第34話「迫る十二の邪眼——リアンナハ急襲!」
ブリギッドから『ひとつの魂』と言われた、まきぽんとみきぽん。
それは一体どういう意味……?
でも、ゆっくりと考えている時間はないようで……
薄暗いコアルームに、しばし沈黙が訪れた。
(私たちが、ひとつの……魂……)
私とみきぽんは、見つめあったまま言葉を失っていた。
重苦しい空気の中、機械の駆動音だけが低く響いている……。
——その時だった。
「……!」
パソコンからけたたましい警告音が鳴り、ブリギッドがハッと顔を上げた。
そして彼女の瞳に、どこからか一斉に情報が流れ込んでくるかのように、淡い光の文字列が走った。
「ブリギッド?」
不安になって呼びかけると、彼女は一瞬こちらを見て、
すぐにモニターの方へ向き直った。
ブリギッドがモニターに手をかざすと、画面に映像と数値が次々と浮かび上がっていく。
「……感情の異常波形感知。敵性オブジェクトの急激な増加を検知」
口調が僅かに硬くなる。
「王都リアンナハ外縁部にて——
『バロール』の分体……複数のイービルアイの侵攻を確認しました」
「えっ……!?」
思わず声が裏返った。
イービルアイって……?
転移直後に私たちを襲った、あの真紅の邪眼のレイドボス!?
「ちょ、ちょっと待って……!」
急激な展開に理解が追いつかない。
ついさっきまで、「魂」だとか「世界の層」だとか、とんでもない話を聞かされていたと思ったら——今度はいきなり、街が襲われている?
「現在、十二体の個体を確認。なお増加の傾向にあります」
「……敵の進行速度は?」
「現時点のベクトルから推測すると——」
ブリギッドの瞳に、再びデータの光が走る。
彼女の内部では、高速の演算が行われているのだろう。
「第一陣が、このまま進めば……三十分と経たずに王都外壁に到達します」
「えっ、あんなヤツが……十二体も!?」
私は硬質な鎧に包まれた姿と禍々しい紅の瞳を思い出し、戦慄した。
一体でも私たちを恐怖のどん底に陥れるのに十分だったイービルアイ。
それが、一度にそんな数で襲ってくるというの……!?
「外壁を突破されれば、市街地への侵入は時間の問題です」
「おねーたん……」
みきぽんが、不安そうに私の袖をぎゅっと掴んだ。
私はその小さな手を、ぎゅっと握り返す。
「ふむ……」
瑛士さんは椅子にもたれたまま、顎に指先を当てて深く考え込んでいた。
視線はモニターの数値を追いながらも、何かを組み立てるように静かに動いている。
その沈黙は、迷っているというよりも——、
最善手を探して、思考を巡らせている棋士のように思えた。
「ブリギッド、王立軍に直ちに連絡を。
それから近衛兵団や黒翼団、国内の有力ギルドにもすぐにアラートを送ってくれ」
「了解しました、マスター」
ブリギッドは短く答えると、再び指先を滑らせた。
画面には、軍隊や組織の名前がいくつも流れていった。
《GUILD_WHITEECHO》
《BLACKWING_SQUAD》
《ROYAL_GUARD》
…………
……
「嘘……でしょ……」
さあっと、血の気が引いていく。
さっきまで、焼きたてのパンの匂いがして、
子どもの笑い声が溢れていた、あの平和な街が……。
今は、レイドボスの侵攻ルートになろうとしている。
目の前が暗くなり、グラリと視界が揺れた気がした。
「まきぽん、しっかり!」
瑛士さんは、ふらついた私をそっと支えてくれた。
「奴らの狙いは、このコアルームだろう。
ここを落とされたら、全てが終わりだが……」
「……!」
「だからこそ、ここに辿り着くようなことは絶対にさせない」
瑛士さんは眼鏡のブリッジに指を添え、クイっと持ち上げた。
さっきまで自分の「罪」にうちひしがれていた瞳は、
レンズの向こうで静かに光を宿し、覚悟を決めた軍師のそれへと変わっていく。
「——戦おう、まきぽん」
「……戦う?」
瑛士さんの迷いのない眼差しが、私を射抜いた。
「リアンナハを守れるのは、ここにいる僕たちだけだ。
君と、みきぽんと——この世界の心臓部にいる、僕たち」
不意に、脳裏に焼きついたバロールの邪眼を思い出す。
底知れぬ闇を覗き込んでいるかのような、絶望感が蘇ってくる。
怖い。だけど——。
(……もう逃げないって、決めたんだ)
おかーさんも、みきぽんも、この世界も……
どれもが大切だって気づいたから。
私は、一つ深呼吸をしてから、ゆっくりと頷いた。
「うん……わかった」
そして、みきぽんの手を強く握る。
「教えて瑛士さん。
私たち、何をすればいい?」
その瞬間、モニターの別の箇所に新たな赤い警告が灯った。
ブリギッドが、ぴくりと眉を動かす。
コアルーム内に、緊張が走る。
「……マスター。敵性反応は、リアンナハだけではありません」
「何?」
「先ほどから、もう一つの座標で——
異常な感情波形と、イービルアイの干渉が観測されています」
「座標……? どこだ?」
瑛士さんが問い返すと、ブリギッドは脳内の映像を見るかのようにしばし目を閉じた。
「…………」
そして、再び瞳を開くと、低い声で告げた。
「場所は——『境界の聖域』付近です」
その名を聞いた瞬間、瑛士さんの顔に緊張が走った。
「……まずい」
「どうしたの?」
私が問いかけると、彼はウィンドウの一つを開いて見せた。
そこには地の果て——
空と大地がドットに分解されて溶け合っているような、
幾何学的で、不思議な境界線を示す地形が映し出されていた。
自らの罪に囚われて迷っていた瑛士も、守るべきものを前にして、戦う決意を固めました。
彼の眼鏡は、リアンナハを守る軍師としての仮面のメタファーでもあります。
久しぶりにカッコいい、王宮付きドルイド・エリアスモードに戻りましたね!
次回、『境界の聖域』の秘密に迫ります……お楽しみに!




