第2章 序章 「花降る王都、祝福の凱旋」
第2章 〜私たちの還る場所〜
【前章までのあらすじ】
寂しがりやの女子高生・まきぽんは、
ライブ配信中に意識ごとオンラインゲーム
『ロード・トゥ・ティル・ナ・ノーグ』の世界へ転移してしまう。
転移直後、ラスボス級モンスター
『バロール・オブ・ザ・イービルアイ』に襲われるが、
突如現れた謎の『妹』みきぽんが、
まさかの魔法少女(物理)に変身して救ってくれた。
二人はまきぽんのギルド
《白銀の角笛団》がいる王都リアンナハへ向かい、
戦士バルガン、薬師ノエル、黒翼団長リゼ、
ドルイド・エリアスたちと再会する。
女王の命で北の洞窟へ向かった遠征では、
もう一人の転移者リヒトの暴走を止め、
闇に囚われたモリガンを救い出した。
——けれどその旅の中で、まきぽんの心にはひとつの問いが生まれる。
「私は、どこへ帰るべきなんだろう?」
第2章は、その答えを探す物語です——。
【序章】
「花降る王都、祝福の凱旋」
* * *
北の洞窟での激闘を終えた後——。
私たちはひと晩野営をして体を休め、
夜が明けると再び王都リアンナハへ向けて歩き始めた。
体にはまだ戦いの疲れが残り、
足取りは重いはずなのに、心だけは少し軽かった。
石造りの街道が見えはじめた頃、
王都リアンナハの城壁が、朝靄の向こうにゆっくりと姿を現した。
「おねーたん! あれ、リアンナハでち!」
みきぽんが遠くに聳えるお城の屋根を指差しながら、
私にキラキラとした瞳を向ける。
「うん……帰ってきたんだね」
ほんの数日見なかっただけなのに、
なぜかとても懐かしくて、胸が熱くなる。
私たちの姿を見かけると、
城壁の上で見張りの兵たちが角笛を鳴らした。
ボオオオオォォン……!
低く響くその音は、
王都周辺の丘と荒野へゆっくり広がっていく。
門の前では衛兵が英雄たちの帰還を告げる。
「白銀の角笛団、帰還せり!
北の洞窟の魔物を討伐完了!」
そして、リアンナハの城門がゆっくりと開いた瞬間——
そこには予想もしなかった光景が広がっていた。
* * *
(うわぁぁぁぁ……!)
石畳の大通りには、朝からこんなに?
と、驚くほど大勢の人が集まっていた。
風に揺れる旗、ベランダから下がる色とりどりの垂れ幕。
「おーい、遠征隊が帰ってきたぞ!」
街の人たちは私たちの姿を見つけるなり、ぱっと表情を明るくした。
「おかえりなさい!」
「勇者さまたちだ、よくお帰りなされた!」
歓声が、嵐のように押し寄せる。
その中から、ひとりの小さな女の子が、
大切そうに花冠を抱えながらエリアスの元に歩み寄ってきた。
「……ドルイドさま。これ、あげるの……!」
少女の手は、ほんの少し震えていた。
エリアスは一拍だけ驚いたように瞬きをしたが——
少女の前にゆっくりと膝をついた。
「ありがとう。
君の願いも、この王都と一緒に守ろう」
エリアスが頭を下げると、
少女はそこに、ふんわりと花冠を被せた。
周囲から、わっと拍手が起こる。
少女に向かって優しい微笑みを浮かべると、
その一瞬だけ、エリアスは年相応の青年みたいに見えた。
ドーン、ドーン……
ケルトの太鼓・バウロンの音が街中に鳴り響くと……、
それを合図に大通りの道いっぱいに花吹雪が舞い始める。
クローバーやスミレ。
無数のちいさな花々が、
風に乗ってはらはらと私たちの上に舞い落ちる。
朝のパンの焼ける匂いに、花の香りが混じって、
早朝のリアンナハの街はいきいきと目を覚まし始めた。
賑やかな笑い声と共に、
子どもたちがクローバーの花冠を持って、私たちに駆け寄ってきた。
みきぽんは同じくらいの年齢の子から花冠を二つもらうと、
宝物のように両手で持ち上げ、朝の光にかざした。
「おねーたん! みきぽんたちにもおはな、くれたでち!」
そして、おずおずと頭に乗せてみる。
「みてみて〜!」
真っ白なクローバーの冠を被ってにっこりと笑う妹は、
春の妖精みたいに可愛いらしかった。
「似合ってるよ、みきぽん」
「えへへ……おねーたんにも!」
そして彼女は、私にもう一つの花冠をそっと被せてくれた。
みきぽんは、誰とでもすぐ仲良くなれる。
私はこういう空気だと……まだ、少しだけ尻込みしてしまう。
また別の子供が、リゼに花冠を差し出した。
「黒翼団のおねえちゃん、かっこいい!」
「っ……ありがとう……」
リゼは普段の凛々しさが嘘みたいに、
真っ赤になって恥ずかしがりながらも、それを頭に乗せていた。
「おじちゃーん!」
「おう、野菜食って大きくなれよ! ダーッハッハ!」
花冠を被ったバルガンは、
両腕に子どもたちをぶら下げながら大笑いしている。
その笑い声は、戦場で聞いたものよりずっと朗らかで、優しかった。
ノエルは薬局の常連の老人たちに出迎えられていた。
彼らはノエルに花冠を被せ、その手を取ると、
「ノエルちゃん……よく帰ってきたね」
「怪我はなかったかのう?」
と、肩を抱きながら、
まるで孫の成長を喜ぶかのように微笑んでいた。
黒翼戦士団の皆さんも、街の人々から花冠を被せられたり、
花のシャワーを浴びたり、楽しそうに笑い合っている。
そして——行列の中央を凛と歩くエリアス。
春風がローブを揺らし、
手にした木製の杖が光に煌めいた瞬間、民たちが一斉に頭を垂れた。
「ドルイド様、どうか祝福を……!」
エリアスは右手を胸に当て、静かな祈りの仕草で応える。
「王都に、永遠の繁栄と祝福があらんことを——」
その姿は、北の洞窟で一緒に戦った人物とは思えないほどの威厳に満ち、
春の女神に仕える『祈りの賢者』の風格を秘めていた。
私たち……本当に帰って来られたんだ……。
夢のように幸せな光景に、胸がきゅっと締め付けられる。
(この世界って……本当に、あったかいな……)
みきぽんは花吹雪をつかまえようとして、
両手をぱたぱたさせながら、その場でくるり、くるりと回った。
回転に合わせて、藤色のツインテールが
遅れてついてくるように、ふわん、と揺れている。
そのリズムが妙に楽しそうで、
見ているこっちまで笑顔になってしまう。
「みきぽんたち、しゅじんこうみたいでちね!!」
「ふふ……私たち頑張ったもんね!」
異世界に転移してからは、怖い思いもしたし、辛いこともあった。
でも、妹の無邪気な笑顔を見ていると……
今までのことが全部報われたような気がして、泣きそうになった。
* * *
広場には、ケルト紋様で縁取られた大きな祭壇が設けられていた。
中央にはブリギッドの女神像が
朝陽を受け、金色の光をまとっている。
民たちは胸に手を当て、静かに祈りを捧げる。
「春を与える女神さま……
勇者たちを無事に帰してくださって、ありがとうございます……」
私はその光景を見ながら思った。
——この国は、あたたかな祈りでできているんだ、って。
私とみきぽんは手を繋ぎ、遠征団のみんなと一緒に、
人々の祝福を受けながら大通りをゆっくりと練り歩いた。
「おねーたん……リアンナハ、きらきらでちね」
「うん……きらきらしてるね」
恐怖の記憶が光の中に溶けていき、
心のどこかが、じんわりとあたたかくなった。
(……ただいま)
私は心の中で、そっとつぶやいた。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
リアンナハへ凱旋したまきぽんたちを迎えた「花吹雪」と「太鼓」は、ケルト文化に由来があります。
ケルトの祭礼では、「春を迎える儀式」 や 「旅の無事を祈る祝福」 として、草花や香草を空へ放ち、神々へ感謝を捧げる風習がありました。
また、作中で鳴っていた太鼓・バウロンは、アイルランドの伝統音楽にも使われる楽器で、『心臓の鼓動』を象徴すると言われています。
凱旋シーンで鳴り響くと、まるで街全体が
「おかえり」「よく帰ってきた」
と語りかけてくるようですね。
——まきぽんが感じた温かさの正体は、もしかしたら、そうした『祈りの文化』がこの国に根づいているからなのかもしれません。
第2章では、この温かい日常の中に少しずつ『揺らぎ』が現れていきます。
感想やブクマ、とっても励みになります。
いつも応援、本当にありがとうございます♪




