第3話「かわいい妹はプリンで変身する魔法少女(物理)でした!?」
バロールの邪眼に追い詰められたその瞬間、光と共に現れたのは――プリン!?
そこから始まる、衝撃の変身シーン!
ツインテールのちびっ子妹が、まさかの「魔法少女(物理)」に大変身!?
そして視聴者コメントまでもが力に変わり、史上最凶ボスへと挑む――!!
笑いとツッコミ必至のドタバタバトル、そして最後に待ち受ける涙のワケとは……
――どうぞ最後までお楽しみください!
「ちょ……そのプリンどっから出てきた!?」
私が目を丸くしてる間に、どこからか銀色のスプーンが現れ、みきぽんの手に収まった。
「プリンを食べて、華麗に変身!
魔法少女――マジカル☆みきぽん!!」
パクッ。
「食べた〜っ!?」
プリンを口にした瞬間、光のリボンがみきぽんの体を包み込む。
いつの間にか、辺りはピンクの背景にキラキラが舞い飛び、華やかなBGMが響き渡る、謎のゆめかわ空間へと変わっていた。
「待って、バロールどこwww」
みきぽんが目をつぶって光に身を任せると、髪がふわりと舞い、ワンピースは光に包まれながら、宝石や妖精のような羽、ブーツ、リボン、フリルがテンポよく追加されていく。
最後に空から降ってきた魔法のステッキを手に取ると、ステッキの先端にある星型のオーブから、どこからともなく鎖に繋がれた鉄球が生えてきた。
えっと……それって、モーニングスターですよね……?
「いっくよーー☆」
ウインクしながら片手を目の上にかざし、星屑を散らすようにキラキラ輝く決めポーズ!
その姿は、私が子供の頃に憧れた“魔法少女”そのものだった。
私はポカンと口を開けたまま、その光景をぼーぜんと見ていた。
理解が……追いついていかない……。
はっ! 今はそんな場合じゃなかった!
みきぽんが変身してる間は時が止まっているのか、それとも律儀に待っていてくれたのか……バロールが再び行く手を塞ぐ。
しかし今度は、私の前にすっくと立ち上がったみきぽん。
バロールの巨体にも怯むことなく、私をかばうかのように小さな腕を広げた。
「おねーたんは……みきぽんがまもるでちっ!」
でもその背中はあまりに小さくて、震える私の胸を強く締めつけた。
「や、やめてみきぽん! 危ないから!」
必死に叫んだ、その時だった。
――ピカァッ!
私の胸元のあたり、ローブの中から強烈な光が溢れ出す。
眩しさに思わず目を細め、震える手を伸ばすと……
そこにあったのは――見慣れたアイテム。
ラインストーンとステッカーでデコった、私のピンクのスマホだった!
「……スマホ……!? なんでここに……」
スマホは勝手に起動し、アプリを立ち上げる。
すると次の瞬間、私の周囲に動画配信のコメントがホログラムのように空中に浮かび上がった。
【みんな! 急にまたまきぽんの配信が始まったぞ!】
【おーいまきぽん、大丈夫だったか〜!】
リスナーのみんなの声が宙を舞っている。
どういう仕組みになっているのかはわからないけど、現実世界の配信は、今も続いているみたい。
【なんか女の子が増えてるぞ】
【まきぽんの妹ちゃん!? きゃわわ〜】
【バロールと戦ってるのか? がんばれ!】
その言葉たちが、呪文みたいに私の胸に響き、震える指先に力を与えていく。
「みんな……見てくれてたんだ……」
部屋で孤独に配信していたときとは違う。
今、私たちは確かに”つながって”いる。
それはもう、応援じゃなくて……力。
コメントは光の渦となって私の周りを取り囲み、まるで呪文の詠唱のように、魔力の高まりとなって私の中に満ちてくる。
「……これは、みんなの声……? 力がみなぎってくる……!」
信じられない光景に震えていると、みきぽんがくるりと振り返り、小さな手を伸ばしてきた。
「おねーたん! そのキラキラ、みきぽんにちょーだい!」
「えっ……!?」
戸惑いながらも、私はスマホを目の前に掲げてみた。
すると私の周りで渦を巻いていたコメントたちが一斉に集約し、ひとすじの閃光はまるで奔流のように迸り――
みきぽんのモーニングスターへ吸い込まれていく。
鎖の先の鉄球がまばゆい光を帯び、稲妻が走った。
「な、なにこれ……! 鉄球が……雷をまとってる!?」
コメントの呪文が次々と光の軌跡となり、鉄球の周囲を回転する。
【行けるぞ、俺たちがついてる!】
【決めろ、みきぽん!】
リスナーの声が力となり、鉄球は流星のように輝いた!
「ひっさつ――!」
みきぽんが両腕を振りかぶり、瞳をきらりと輝かせる。
「マジカル☆シャイニング・モーニングスターーー!!」
【キターーーー!】
【行っけぇぇぇ】
轟音とともに鉄球が振り下ろされ、雷を帯びた閃光が一直線にバロールを貫いた。
ズガァァァンッ!!
鉄球は邪眼の魔光を弾き飛ばし、そのままバロールの兜に直撃!
鈍い音と共に衝撃が走り、あの巨体が――軽々と吹っ飛んだ!
「グオオオオオオ……ッ!!」
地面が揺れるほどの衝撃音を残し、バロールの巨躯は後方へ叩きつけられた。
「うそ!? ――やっつけた!?」
それでもバロールは片膝をつきながら、苦しげに立ち上がってきた。
私たちはお互いにバロールから目を離さないよう背中合わせに立つと、魔法のステッキとスマホを掲げて再び身構える。
「クッ……ユダンシタ……。
ダガ――ミツケタゾ……『ウンメイノミコ』ヨ……」
「運命の……な、なに?」
それって私の……こと?
「ワレノジャマハ、サセヌ……」
地の底から響くような声を残すと、バロールは足元から黒い霧となっていき、最後は紅い瞳だけでこちらを睨みつけながら消えていった。
「……い、いなくなった……?」
【これは……勝ったのか?】
【ちびっ子マジでやりやがった!!!】
【やったね! みきまきコンビ!】
緊張の糸がぷつりと切れ、私はその場にへたり込んだ。
全身が震えて、膝が勝手に笑う。
「はぁ……はぁ……死ぬかと思った……」
その時だった。
「おねーたんっ!」
小さな声と共に、ふわっと胸に飛び込んできた温もり。
変身が解けたみきぽんが、子犬のように泣きじゃくりながら、必死にすがりついてきた。
「こわかったでち……でも、みきぽん、おねーたんをまもれたでちか……?」
「……っ……」
涙に濡れた無垢な瞳を見た瞬間、胸がいっぱいになって言葉が詰まる。
私は、まだ震える手でぎゅっと彼女を抱き返した。
「……うん。ちゃんと守ってくれてたよ。ありがと……」
涙がこぼれるのも構わず、私は小さな背中を強く抱きしめる。
さっきまで真っ暗で寂しかった心の奥が、今はぽかぽかと温かい光で満たされていた。
【よかったな、まきぽん!】
【ヤバい、俺も目から汗が……】
そして――。
「……ただいま」
自分でも驚くくらい自然に、その言葉が口から漏れた。
「――おかえり、おねーたん!」
みきぽんは涙をぬぐいながらも、にっこりと笑顔になって力いっぱい応えてくれる。
私はハッとした。
孤独な日々の中、誰かに求められることもなく、帰る場所もなく……ただ空っぽの心を抱えていた。
でも今――小さな腕に抱きしめられ、ずっと求めていた言葉が返ってきた。
居場所は、現実じゃなくてもいい。
ここに、“異世界”に――私の帰る場所があったんだ。
みきぽんの柔らかなほっぺを感じながら、胸の奥が熱く震えて、涙が溢れた。
『おかえり――』
それは何よりも幸せな魔法だった。
最後までお読みいただきありがとうございました!
孤独だったまきぽんは、異世界で”家族”の温かさを見つけることができました。
そして次回は王都リアンナハに帰還し、いよいよ冒険者ギルドの仲間たちも登場します!
個性的な仲間たちに囲まれ、ツッコミどころ満載のにぎやかすぎる冒険者ライフが幕を開ける!?
笑いと感動が同時に押し寄せる、異世界×配信×妹バトルコメディ……次回もお楽しみに!
評価やブクマの一つひとつが、本当に次の執筆の力になります。少しでも楽しんでいただけたら、応援いただけると嬉しいです!