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異世界で待ってた妹はモーニングスターで戦う魔法少女(物理)だった件  作者: 未知(いまだ・とも)
第2章 〜私たちの還る場所〜

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第44話「角笛団、聖域へ向かえ」

リゼたちが駆けつけてくれたおかげで、無事にリアンナハを発つことができたまきぽんたち。

でも、その行手には不穏な気配が……?

私たちは瓦礫を踏み越え、翼竜の攻撃を避けながら、

城門「だった場所」を駆け抜けていった。


そして外へと一直線に伸びた、新しい「道」——

みきぽんのモーニングスターによって大きく地面に穿たれた跡を進んで、私たちは無事、東に向かう街道にたどり着いた。


私たちの目指す『境界の聖域』は、この先にある。


背後からは、邪眼の翼竜と黒翼団が激しく戦う気配が伝わってきた。


「リゼたち、大丈夫かな……」


「ああ。今は振り向かずに行くんだ、まきぽん」


本当はバルガンも心配なんだろう。

私に語りかけながらも、どこか自分に言い聞かせているようだった。


「アイツらは俺たちを行かせるために駆けつけた。

 それを信じて、任せようぜ」


「……うん」


私はぎゅっと唇を噛んで、正面を向いた。


しばらく走ると、ようやく戦場の喧噪が遠ざかり、代わりにさわさわと草原を渡る風の音に包まれた。


「ふぅ……一旦、ここで小休止しましょうか」


走り続けて少し疲れたところだ。

ノエルの提案に、私たちは道端の木陰で足を止めることにした。


みんな肩で息をしながら、思い思いの格好で地面に座り込む。

私は水筒の水を少し器に注いで、みきぽんに渡した。 


「……みきぽん、大丈夫?」


「あい! だいじょぶでち!」


みきぽんは胸を張って、可愛らしく片手を上げて見せた。


(……よかった)


私も水を一口飲んで、深呼吸をする。


そういえば、さっきまで着ていた魔法少女のコスチュームやモーニングスターは、いつの間にかどこかに消えていた。

こうして膝を伸ばして地面にちょこんと座っている姿は、どこにでもいる可愛らしい三歳児なんだよね。


「おねーたん」


みきぽんが、私のローブの裾を引っ張った。


「すまほ、ひかってるでち」


「あ、ホントだ」


懐の中で、スマホの画面がちかちかと光っている。

ついさっきまで配信をしていたことを思い出して、慌てて画面を切り替えた。


「えーっと……みんな、まだ見てくれてるかな……?」


【見てるぞー】

【門ぶち抜いた瞬間、マジで声出たわ】


「あはは〜、凄かったよね……」


【ね、今どこ?】

【東門の外のフィールド? 出られたんだね!】


コメントが次々に流れてきて、胸の奥がちょっぴり温かくなった。


リスナーたちのコメントが浮かんだホログラムは、バルガンたち『この世界の住人』には見えないが、

「なんか精霊的なものと会話して、パワーをもらってる」

って感じで伝わっている。


「みんな、さっきは力を貸してくれてありがとう!

 おかげで、無事に外へ出られたよ〜!」


【ナイスぶち抜き】

【もはや土木工事】

【そして今日も物理こそが正義だった】


「ちょw みんな……」


マップ兵器に、土木工事……。

いつもみんなの言葉のセンスには感心してしまうが、

どれも、とても『魔法少女』への賞賛の言葉とは思えない。


「この先は……えーっと、『最果ての断崖』ってところを抜けて、

 『境界の聖域』っていう場所を目指します!」


【そのネーミング、絶対ダンジョンやんw】

【でも配信続けてくれるの、嬉しいぞー!】

【他のみんなは?】


「あ、そうそう、今回はこういうメンバーだよ」


私は、スマホのカメラをノエルとバルガン、そしてみきぽんに向けた。

バルガンたちも、もう慣れたもので、私がスマホを向けると画面に向かって手を振ってくれた。


【うおおおお、ノエルちゃーん!!】

【ならばバルガンは俺がいただいた】

【お前……腹減ってるだけだろ】


私は思わず笑ってしまった。


【——あれ、ドルイドいないの?】


「うん、今回はエリアスはお留守番なんだ。

 ……その分、みんなの応援が頼りだからねっ!」


【おう、任せろり!】

【まきぽん、頑張れよ!!】


(……そうだ。私には、画面の向こうのみんながついてるんだ)


「ありがとう、またね〜!」


私は再びアプリを閉じた。


「おし。疲れも癒えたことだし、先を急ぐか」


バルガンの掛け声に、私たちは立ち上がって、再び東に向かって歩き出した。


 * * *


街道を東へ進んでいくと、空模様が少しずつ変わっていった。


王都の上空を覆っていた雷雲は、いつの間にか背後へと遠ざかっていた。

だが私たちの前方は、どんよりと重い雲のヴェールに覆われていた。


そして。


「……雪?」


空から落ちてきた白い欠片に、ノエルがつぶやいた。


「雪だと?

 バカな、春になったばっかりじゃねーか?」


バルガンも首をひねった。

そんな話をしているうちに、肌に触れる風が、はっきりとわかるほど冷たくなってきた。


「さむっ……」


思わずローブの前を合わせる。

吐く息が、うっすらと白くなった。


「まきぽんちゃん、なんか変じゃない?」


「だよね……あ、そうだ!」


私は通信アプリのことを思い出した。

ブリギッドに聞いてみようか。


スマホを取り出し、角笛マークのアイコンをタップすると、程なくして画面にブリギッドの姿が現れた。


《接続確認。——こちらブリギッドです》


……おっと、ここはバルガンたちがいるから、フィオナ様って事にしないとね。


「フィオナ様。お疲れ様です!」


ノエルとバルガンが、目をまんまるに見開いてこちらを見た。


「えぇっ!? 女王陛下〜?」


「おいおい、いつからそんなお偉いさんと友達になったんだ!?」


「えへへ……、まぁいろいろありまして……」


「はぁ……

 前からお前さんは、なんか変わったところがあると思ってたけどよ」


(ぎくっ……。まあ確かに、私はこの世界の人間じゃないけど)


「まあ、それがおめーのいいところだよな。よろしく頼むぜ!」


バルガンの大きな手で、バンと背中を叩かれた。


「あたた……」


それを見ていたブリギッドは、微笑ましそうに笑った。


《まきぽん、無事に街道に出られたのですね》


「うん、リゼたちが助けに来てくれたおかげでね。

 ところでフィオナ様、この辺って——」


私はスマホのカメラを辺りに向けた。


「ねえ、何かおかしくない?」


《わかりました。気温、魔素濃度、環境データを計測します》


しばらくして、ブリギッドの落ち着いた声が返ってきた。


《……計測完了。やはり、通常の気象パターンから大きく逸脱しているようですね》


「だよね……。

 なんか、この辺一帯だけ、異常に寒い感じがする」


この辺りには本来、穏やかな草原や辺境の村々が広がっていたはずだ。


《現在、あなた方が進んでいる街道の先には、

 かつて、開発途中に凍結された領域が存在しています》


「凍結……?」


《はい。本来であれば、修復後に削除、もしくは再編成される予定でしたが……》


少しだけ、ブリギッドの声が澱む。


《この領域は、バロールの暴走によって処理を中断され、

 以後、半ば未完成のまま「凍結フリーズ」……時を止められています》


「……つまり」


私は、雪で白く霞んだ前方を見つめた。


「……バロールのせいで、壊れかけたデータとエラーが、

 そのまま冷凍保存されちゃってるみたいな場所、ってこと?」


《わかりやすく言い換えるならば、そのような認識で構いません》


「そんな場所を進むの?

 ……危険はないのかしら?」


ノエルの声には、微かに緊張が滲んでいた。

だがバルガンは、そんな彼女の不安を和らげるかのようにウィンクをして見せた。


「ま、どんな場所だろうと、やるこたぁ変わらねぇさ」


そして肩の荷物をヨイショ、と担ぎなおす。


「俺たちは前に進むしかねぇ。だろ?」


「……そうね」


ノエルはクスッと微笑んだ。


「みんな、気をつけて行きましょう」


私たちは顔を見合わせて、大きく頷いた。


《では、推奨ルートを転送します》


ブリギッドの言葉と同時に、スマホの画面上に小さな地図が浮かび上がる。


《この先、街道は雪に埋もれています。

 視覚情報だけで進むのは危険ですので、こちらのナビゲーションを参考にしてください——》


「ありがと、またね!」


私は頷き、スマホを胸元に戻した。


 * * *


進めば進むほど、風は冷たくなっていった。


やがて地面は完全に姿を消し、街道は一面の雪原へと変わった。

空は鉛色の雲に覆われ、太陽の光も弱々しくなっている。


「しっかり手をつないでてね、みきぽん」


「あい! おねーたん」


ぎゅっと手を握ると、みきぽんは嬉しそうに頬ずりをしてくる。

その笑顔に、また少し勇気が沸いてきた。


「……はいみんな、これをどうぞ」


ノエルが、小さな瓶を差し出してくれた。


「ジンジャーとフェンネルで作った耐寒ポーションよ。

 完全に寒さを無効化ってわけにはいかないけれど、体がポカポカしてくるわ」


「おお、助かるぜ!」


みきぽんは、瓶の中身をコクコクと飲み干すと、


「……にがにがでち……」


と、顔をしかめた。


「みきぽんちゃんには、ちょっと苦かったわね。

 はい、お口開けて〜?

 ハチミツのキャンディーよ」


ノエルはポーチから小さな飴を取り出すと、みきぽんの口にポイと入れてあげた。


「はい、まきぽんちゃんとバルガンの分もあるわよ」


「飴か? 俺はいらねーよw」


バルガンはポーションをぐいっと飲み干すと、ふぅと息を吐く。


「しかしよ——」


彼は、真っ白な地平線を見据えた。


「まさかこの場所を、また見せつけられるとはな……」


「ここに見覚えあるの?」


私の問いに、バルガンは一瞬だけ表情を曇らせた。


「ん……まぁな」


少しだけ間を置いて、ぽつりと答える。


「ま、昔の話だ。……ほら、行くぞ」


そう言って、彼はまた先頭に立って歩き出した。


(バルガン、何かあったのかな……)


胸の奥に小さな引っかかりが残ったが、私たちは先を急ぐ事にした。


 * * *


しばらく歩くと、雪がちらほらと舞い始めた。


最初は、風に遊ばれるようにひらひらと落ちてくる、細かな雪片だった。

けれど、歩を進めるごとにどんどんとその量は増えていく。


「……なんか、雪、急に強くなってきた?」


「視界も悪くなってきたわね……」


ノエルが目を細める。


「みんな、はぐれないようにしましょうね!」


その声に、私はみきぽんの手をぎゅっと握りしめた。


「大丈夫だよ。どんな吹雪だって——」


「あい、いつかやむでち!」


小さな妹は、ぷるぷると震えながらも元気よく続けてくれる。


「そうよね」


ノエルは、耳元に飾った黒い羽をそっと指先で触れた。

リゼから託された、モリガンの羽だ。


「……どんな道でも、進み続ければ、必ず出口はあるわ」


だが、進むにつれて吹雪はさらに強くなっていった。


雪は横殴りに頬を打ち、

冷たい風は容赦なく体温を奪い取っていく。


やがて、足元の感触すら曖昧になってきた頃——


「おい、みんな止まれ」


先頭を歩いていたバルガンが、急に手を上げた。


「どうしたの?」


「……これを見ろ」


バルガンは、前方の地面を顎でしゃくった。


そこには、雪の上に刻まれた巨大な足跡があった。

普通の獣のものとは思えない、深く抉れた穴。


「……でかっ!」


思わず、そう呟いてしまう。


「この足跡……」


バルガンの声が低くなる。

その時だった。


 ——ゴォォォォォォ……


どこからともなく、低く唸るような音が聞こえてきた。

風の音とも違う、大地を震わせるような不気味な響きだ。


「今の、何……?」


「風の音じゃねぇな」


バルガンが、盾を構え直す。

吹雪はなお強くなり、前方は真っ白でほとんど見えなくなっている。


その白い闇の奥で——

何か巨大な影が、ゆっくりと動いた。


「こいつは……!」


バルガンの顔に焦りが浮かんだ。


 ——ゴォォォォォォオオオオオオオッ!!


今度ははっきりと、獣の咆哮が響き渡った。


吹き荒れる雪をかき分けるようにして、

白銀の毛皮に覆われた巨体が、ゆっくりと姿を現す。


分厚い首回りには氷のたてがみのような結晶が生え、

牙は凍てついた刃のように冷たく光っていた。


「な、何!?」


「忘れるもんか——」


バルガンの声が、震えを帯びていた。


「こいつは……、あの時倒せなかった凍える巨王フア・モールだ」


挿絵(By みてみん)


巨大な白い熊のような魔物は、こちらを見下ろすように首をかしげると、喉の奥から世界を凍らせるような咆哮を放った。


 ——グォォォォォォォオオオオオオオッ!!


吹雪の中、私たちを絶望に突き落とすかのように、白い巨獣が立ちはだかった。

最後までお読みいただきまして、ありがとうございました!

新たな強敵、Fuar-Mórフア・モール


fuar = 冷たい 、凍える

mór = 巨大な


という、ケルト語で『凍える巨獣』というようなイメージで考えました。

次回、氷の世界での激戦をお楽しみに!

そしてバルガンの過去が明らかに……?

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― 新着の感想 ―
まさかの日立シロクマくん参上ぉぉ⁈ て、まだまだクーラー時期ぢゃありませんで猛省っ_(:3 」∠)_
  __   / )))   _ `/ イ~   (((ヽ ㈱マチョムの後輩達よ (  ノ      ̄Y\  ここは我に任せて | (\ ∧_∧ | )   ベジタブルの聖域へ ヽ ヽ`(´・ω・)/…
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