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異世界で待ってた妹はモーニングスターで戦う魔法少女(物理)だった件  作者: 未知(いまだ・とも)
第2章 〜私たちの還る場所〜

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第42話「インターミッション:黒翼団、出撃の刻」

今回のお話は「インターミッション」です。


リアル世界の「リゼ」の視点で、実際に『ティルナノ』をプレイしているシーンをお届けいたします。

※ 後書きに簡単な用語解説を用意しましたので、雰囲気でふわっと読んでいただいても大丈夫!


大勢で挑む、MMORPGのレイドバトルの雰囲気をお楽しみください——。

勤務を終えて部屋に戻ると、いつもの静けさが出迎えてくれた。


(……何とか間に合ったな)


今日はSNSでティルナノの緊急レイドイベント告知を見たので、同僚たちとの雑談も早めに切り上げて、急いで帰ってきた。


リゼはバッグを定位置に下ろすと、無造作に服を脱ぎ、そのままバスルームへと向かった。

そしてその日の疲れをシャワーで洗い流す。


風呂上がり。

部屋着に着替え、濡れた髪をタオルで拭きながら、冷蔵庫を開けてペットボトルの烏龍茶を取り出す。

パキッとキャップをひねると、爽やかな香りが鼻をくすぐった。


喉を滑り降りる、冷えた液体の感覚。

このひと口が、リゼを仕事モードから完全にリセットしてくれる。


きちんと食事を摂っている時間はなさそうだ。

夕食のかわりに、買っておいたチョコレートバーを頬張った。


一息ついたところで、デスクの前に座り、半ば習慣のようにPCの電源を入れた。

デスクトップが立ち上がるやいなや、馴染みのアイコンをクリックする。


——《ロード・トゥ・ティル・ナ・ノーグ》。


ランチャーが開いて、見慣れたタイトル画面が呼び出される。


どこか懐かしさを呼び起こす切ない音楽と共に、

満天の星の下、天の川を背負ったリアンナハ城のシルエットが静かに浮かび上がる。


(よし、行くか——)


ログインボタンを押すと、画面はスパークルに包まれた。


 * * *


ティルナノの世界にログインすると、リゼの周りには青空と石造りの街並みが広がった。

彼女は高い位置で結んだ長い髪を揺らしながら、颯爽と歩き出す。


動きやすい黒の軽鎧に、腰には相棒とも言える長剣。


この世界でリゼは、所属ワールド最大級の戦闘特化ギルド、

『黒翼戦士団』——通称『黒翼団』の団長を務めている。


メンバーは面談によって選別され、

厳しい規律と、吟味された戦略。

そして何より、リーダーであるリゼのカリスマ性によって、トップギルドの一角として君臨し続けている。


いつものようにギルドのチャットを確認しようとした、その瞬間——


【System】《緊急レイドクエスト発生:イービルアイの侵攻から王都を防衛せよ》


画面上部に、真紅の文字が踊った。


「……これか」


リゼ——いや、リゼの中の人は思わず口を強く結んだ。


【System】《イベント情報が更新されました。詳細はメニュー>レイド情報をご確認ください》


烏龍茶を一口含むと、即座にメニューを開いてレイド情報を確認する。


——《レイド:邪眼の翼竜軍》

——推奨人数:24〜48

——目的:「リアンナハ防衛線を死守し、全ての邪眼の翼竜を撃退せよ」


(……王都防衛線レイド、か)


リゼの瞳の奥に、ゆらりと炎が燃え上がる。


「これは——『黒翼団われわれ』の出番だな」


チャットウィンドウを開くと、すでにギルドチャットは賑わっていた。


【Guild】《ブラン》:緊急レイドの告知、来たな

【Guild】《シグルド》:邪眼ってタイトルに入ってる時点でギミックやべーやつじゃん

【Guild】《リアナ》:報酬欄見た? 翼竜のマウントあるんだけど!?


レイド発令の時間が近づき、次々とログイン者が増えていく。


【Guild】《ニルギリ》:おい、今回も最速討伐パーティーには専用称号あるぞ

【Guild】《ドラン》:は???? 全力案件きたわ

【Guild】《シグルド》:団長〜インしてる? することは一つだよなぁ?


リゼは、薄く笑みを浮かべた。


【Guild】《リゼ》:今インした。新レイド解放だな

【Guild】《リアナ》:待ってました団長〜♪

【Guild】《リゼ》:よし、レイド参加希望者は集合。ギルドハウスでブリーフィングを行う


リゼがレスを打ち込むと、刺激に飢えた団員たちから即座に反応が返ってきた。


【Guild】《ドラン》:了解っす団長!

【Guild】《リアナ》:はーい! 急いで戻る〜

【Guild】《ガレス》:待って今ID中、終わったらすぐ行く。10分くれ


リゼはその反応に満足すると、ギルドハウスへと歩き出した。


 * * *


黒翼団のギルドハウスは、リアンナハの一角に構えられた黒い石造りの館だ。

広間中央に掲げられた戦旗と、壁一面に並ぶ戦勝の証トロフィーの数々が、ここが「戦う者たちの城」であることを物語っている。


リゼがホールに到着した時には、すでに大勢の団員が集まっていた。


団員たちは、すべて黒を基調とした装備を身につけている。

胸には揃いの鴉の紋章が入り、

それぞれ自分の得意とする武器を携えて、いつでも戦地に赴ける体制だ。


「団長、おつです!」


「今日の緊急、ガチで神イベ臭しねぇ?」


「ワールド初討伐の称号……、

 絶対に他の奴らには譲らねぇ!」


「たりめーよ、今回も『俺たちのためのイベント』にするぜ!」


皆、軽口を叩いてはいるが、その目には闘志が宿っている。


リゼは戦闘用のマントを身につけ、広間の中央に歩み出た。

そして団の象徴である、モリガンの黒鴉が染め抜かれた戦旗を背にして立つ。


「皆、よく集まってくれた」


彼女が声を発すると、一瞬でざわめきが収まった。


「今回の緊急レイドは——《邪眼の翼竜軍》」


画面右上に固定したイベントウィンドウを、手振りで示す。

リゼの視界に合わせて、団員たちも同じ情報を呼び出した。


「目的は一つ。王都リアンナハの防衛だ」


「おお……ガチの都市防衛イベントきた!」


「国の防衛ともなると……こりゃ、王立軍の面子もかかってるよな」


「ふん」


リゼはガツッと長剣を床に突き立て、不退転の覚悟を示した。


挿絵(By みてみん)


王立軍ヤツらに遅れをとるつもりはない。今回も——

 『黒翼団われわれ』が、初動で勝ち筋を取りに行く!」


その一言に、広間が一気に色めき立つ。


「キター! 団長いつもの決めポーズ!!」


「これ見ると俺、マジ『付いていきます!』ってなるんだわ」


「はいはい民間傭兵が正規軍を打ち負かすヤツね……最高ですわ!」


「報酬も悪くない」


リゼは、イベント報酬欄を開き、皆に共有した。


「限定マウント《邪眼の黒翼竜》に、翼竜シリーズの限定スキン。

 そして……」


リゼは報酬欄の一点を指した。


「ワールド最速討伐の証、限定称号。

 ——もちろん、今回も我々の手中に収める!」


リゼの一喝に、団員がどよめく。


彼らにとって一番大切なことは——

最速であること、最強であること。

そのために皆、普段から弛まぬ努力を重ねてきた。


「これはもう、取るしかないだろ」


「ぜってぇ負けねぇ……!」


(——いい顔だ)


画面の向こうの彼らの表情は見えない。

それでも、声と文字の向こうにある高揚感は、手に取るように伝わってくる。


「では、編成に移る——」


リゼの指揮の元、討伐チームの編成が始まった。


 * * *


編成が整うと、いよいよ転送だ。


【System】《レイドフィールド「リアンナハ東方防衛線」への転送を開始します。参加しますか? YES/NO》


「——行くぞ」


リゼは、躊躇なく《YES》を選択した。


青白い光に包まれ、次の瞬間——

時空を超越するような感覚と共に、景色が変わった。


足元には、荒れた土と割れた石畳。

目の前にはリアンナハの東門と、高い城壁が見える。

そしてその上では、すでに王立軍の兵士たちが陣取り、空を睨み上げていた。


「……いた!」


誰かが空を指差す。


——稲光を纏う暗雲を背に、巨大な影が空を旋回していた。


黒鉄色の鱗に覆われた、しなやかな胴体。

空を切り裂くような二枚の黒い翼。

そして頭部に輝く、禍々しい真紅の単眼。


邪眼の翼竜イービルアイ・ワイバーン

その名に相応しく、空中から見下ろす視線だけで、地面に這いつくばりたくなるような圧力を感じる。


《Raid Boss:邪眼の翼竜軍 HP:████████████ 100%》


画面上部に、巨大なHPバーが表示される。

同時に、システムログが流れ始めた。


【System】《邪眼の翼竜が、不気味な咆哮を上げた!》


「前衛、所定位置につけ! 盾役タンクはヘイトを取ったら、門から距離を取れ!」


リゼは、いつものように短く指示を飛ばす。


「ヒーラーはタンクを中心に。範囲攻撃の後は即座に立て直しを」


「了解!」


「DPS(火力役)はギミックを読み取れ。火力を出す前に、まずは生き残れ!」


「おっけー!」


「団長、バフ撒きは任せて!」


チャットとボイスチャットが重なり合い、戦の前のざわめきと高揚が混じり合う。


【System】《3……2……1……Battle start!》


カウントダウンが終わると同時に、邪眼の翼竜が咆哮を上げた。

力強い羽ばたきに空が震え、

黒い鱗の隙間からは、マグマのような光が漏れ出る。


リゼたちの小隊を敵と認識した翼竜は、怒りを込めて真紅の瞳をこちらに向けてきた。

同時にバッファーたちの詠唱が始まり、画面下にはバフのアイコンがずらりと並びだした。


【System】《邪眼の翼竜が、「邪眼の威圧」を放とうとしている!》


「たぶん視線合わせた奴にデバフ飛ぶやつだ、ボスの正面には立たないように!」


参謀役のブランが素早くギミックを読み取る。


「……ブラン、いい判断だ。

 全員、竜の顔から目を逸らせ!」


リゼの号令と共に、プレイヤーたちは邪眼から逃れるように、一斉に移動を開始する。

次の瞬間、竜の単眼からレーザーのような光線が迸った。


【System】《邪視が戦場を睨め付ける……!》


「くっ!」


レーザーの効果範囲は予想よりも広かった。

わずかに行動入力が遅れた団員を、邪視が襲う。


【System】《カラムは邪眼の光線をまともに受けた!》

【System】《カラムに「恐怖」デバフが付与された!》


「ヒラ、前衛の恐怖解除優先! DPSは足元の赤床に気をつけろ!」


【System】《邪眼の翼竜が、翼を大きく広げた!》

【System】《広範囲攻撃「冥風の羽ばたき」準備中——》


「ガレス、無敵技インビン使え! 王立軍に初撃のヘイトかっさらわれるなよ!」


「分かってる!」


王立軍の魔導士たちも、城壁の上から一斉に攻撃を放つ。

画面の中で、無数のエフェクトが重なり、邪眼の翼竜のHPバーが少しずつ削れていく。


【System】《邪眼の翼竜 HP 95%》


(——よし、効いてる)


リゼは自らも長剣を構え、前線へと飛び込んだ。


「前衛、次のフェーズまで位置固定! ヒラ、範囲回復準備!」


「はい!」


「DPS、バーストは合図まで温存しろ。まだまだ、これからだ」


リゼは、長剣の柄を握り直した。

マントが風にたなびき、黒い翼のように広がる。


「黒翼団——総力戦だ。王都を守り抜くぞ!」


「「「おおおおおっ!!」」」


雄叫びと共に、仲間たちが一斉に攻撃を再開した。


——だが。


このレイドで与えたダメージは、システムを通じて

『別の世界』の邪眼にも反映されていることを、彼らはまだ知らない。


 * * *


ティルナノで邪眼の翼竜が咆哮をあげた、同じ頃。

殻の内側でも、翼竜の咆哮が空を裂き——


スカの空の下で、まきぽんたちもまた、その音を聞いていた。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!


いかがでしたでしょうか?

私は実際にMMORPGにどハマりして、一つのゲームを8年間(!)プレイしていました。

その頃の、毎日ログインするたびに感じてたときめきと、血湧き肉躍る戦闘のワクワクを思い出しながら描いてみました。


なお、冒頭のシーンには意図的に伏せている情報があります。

いずれ明かされるので、そのとき「あっ」となったらニヤリとしてやってください。


次回はまた、スカに戻ってまきぽん視点でのお話になります。

お楽しみに♪


↓ おまけ


MMO用語の説明をまとめましたので、もしわかりにくい単語がありましたらご活用ください。


。*❅┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈❅*。


【ミニ用語解説集】(MMORPG編)


◆ MMORPG

大勢のプレイヤーが同じ世界に同時接続して遊ぶオンラインRPG。ティルナノみたいなやつ。


◆ レイド/レイドバトル

たくさんのプレイヤーが協力して挑む、大型ボス戦イベント。報酬がおいしいことが多い。


◆ レイドボス

レイドバトルで相手をする特別なボスモンスター。体力も攻撃も桁違い。


◆ DPS

「Damage Per Second」の略。本来は秒間ダメージ量の意味だが、MMOでは主に「火力役のジョブ・職」のことを指す。


◆ タンク

敵の攻撃を引き受けて味方を守る役。耐久力が高い前衛職。


◆ ヒーラー(ヒラ)

味方のHPを回復したり、状態異常を治したりする支援役。


◆ バッファー

味方を強化する魔法・スキルをかける支援職。「バフ」を撒く人。


◆ バフ

味方を強くする効果(攻撃力アップ、防御力アップなど)の総称。


◆ デバフ

敵を弱くする効果(行動遅延、防御ダウンなど)の総称。


◆ ヘイト/ヘイト管理

敵からの「狙われやすさ」の数値。タンクがヘイトを集めて、敵の攻撃対象を自分に固定し続けること。


◆ ギミック

ボス戦に仕込まれた仕掛けや特殊行動。正しく対処しないと全滅することもある。


◆ 赤床

ボスの攻撃範囲を示す赤い範囲表示。

「赤床から出ろ!」と言われたら、その場所から急いで離れるのが正解。


◆ ID (インスタンスダンジョン)

パーティごとに専用のフィールドが用意されるダンジョン。他パーティとは干渉しない閉じた空間。


◆ HPバー

ボスやプレイヤーの残り体力を示すゲージ。レイドでは画面上部に巨大バーで表示されがち。


◆ バースト

短時間に火力を集中させて、大ダメージを叩き込むこと。


◆ ワールド最速討伐

そのサーバー(世界)で、一番最初にボス討伐に成功すること。

非常に名誉あることであり、専用称号などが用意されていることも多い。


◆ マウント

プレイヤーが乗る乗り物。移動速度が上がったり、見た目目的で集められたりする。


◆ スキン

武器や防具の見た目が変えられる、オシャレ要素。

戦力には影響しないことが多い。

見た目ガチ勢にとっては、絶対に譲れないアイテムでもある。


◆ インビン

「インビンシブル(Invincible)」系のスキルの略称。

一定時間だけ、ほとんどor完全にダメージを受けなくなる「無敵スキル」のこと。


主にタンク職が持っている切り札で、

「ここでインビン!」「今インビン吐け!」

みたいに指示される。

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― 新着の感想 ―
 本編内に別視点が入るとは、意外と初めてかも?  IDの意味、全然違った~。略称ってどう略させるかとかによりますね。  ギミックステージ、苦手です。内容にもよるけど勘弁して欲しい時があります。
  /フフ     ム`ヽ  / ノ)  /⌒ヽ ( 丶、我々も遂に ゛/ | (^ω^)⌒ノ丶)  マジカル(筋肉)を / ノ⌒ン  ヽー' 、|   解放する時がきた!! 丶_  ノ 。 ノ、…
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