↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で待ってた妹はモーニングスターで戦う魔法少女(物理)だった件  作者: 未知(いまだ・とも)
番外編 〜はじまりの物語たち〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/73

番外編「ティルナノ開発秘話・前編 〜100時間の残業と1000日の徹夜を越えて〜」

このお話は、本編よりずっと前──

まきぽんたちが異世界に転移する前の、現実世界でのエピソードです。


「エリアス? いやいや、あんなチートキャラおらんやろw」

……と思ったあなたにお届けします。


あの『最強ドルイド』がどうやって生まれたのか。

誰が、どんな想いで形を与え、名付けたのか。


ゲーム開発の現場には、派手なドラマだけじゃなく、

誰にも気づかれない努力や、孤独に戦うたくさんの小さな優しさがあります。

この番外編は、元ゲーム会社で働いていた筆者が、

あの頃の息遣いと空気を思い出しながら描いたものです。


※ 現場の雰囲気をお伝えするために、わかりにくい用語が多少登場するかとは思いますが、

後書きに『読んで楽しい用語集』をご用意いたしましたので、ふんわり雰囲気で読んでいただいても大丈夫です。

ここは渋谷にあるゲーム会社『IsotopeGene(アイソトープジーン)』の一室。

通称ティルナノ開発室。


残業と徹夜が境界を無くし、もう今が何月何日なのかも定かではない時空の中……

昼前だというのに、誰もが死んだ魚のような目をしながら働いていた。


デスクには空になったエナドリ、

冷め切ったカップ麺、シワの寄ったジャケット。

けれど不思議と、誰も席を離れようとはしない。

誰もがこの作品を愛し、完成させることに誇りと喜びを感じているからだ。


「……敵AI、また壁に向かってエンドレスランしてますね」

モニターを覗き込みながら、チーフディレクター・榊原瑛士(さかきばら えいじ)はため息をついた。


「あー、それ仕様です(棒読み)」

エナドリを飲み干しながら即答したのは、

バトルプランナーの新堂直希(しんどう なおき)だ。


新堂は明るい茶色の髪をざっくりと後ろで結び、

いつもパーカーにカーゴパンツ、スニーカーというラフな格好をしている青年だ。

どこか眠そうな目をしているのに、

何か面白い話を思いついた瞬間だけ、目をキラキラさせて子供みたいに笑う。


しかし、その笑顔に救われてきた仲間は多い。


彼は仕様よりもノリを優先してしまうタイプである。

判断は速く、彼の口癖は

「とりあえず触ってから考えましょう」だ。

だが腕は確かで、それが結果としてユーザーを満足させる

『気持ちのいい』バトルにつながっていることも間違いではない。


瑛士は眉をひそめた。

「いや、『仕様です』で押し通せる範囲じゃないですよこれ。

 パス回しのルート死んでますね。NavMeshの参照切れてますから——」


「ちょ、ちょ! わかってますって! 

 仕様って言っとかないと、心が死ぬじゃないですか……」

新堂はキーボードを叩きながら、乾いた笑いを浮かべた。


「大丈夫っス、あとでAI班に『直しておいて〜』って言っときますから!」

「あとで、ねぇ……」

『あとで』『今度』『そのうち』——現場における死亡フラグ三兄弟である。


「まぁまぁまぁ、細かい話は置いといて!」


いや置いとくな。


新堂がニヤッと笑いながら、キーボードを流れるように操作する。

「サカキさん、俺、テストプレイ用の時短キャラ作ったんですよ、ほら、これ!」


「……時短?」

「はい、デバッグ作業の救世主です! 自信作です!」


新堂は目にも留まらぬ速さでキーボードを叩くと、

最後に誇らしげにEnterキーをターン! と叩いた。


——画面に現れたキャラは、


全ステータス:カンスト上限突破

全ジョブ:完全解放

全スキル:クールタイム0

装備制限:撤廃

ダメージ:だいたい通る(通らないなら通るようにする)


まるで『ぼくがかんがえたさいきょうキャラ』

みたいなパラメーターを持っていた。


瑛士は10秒ほどフリーズした。

現実逃避と言い換えてもいいかもしれない。


挿絵(By みてみん)


「……新堂さん」

「はい!」

「これ、世界崩壊レベルのチートキャラですよね」


「でも便利なんですよ!?

 どんなコンテンツでも秒で検証できるんで!」


「便利ですけど……ゲームとしての理性、どこに置いてきたんですか?」

「異世界です!!!」


……どこだそれは。


新堂はさらにウキウキして続ける。

「で、見た目は魔法職ですけど、ほら!

 自分より大きなエンハンスソードも扱えるし、武道の究極奥義も使えるんです!」


新堂が操作すると、キャラは派手なエフェクトを振りまきながら

巨大な剣を軽々と振り抜き、周囲の敵を一瞬でまとめて吹き飛ばした。


『ね?  気持ちよくないっスか?』

と言わんばかりに、新堂はドヤ顔をしている。


「魔法職が物理で戦うの、シュールだな……(汗)」

「えっ? スキルもジョブも、全部使えた方が調整わかりやすいでしょ?」

瑛士はもうツッコんだら負けだと思い始めた。


よく見ると、その『最強キャラ』は、どこかで見たような髪型、顔立ちをしている。

「あの……この見た目……もしかして僕、ですか?」


「はい、モデルはサカキさんです!

 サカキさん最強キャラですよ、カッコいいでしょ!!」


「いやその……」

瑛士は正直、ドン引いた。


「やめてください、なんで僕なんですか……」

「だって現場で一番強くて『戦えてる人』って、サカキさんじゃないですか?」

「……(うっ、そう来るか……)」


新堂はいつもの調子で軽く言ったが、

その言葉は、瑛士の胸の奥深いところに刺さった。


確かに、そうだった。

誰かが潰れそうになれば、真っ先に肩代わりした。

深夜でも、休日でも、トラブルが起きればすぐに駆けつけた。

誰よりも早く動くことで、誰も倒れないようにしてきた。


——それを『戦う』と呼ぶなら、自分は確かに、いつも戦っていた。


新堂はそれを『強いから』と言ったが——

本当はただ、誰も一人にしたくなかっただけだ。


それなら『最強キャラ(コイツ)』は、新堂なりの敬意なのかもしれない。

だからこそ、瑛士はその言葉に反論できなかった。


「せっかくだし、コイツに名前つけてやってくださいよ、

 サカキさんの『分身』なんで!」


「えぇ……」

モニターのキャラを見つめる瑛士。

そこには瑛士を二割増しでイケメンに補正したようなキャラが、

巨大な武器を軽々と持って佇んでいた。


「てか、眼鏡してないじゃないですか」

「はい! モデリング班に頼んだら、

『ケルトにメガネねーし、そんな目的のためだけに工数割けねーよ』

 って、秒で却下されました!」

「…………」


まぁ誰だって鬼のように忙しい中、

そんな遊び要素を頼まれたら、同じ理由で即却下するよな。


「名前ねぇ……」

眼鏡をかけていないこと以外は、やっぱり自分にどこか似たような存在。


(僕の分身か……)


分身は英語で『alias』(エイリアス)。

それをもじって——


「じゃあ……『エリアス』」


新堂はパチンと指を鳴らした。

「おー! なんかカッコいい響きッスね!?

 はい採用! 即反映します!」


Enterキー、ターン!!


「じゃあこいつ、開発用デバッグキャラ『Elias』で回します!

 もういつでも使えます!」

「いや早いだろ!?」

止めるより先に、プロジェクトに反映されていた。


「でも……調整の前提が消えますよ、これ」

「なんでもやってみないとわからなくないっスか?

 とりあえず最強にして、触ってから考えましょう!」


新堂は仕事が速いのか雑なのか、よくわからないやつだ。

でもその大胆な発想が、いつもいい方向に働いているので、

この開発チームはよく回っている。


瑛士はこの日何度目かわからないため息をついた。


 * * *


だが、この開発室の片隅でノリと勢いから生まれた『最強キャラ』が——

のちに『最強のドルイド・エリアス』としてまきぽん、

みきぽんたちの冒険を頼もしく支えることになる。


そのことはまだ誰も知らないのであった。


// End of this commit.


ここまで読んでくださってありがとうございます。


エリアスは、決して開発者の自己満足から生まれたわけではありません。

「作業を楽にしたい」「もっと気持ちよく戦いたい」という現場のノリと、

「誰かの力になりたい」

……そんなまっすぐな願いから生まれました。


次回は、突如大きな問題に直面して、新堂と瑛士が

「一緒にいないのに、共に戦っている」

——そんなエピソードを描いた作品です。

静かな男同士の友情に、きっと胸が熱くなると思います。


もしわからない用語などあれば、感想欄にてお気軽にどうぞ。

丁寧にお答えしますし、必要であれば追記や補足も入れますからね!


。*❅┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈❅*。


【開発現場ミニ用語集】


◆IsotopeGene(アイソトープ・ジーン)

瑛士たちの務める中堅ゲーム会社。

略称はアイソジーンだが、

某掲示板では「イソジン」だの「愛人」だの言われがち。


◆ チーフディレクター

ゲーム全体の「方向」と「最終判断」を背負う人。

理想と現実の間で一番苦しむ役職。

何かあればだいたいこの人のところに相談が集まる。

責任は重いが、その分「世界を作っている実感」も強い。


◆ バトルプランナー

戦うときの「気持ちよさ」を設計する専門職。

数値よりも「手応え」や「テンション」を大事にする。

コントローラーを握った手の感覚で判断する人が多い。

新堂はこのタイプ。ノリで前進する。


◆ 触って

会議や議論をいったん止めて、実際に「ゲームを操作してみる」こと。

戦闘システムや操作感は、資料や数値だけでは判断しづらい。

「触ればわかる」が合言葉。

新堂の口癖「とりあえず触ってから考えましょう」は、

つまり「一回、体で理解しようぜ」という意味。


◆ 「仕様です」

本来は「そういう設計です」という意味。

しかし現場では「直す余裕がないから、一旦このままで行きます」の合図にもなる。

連発すると信頼が溶ける危険なワード。


◆ パス回しのルート

敵やキャラクターが「どこからどこへ移動するか」を判断するための動線。

サッカーでボールをどう回すかを決める作戦図のようなもの。

ここが崩れると、キャラはどこに動けばいいか分からなくなり、

時々、壁に向かって全力疾走する。


◆ NavMesh(ナビメッシュ)

キャラクターや敵が「どこを歩けるか」を判断するための地図データ。

これが崩れると、敵が壁に向かって永遠に走り続けたりする。

現場ではよく見られる光景。


◆ デバッグキャラ

テストプレイで効率よく検証するために作られる特別なキャラ。

パラメータが最大、制限がすべて解除されていたりすることが多い。

便利だが、やりすぎると世界が壊れる。

エリアスはここから生まれた。


◆ 工数(こうすう)

人と時間の総量のこと。

「工数がない=今は無理です」という意味に近い。

ゲーム開発では最も説得力のある断り文句のひとつ。


◆ 「回します」

作ったデータや仕様を、チーム全体が使える状態にすること。

「ビルドに入れる」「共有化する」というニュアンス。

「じゃあこれ回します」は、「今日からこいつも仲間入り」の意味。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
(*´ω`*)  n開発者 ⌒`γ´⌒`ヽ( E)マッスル☆ ( .人 .人 γ ノ ゴッドだぜぇ ミ(こノこノ `ー´ )にノこ(
 壁にひたすら体当たりをしつつ睨めっこしている敵。  なんかバグ技動画を見ているような気分になりました。角に引っかかったり、めり込んだり、徐々に沈んで行ったり、異空間に飛ばされたり……。  ああいうの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。