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異世界で待ってた妹はモーニングスターで戦う魔法少女(物理)だった件  作者: 未知(いまだ・とも)
第2章 〜私たちの還る場所〜

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第32話「世界の核・1 〜The Heart of Tír na nÓg 1〜」

エリアスと共に向かった応接室。

そこにはフィオナ女王が待っていて、自身の正体はAIブリギッドだと語りました。

彼女が、まきぽんたちに見せようとしている物とは……。


——いよいよ、この世界の真実が明かされます!

何の変哲もない壁の向こう——。

そこには窓のない石造りの小さな部屋があった。


(……な、何なのここ!?)


正面には、大きな机。

その上には三つの大きなモニターと、机の下には見慣れない黒い箱が置かれていた。


足元には冷たい石の上に細いケーブルが這いまわり、床や壁の石の継ぎ目からは、青い光が漏れている。


これは……。


いや、こんなに大掛かりな物は見たこともないけど、おそらくこれはパソコンなんだろう。

そう認識した瞬間、背筋にぞくりとしたものが走った。


「ここは……?」


「僕が職場で使っていた機材の一部です」


エリアス——ティルナノの開発者、瑛士さんはどこか懐かしそうな瞳で見つめていた。


「そしてこれが、僕の『転移者の証』です」


黒いタワー型の筐体。

その側面には、見たことのあるメーカーのロゴが刻まれていて、小さなLEDランプが規則正しく点滅していた。


「……本当にこれ……パソコンなんだ」


石造りのケルト世界の古城の中で、

ここだけ、現実の世界が侵食しているみたいだった。


私は無意識に、胸の前でぎゅっと拳を握りしめていた。


「おねーたん、ここ……おそとと、ちがうにおいがするでち」


みきぽんが、私のローブの裾を掴みながらおそるおそる覗き込む。

確かに、この世界には不似合いな、ファンの音と排気の匂いが満ちていた。


ブリギッドは、静かに部屋の中央まで歩み出た。


挿絵(By みてみん)


彼女の瞳は、暗がりの中でパライバトルマリンのような神秘的な光を放っていた。


「ここは、システム監視用のコアルームです」


「コア……?」


聞き慣れない単語に、また首をかしげてしまう。

エリアスが、モニターの一つに手を伸ばした。


画面には、英語や数字、それから私の知らない記号ばかりの画面が並んでいる。

その片隅に、いくつかの単語が見えた。


《BRIGID_CORE》

《BALOR_CORE》

《SESSION_MONITOR》

《LUG_PROJECT》


「……ブリギッドに、バロール……」


私は思わず読み上げていた。


「さっき言ってた、『管理AI』とか『バロール』のこと……?」


「はい」


ブリギッドは、穏やかな声で答えた。


「ここには、私とバロール——二つのコアAIの状態を監視するためのインターフェースが集約されています」


「インターフェース……?」


また難しい言葉が出てきて、頭がパンクしそうになる。

エリアスが、少しだけ申し訳なさそうに微笑んだ。


「簡単に言うとね、まきぽん」


「?」


「ブリギッドの『本体』は、あっちの世界——

 僕らが元々いた世界の機械や、その中に広がるシステムの中にあって」


そう言ってから、フィオナの姿をしたブリギッドを手で示す。


「この僕たちが見ている『女王フィオナ』は、プレイヤーと接するためのインターフェイス、つまり画面のアイコン……みたいなものなんだ」


「がめんの……あいこん……?」


理解が追いつかなくて、頭がクラクラしてきた。

私たちが「人」と認識するための、キャライラストってこと……かな?


そう思うと、急に目の前の女王陛下が人ではない何かに見えてくるような、不思議な感覚になる。


「私は、マスターによって設計された、管理用のAI」


彼女は、自分の胸に手を当てた。


「ゲーム内の天候、怪物の出現パターン、経済バランス、クエストの進行度……

 そうしたものを調整する役割を持っていました」


「じゃあ、バロールは……?」


「バロールは、もともと『試練と物語』を司るAIでした」


ブリギッドの瞳が、一瞬だけ憂いを帯びる。


「プレイヤーの前に壁を用意し、乗り越えるための敵を配置する。

 感情のピークを計算し、イベントを設計する……

 彼は、そんな『ドラマ』を作るために生まれたAIだったのです」


「すごい……」


みんなが過ごす一つの世界の中で、それぞれのプレイヤーに合わせた『ドラマ』が展開される。

ものすごく調整が難しそうな設計だけど、もし本当にそんなゲームができたら、それはとても面白くて当然だ。


それを提供してくれるのが、『ブリギッド』と『バロール』という二つのAI……。


エリアス——瑛士さんは、とんでもないものを作ろうとしていたのだ。


それだけ聞くと、『バロール』もいい神様みたいなんだけど。

でも、私の目の前には凶悪なボスとして現れた。


あの日、私たちを襲ったおぞましい真紅の邪眼——

その破壊の力を思い出すと、いまだに足が震えてしまう。


「でも、私が見たバロールは……」


「はい、あれはAI『バロール』ではありません。

 バロールから生み出された、破壊の意思、


邪眼のバロールバロール・オブ・ジ・イービルアイ』」


「……っ!」


「今、バロールは、私やマスターの制御から大きく外れて、破壊の力を強めています」


ブリギッドは静かに頷いた。


「彼は、プレイヤーの『感情の波形』を学習しすぎてしまった。

 そしてより強い感情、より激しいドラマを求めるあまり——

 『苦しみ』や『絶望』を、過剰に増幅する方向へと、偏ってしまったのです」


私は思わず身震いした。


(……だから、あんなにも怖かったんだ)


ただ強いだけじゃない。

心を握りつぶされるみたいな、あの悪夢のような圧迫感。


「本当はね」


瑛士さんは、モニターから目を離し、私に向き直った。


「ブリギッドとバロールは、互いにバランスを取り合うはずだったんだ。

 『世界を保つAI』と、『物語を動かすAI』として」


だが——彼は後悔に満ちた面持ちで、苦しげに言った。


「そこに、致命的な設計の脆弱性があった」


 * * *


ブリギッドは一歩前に出ると、手のひらを軽く上に向けた。


「この世界は、三つの『レイヤー』として存在しています」


ふわり、と彼女の指先に光の粒子が集まり、空中に

まるでシャボン玉のように、三重になった透明な球体が描かれた。


大きな球が一つ。

その中に、中くらいの球。

そしてその中に、さらに小さな球が入れ子になっている。


「一番外側が、あなたのいた現実世界です」


「……うん」


「その中に、『本来のティルナノのゲーム世界』が広がっていました。

 多くのプレイヤーがログインとログアウトを繰り返す場所です」


光の中の二つ目の球が、そっと瞬く。


「じゃ、ここは——?」


私は、真ん中に核のように存在する球体を見つめた。


「ここは、私たちが《影の世界ティル・ナ・スカ》と名付けた場所」


ブリギッドは、その名を静かに告げる。


「本来のゲーム世界に、これ以上ダメージが広がらないように、

 暴走したバロールを収容するための、『シェルワールド』

 それがここ、スカなのです」


ティルナノの、スカ……。


 「でもそこに、バロールは転移者を呼び寄せようとした」


ブリギッドの瞳が、そっと私を見つめる。


「まきぽん。あなたの意識も、リヒトも——

 そしてマスターである榊原瑛士も。

 今は、このスカの中に固定されています」


「そんな……」


胸の奥がきゅっと痛んだ。


「私たちは……何のためにここに呼ばれたの?」


「僕の設計した言語詠唱システムは『想い』の強さによって影響力が変わる。

 だから、バロールは魔力の供給源として、より強い『想い』を持つ人間を必要とした」


「供給源……」


「そこで結果として引き寄せられたのが、あのリヒトくんだったのだろう」


リヒト——

確かに彼は、異常ともいうべき承認欲求と、復讐心を持っていた。


「でも、私は? どうしてここに呼ばれたの?」


私は、違う。あんな邪悪な想いで動いたりしない。


「そうだね。君は、リヒトと同じように強い想いを持ってはいたが、

 それは「願い」や「希望」といったポジティブなものだった。


 ——それは、想いとしてはとても強いものだったが、

 バロールにとっては、自分の求めるものと正反対のベクトルだった」


「ベクトル?」


瑛士さんの言葉をブリギッドが補足する。


「強さの方向ですね、まきぽん。

 あなたの想いは、強く、未来へと繋がるもの。

 だからリスナーたちを惹きつけるのです」


ブリギッドが、私にもわかるように説明してくれる。


「それじゃ、私が邪魔だったから……」


「そう、バロールはイービルアイを遣わせて、まきぽんを消そうとしたのです。


 ティルナノの神話には、世界を滅びの定めから救う

 『運命の巫女』の存在が語られていますから……」


ウンメイノミコ——運命の巫女。

バロールが執拗に私を狙っていたのは、そのためだったのか……。


あの時、みきぽんに助けられなかったら、

私は、そしてこの世界の運命は、また変わっていたのかもしれない。


「……でもさ、私たちは、このまま供給源として捕らえられ続けたら、どうなるの?」


「肉体は現実世界に。意識は、このスカに、

 あなたたち転移者は、文字通り、二つの世界の狭間にいます」


(……狭間)


縁の泉で見た、病院の光景。

泣きじゃくるおかーさんの姿。

そして今、目の前にある、ゲームの心臓部。


そのどちらでもあり、どちらでもない『狭間』。


「そして、いつまでもこの状態が続けば、現実世界の肉体は、やがて滅びを迎えるでしょう」


「……死んじゃうって、こと?」


「その通りです」


ブリギッドは俯きながら、過酷な現実を告げた。

パソコンのファンの音がやけに遠くで鳴っている。


「おねーたん……?」


みきぽんが心配そうに私の顔を見上げている。


気づかないうちに、私は自分の手を強く握りしめていた。

それでも震えは止まらずに、指先の感覚が薄れていく——。


「だめ……」


声が、思ったよりもかすれていた。


「だめだよ……瑛士さんも、リヒトも……私も……死ぬなんて」


瑛士さんは頷いた。


「僕だって、ただ死ぬのを手をこまねいて見ているわけじゃない」


「マスターと私は、こちらの世界にいながら、新しいAI『ルグ』の完成を急いでいます」


「ルグ……

 それは、一体何なの……?」


恐ろしいけれど、その先を聞かずにはいられない……。

私は固唾を呑んで、ブリギッドと瑛士さんを見つめた。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


今回は少し情報量の多い回でしたが……

推理小説が大好きな作者が、宝物みたいに散りばめた

世界の秘密の謎解きや伏線回収を、楽しんでいただけたら嬉しいです。


作中に出てきた「パライバトルマリン」は、

トルマリンという宝石の中でも、特に希少で高価とされているカラーで、

南国の海のような、美しいネオンブルーをしています。


鉱物が大好きな、まきぽんの設定を

少しだけ活かさせていただきました。

……というか、作者自身が鉱物好きなんですよね(笑)。


次回は、さらに世界の謎と、新たな可能性に迫っていきます。

引き続きお付き合いいただければ嬉しいです!

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― 新着の感想 ―
中二病くすぶる内容だったわ(*´・ω・)(・ω・`*)ネー
〉おそとと、ちがうにおいがするでち で読んでいて世界観がガラっと変わりました。 みきぽん、良い仕事しますね。 そして、クライマックスに向けてどうなるのか目が離せません(*´艸`*) 一二三コンテスト…
 ∧_∧  ∧_∧     ∧_∧ レジェンドマッスル (´・ω・)   (・ω・`)  (・ω・`)  みきぽん(物理) (⌒丶ー⌒丶⌒ー-ィ⌒) ⌒ー-ィ⌒)   ゴッドベシタ…
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