第30話「秘められていた記憶……でも、私はもう逃げない!」
前回、仲間たちに支えられて辛い現実から立ち直ったまきぽん。
今回は、その翌朝のお話です。
心の底に秘められていた「過去」と、みんなと過ごす「現在」
現実と異世界、その両方を見つめたまきぽんが、
「それでも前に進もう」と、静かに覚悟を固める回になります。
その夜——。
私は久しぶりに、あの頃の夢を見た。
小さな子供だった私は、暗い部屋に一人で寝かされていた。
でも、壁の向こうからはずっと大人たちの怒鳴り声が聞こえてきて、とてもじゃないけど眠れない。
「もう限界なのよ」
とか、
「勝手にしろ!」
……とか、そんな言葉。
意味なんてわからないけど、ただ、
大好きな両親が、攻撃的で大きな声を出しているのが怖かった。
自分がいる世界が、バラバラになりそうな気がして——。
恐ろしい声が聞こえないように、頭から布団を被って、
その中で幼い私は、何かをぎゅっと抱きしめている。
——水色のドレスを着たお人形。
そう、あれは小さい頃に大好きだった
魔法少女のアニメ、
『ふたりはピュアピュア』の……
…………。
……あれ?
あの子、なんて名前だったっけ?
あんなに好きだったはずなのに、どうしても名前が思い出せない。
でも、そのお人形だけは、
いつもと変わらない笑顔で、私に寄り添ってくれていた。
だから、私は心の中で呪文のように何度も呟くんだ。
「××ちゃんがいれば、だいじょうぶ」
「××ちゃんがいれば、さみしくない」
両親の言い争いは、まだ終わらない。
私は暗闇の中で、震えながら、
お人形をきゅっと抱き締める……。
* * *
「…………!」
——気がつくと、私はギルドハウスのベッドの上で目覚めていた。
隣ではみきぽんが小さく丸まって寝息を立てている。
(……今の夢)
ずっと忘れていたことなのに……、
どうして急に思い出したんだろう。
答えのない違和感だけを抱えて、私はゆっくりと上体を起こした。
(……雨、か)
今朝は雨のせいか、窓の外はぼんやりと薄暗い。
* * *
私はいつものローブに着替え、ねぼすけのみきぽんの髪も整えて、食堂に降りてきた。
「……おはよ」
みんなに声をかける。
バルガンに、ノエル、そして今朝は、珍しくリゼがいる。
リゼが朝からギルドハウスにいるのは、ちょっとレアだ。
ノエルと気が合うのか、最近は城じゃなくてこっちに顔を出すことも増えたけど——
それでも、そろって朝ごはんなんて機会は、そうそうない。
「おう、昨日はよく眠れたか?」
「うん……昨日はごめんね」
あの後は寝ちゃって、せっかくバルガンが用意してくれた晩ごはん、食べられなかったんだよね。
「いいってことよ。おめーたちが食い逃した羊の煮込みとプディングは、ちゃんと取ってあるからな!」
「ぷりん!?」
みきぽんが瞳を煌めかせる。
「プリンじゃなくて、プディング……お肉の腸詰めのことよ」
ノエルがみきぽんに教える。
「えー、ぷりんじゃないでちか……」
「そうがっかりすんな、プディングも美味いぞ。
でもな……ちっこいのには、まずは玉ねぎたっぷりのポタージュだ!」
そう言って、バルガンはみきぽんの前に
ポタージュの皿をドン! と置いた。
「やっぱりやさいー!?」
いつものやりとりで、食卓に明るい笑顔が広がる。
視線を上げると、不意にリゼと目があった。
「……まきぽん、元気になったか」
「リゼ、ありがとう。もう大丈夫」
リゼは黙って頷く。
相変わらず言葉は少ないけど、
いつも見守ってくれているのが伝わってくる。
エリアスは……また早朝からお城に行ってるのかな。
思えば、朝早くからギルメン全員が揃うことって、あまりなかったかも。
みんなログインの時間もバラバラだし。
……ログイン。
ハッとして、私はみきぽんの入団祝いの夜のことを思い出した。
そうだ、バルガンに「ログイン」って言っても、全然通じなかった——。
あの時は笑い話みたいに流しちゃったけど。
今思うと、全然笑えない。
私は思わずバルガンの顔を見てしまった。
「ん? 俺の顔に何かついてるか?」
「ううん! なんでもないよ」
バルガンも、ノエルもリゼも……。
転移者じゃなかったら、一体誰だというんだろう。
そして、みきぽんは……?
昨日、縁の泉で現実を突きつけられてから、
今まで目を逸らしてきた疑問から、ついに逃げられないところまで来てしまった。
でも……。
みきぽんがこっそり、自分のにんじんをリゼのお皿に移したが、
リゼはそれを黙って食べてくれている。
そんな光景を見て、ノエルは困ったような微笑みを浮かべた。
だが、その現場をバルガンに見つかってしまい、
みきぽんのポタージュには、さっきの倍のにんじんが戻ってくることに……。
みんなと囲む朝の食卓は、今日もとってもあったかい。
——そうだ、朝の夢。
うちの両親は私が小さい頃に離婚しちゃったから、賑やかな食卓は、経験したことがない。
こんな幸せな毎日まで壊れてしまったら、私はどこに行けば……。
私はそんなことを思いながら、朝食を終えた。
そして、雨を避けるためにフードを目深に被ると、
みきぽんを連れて、エリアスが待つ王城へと向かった。
この先に待つ出来事が、なんであろうと受け止める覚悟を決めて——。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
今回は、幼少期の記憶と、ギルドでの何気ない朝を並べることで、
まきぽんにとっての「帰らなきゃいけない場所」と「もう一つの家」
その両方が輪郭を帯びてきた回になりました。
ラストで、エリアスの待つ王城へ向かうことを決めたまきぽんは、
いよいよこの世界の秘密と正面から向き合うことになります。
次回からは、王城パート本格突入。
物語は一気に核心に踏み込んでいきますので、引き続きお付き合いいただけたら嬉しいです!




