光は女神のようなシルエットを形作り、モンスターとの間に立ちはだかる。
同時に、私たちを苛んでいた冷気が少し和らいだように感じた。
「これは、モリガンさまの加護……?」
「ぽかぽかでち〜!」
「バルガンさん、今よ!」
「……わかった」
バルガンは、ゆっくりと息を吐いた。
盾を雪原に突き立て、代わりに戦斧を握り直す。
氷壁のスクリーンに、かつての仲間たちの姿が一瞬だけ浮かび上がったような気がした。
笑い合い、共に無謀な突撃を繰り返していた、あの頃のままに。
「お前らの無念——ここで晴らさせてもらうぜ!」
バルガンは逞しい両足を踏みしめると、一気にフア・モールとの距離を詰めた。
その瞬間、巨獣の鋭い爪が空を裂く。
私は反射的に身をすくめた。
「あぶないでち!」
みきぽんは咄嗟に、モーニングスターを横薙ぎに振り抜いた。
「マジカル☆くるくるモーニングスター!」
きらきらしたエフェクトをたなびかせながら、鉄球はフア・モールの前脚へと伸びる。
そしてガキンという音を立て、モーニングスターの鎖が巨獣の前脚をがっちりと拘束した。
グオオオオオオッ!?
フア・モールは鎖を振りほどこうと暴れるが、鉄の戒めはびくともしない。
【また新たな使い道!】
【このちっこい体のどこにそんな力が……w】
【魔法少女、やっぱり今回ももれなく物理な件】
「今だよ、バルガン!」
バルガンは、その隙を逃さなかった。
「うおおおおおおっ!!」
雪を蹴り上げて巨体の上に躍り上がると、露出した首の付け根——延髄めがけて戦斧を振りかぶった。
「これで終いだ——っ!!」
渾身の力を込めて、戦斧が振り下ろされた。
ズガァァァァァンッ!!
地の底から湧き出たような、鈍い衝撃音が響き渡る。
グアアアアアアアアアアッ!!
凍てつく世界を震わせるような断末魔を上げると、凍える巨王は、そのまま雪原に崩れ落ちた。
地面が揺れ、積もった雪が一斉に舞い上がる。
フア・モールの巨体は最後にびくんと震え、その青白い瞳から、光がすうっと消えていく。
静寂の中——吹雪の音だけが吹き抜けていった。
(……勝った……の?)
私は荒くなった息を整えながら、辺りを見渡した。
氷の壁に映っていた、かつてのバルガンの戦友たちは、最後に、どこかほっとしたような笑顔を見せてから——
光の粒となって空へと昇っていった。
それを確かめると、バルガンは空を見上げ、そっと目を伏せた。
(よかった……)
氷壁にひび割れが広がっていく。
バキバキと音を立てて崩れ落ちると、私たちを囲んでいた氷の牢獄は、跡形もなく消え失せた。
【おい……マジかよ】
【やった……フア・モールを倒したぞ!!】
【おめでとう、まきぽんたち!!】
「みんな……ありがとう!」
自然と、声が震えた。
【お、倒せたな】
(……あ、さっきの人だ!)
「倒し方、教えてくれてありがとう!」
【もちろん、超強力な魔法を連続でぶっ放して、装甲が再生する前に一気に削り取るやり方もあるんだけどな】
そうだ。きっと廃課金のガチ勢なら、その方法でゴリ押しできるんだろう。
【でも、あるユーザーがこの戦法を見つけてから、フア・モールの攻略難易度は、グッと下がったんだ】
「そっか……」
私は、雪原に倒れ伏したフア・モールを見つめた。
「みんな、この一見無理ゲーに見えるボスを倒すために、何度も挑んで、試行錯誤してきたんだね……」
そのためにどれだけの人が知恵を絞り、この魔獣に挑んでは打ちのめされてきたのだろう。
その積み重ねを思うと、胸の奥がじんと熱くなった。
【知恵と工夫で、中位魔法でも攻略ができる。
……このゲーム、そういうところがほんとよくできてると思うぜ】
【そうだな、そこがティルナノのおもしれーとこなんだよ】
「ありがとう……」
私は、スマホ越の向こうに向けて微笑んだ。
「今の一言、聞かせてあげたい人がいるよ」
そう。
このゲームを作った——瑛士さんに。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
今回は、知恵と仲間たちとの連携で、格上のボスを倒すお話でした。
実際のゲームでも、こういうギミックがビシッとキマると、めっちゃ楽しいですよね♪
余談ですが……
このお話、風邪をこじらせて頭痛とくしゃみに悩まされながら執筆してましたw
皆さんも、寒い時は無理せずお大事になさってくださいね(^◇^;)




