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異世界で待ってた妹はモーニングスターで戦う魔法少女(物理)だった件  作者: 未知(いまだ・とも)
番外編 〜はじまりの物語たち〜

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番外編「今はまだ、小さき炎 〜新米魔導士、師匠と出会う〜」

このお話は『いもモー』本編の少し前、

まきぽんが、まだ初心者魔導士だった頃のお話です。


王都リアンナハの南区にある「縁(えにし)の泉」で、彼女が出会ったのは……。

ここは、MMORPG『ロード・トゥ・ティル・ナ・ノーグ』の世界。

——かつて、とある開発者が

「誰も孤独にならない世界を」と願って創り上げた、祈りの王国……。


 * * *


世界の中心にある、王都リアンナハ。

その南区には、人々が『縁を結ぶ場所』として訪れる聖域、縁(えにし)の泉がある。

今日も泉の周りには、憩いと新たな縁を求める人々が集まっていた。


花崗岩で円形にかたどられた泉の縁には、古代語の詩が刻まれている。


『言葉は光となり、願いは水となる』


——この世界の理(ことわり)を表す、女神ブリギッドの言葉だ。


中央には、人々の祈りを受け止めるように、女神ブリギッドの像が立っていた。


その左肩には、旅人が進むべき道を示すとされる

一羽の小鳥が寄り添うようにとまっている。


そして女神の掌から流れ落ちる水は、泉となって大地を潤し、

この地を訪れた者を温かく迎えてくれる。


陽光を受けてきらめく水面。

そこに映るのは、空を流れる雲と、穏やかな人々の営み。

そして——ひとりの少女。


魔導士(メイジ)の初期装備である臙脂色のローブを見れば、彼女がこのゲームを始めたばかりの初心者だということは一目でわかる。

肩で揺れる柔らかな栗色の髪と、情熱的なカーネリアンの瞳。

少女は泉のほとりで必死に杖を振り、眉間に皺を寄せながら、覚えたての呪文を詠唱していた。


「えーと……命の灯よ 我が掌(て)に宿れ

 ……フィア・ベグ!」


呪文とともに、指先に小さな炎が灯る。

だが次の瞬間——


ぼふんっ!


炎は指先で小さな爆発を起こし、驚いた少女は尻もちをついた。


「いたた……またやっちゃった……」


その光景を、茶店のテラス席からひとりの青年が眺めていた。


銀糸の刺繍が施された、濃紺のローブ。

無造作に見えて、どこか品よく整えられた黒髪に、穏やかな眼差し。


彼は忙しい執務の合間に、蜂蜜入りのハーブティーと黒パンで軽い食事をとっていた。

夜空の色の瞳は、静かに少女の奮闘ぶりを見守っている。


「もう一回……フィア・ベグ!!」


挿絵(By みてみん)


パァン!!


「きゃあっ!」


今度は乾いた音とともに、小さな爆発が起こった。

水柱が上がり、驚いた鳥たちが一斉に飛び立つ。


咳き込みながら煙を手で払うと、彼女は慌てて泉の水をすくいあげ、

焦がしてしまったローブの裾にかけていた。


青年はティーカップを静かに置き、額を押さえながら小さくため息をついた。


「……やれやれ」


ここ数日、彼女は同じ光景を繰り返していた。

泉に向かって呪文を唱えては、毎回のように失敗してしまう。


だが彼女は今日も、めげずに呪文を自分のものにしようとしている。

危なっかしいが……

その真剣な姿からは、なぜか目が離せなかった。


「もう少し力を抜けばいいのにな……」


……少し助けてあげようか。

青年は意を決したように、ハーブティーを飲み干すと、ローブの裾を翻した。


「エリアス様、いつもありがとうございます」


代金を受け取った店員は、店を出る青年を笑顔で見送る。


木漏れ日の下を抜け、青年——エリアスは泉へと歩み寄った。

水面に映るブリギッド像は、まるで彼を導くかのように微笑んでいる。


 * * *


「……危ない!」


声をかけられ、少女はハッとした。

掌の上で膨れ上がっていた炎が、フッと消える。


驚いて振り向くと、そこには黒髪の青年が立っていた。

呪文を使って、大きくなり過ぎた炎を消してくれたようだ。


「そのままでは、君の手が燃えてしまいます」


「す、すみません……っ! まだ練習中で……!」


「見ればわかります」


少女は、自分が怒られるのかと思って身構えた。

だが、そっけない口調とは裏腹に、青年の眼差しには優しさが込められていた。


「あの、本当は街の外で練習したいんですけど、私、街から出られるほど強くなくて……」


「ふむ」


「だから、水に向かって打てば、誰にも怪我させる心配がないかなって思ったんです」


「……なるほど」


青年は、この子が魔法の本質を全く掴めていないことに気がついた。


「誰か、君を冒険に連れて行ったり、魔法の使い方を教えてくれる人はいないのですか?」


「んー……私、最近このゲーム始めたばっかりで、まだギルドとか入ってないんです」


「入ればいい」


「でも、みなさん強い人ばかりだし、こんな右も左も分からない初心者では、迷惑かなーって……」


「そんなことはない、ここには初心者に親切な者も大勢いるでしょう」


「はい……」


少女はしゅんと下を向いてしまった。

この少女は元気はあるけど、少し人見知りなのかもしれない。


「君のやり方は悪くない。ただ、力を向ける方向が間違っているんです」


「方向……?」


エリアスは頷いた。


「フィア・ベグは本来、焚き火をおこしたり、ロウソクに火を灯すための魔法です。

 君は今、それを攻撃に使おうとしていた」


「……はい」


「この世界の魔法は、想いと言葉の強さが結果を決める。

 だから、ただMPを上げたり呪文を覚えればいいわけじゃない」


「そうなんですか?」


「そう。

 『何をどうしたいのか、心に思い描く』

 そのほうがずっと大事なんです」


「想いと言葉……」


少女は青年の言葉を理解しようと、黙って考え込んだ。


「……そっか! 結果を想像しながら、呪文を唱えればいいんだ!」


「その通りです、君は飲み込みが早い」


エリアスは泉に向かって杖を差し出し、ゆっくりと呟いた。


「風の精よ 我が声に応えよ

 ……ガル・ナ・エス」


静かな風が生まれ、水面にそよぐ。

波紋が広がり、光が細い輪を描いた。


「これは、風の初級魔法です。

 今は小さな風が起こるように願って、言葉を選びました」


「おお……」


「でも強く、怒りの感情を込めて唱えれば、同じ魔法でも嵐が起こる」


少女は目を見張った。


「じゃあ、さっき爆発したのは、私が『燃やそう』としたから……?」


「そう。君が『燃やしたい』と強く想ったから、炎は君を燃やそうとした。

 ——この世界はそういうふうにできているんです」


エリアスは、今度は軽く息を吐いて


「……フィア・ベグ」


と唱えた。


すると彼の掌の上に、淡く優しい炎が灯った。


「この火は攻撃するためではなく、『照らしたい』という想いが形になったものです」


その光は、少女が見たどんな火よりも温かかった。

恐ろしくも熱くもなく、ただ優しく、胸の奥まで照らすような光……。


「伝わりましたか?」


「はい……でも、できるかな……」


少女は、さっきの爆発を思い出して怖気付いているようだ。

エリアスは微笑んで、不安を和らげるためにそっと少女の肩を叩いた。


「大丈夫、君はもう理解してる。

 火で『燃やそう』とするのではなく、心に『灯す』のです」


少女は深く息を吸って集中した。

泉の音、風の流れ、陽光の瞬き——全てが止まり、世界が静まり返る。


「……フィア・ベグ」


少女の掌に、小さな光が灯った。

ろうそくのように儚いけれど、温かな炎が。


「できた……!」

 

エリアスは穏やかに頷いた。


「それが君の灯(ともしび)です」


少女の瞳は、初めて想いが形になった喜びに煌めいた。


「では、失礼します」


「はい! ありがとうございました!」


少女が顔を上げたときには、青年の姿はもう、人混みの中に紛れていた。


 * * *


あれから一日。

呪文が成功した喜びを思い出しながら、

少女は今日もティルナノにログインしていた。


王都リアンナハの市場は、いつも明るい喧騒に包まれている。

果物屋の呼び声、パンを焼く匂い、子どもたちの笑い声。


少女は頑張って集めた薬草の束を抱えながら、初心者向けの簡単なクエストをこなしていた。


「よーし、これを売ったら、新しい攻撃呪文を買うぞ〜!」


呟いたそのときだった。

耳を裂くような叫び声が、市場の奥から響いた。


「魔物が出たぞーーーっ!!」


市場にどよめきが広がる。

人々が一斉に逃げ惑い、露店の商品が倒される音がした。


「な、なになに!?」


突然の騒動に、少女は立ち尽くす。


皆が逃げてきたその先を見ると、広場の中央で、

黒いゼリー状の魔物が地を這っていた。


ラーナ・スライム——

ラーナ(ケルト語で油)という名の通り、

鉱物油を取り込んで、毒性を帯びた不定形の魔物だ。


「たすけてー! こわいよーー!」


魔物のすぐそばでは、子供が転んで泣いていた。


「……大変!」


少女は反射的に駆け出す。


子供の目前には、今にも獲物を獲り込もうとスライムが迫っている。

垂れ落ちた溶解液はジュッと石畳を焼き、辺りには不快な臭いが漂ってきた。


「だ、誰か!」


少女は慌てて辺りを見渡したが、不運なことに、戦えそうな者は一人もいなかった。


(……わ、私が、やらなきゃ!)


杖を握る手が震える。


フィア・ベグ——

今はこのささやかな魔法しか使えないけど、

何もしないで子供を見殺しにするわけにはいかない。


少女は目を閉じ、深く息を吸った。

そして強く『守りたい』という想いを心に灯した。


「……フィア・ベグ!」


掌に生まれた小さな炎を、スライムに向かって飛ばす。

炎は表面の油膜に当たり、魔物を一瞬怯ませることに成功した。


(やった!)


その隙に、子供は走って逃げていった。


だが——魔物は、今度は少女を次の獲物に定めたようだ。

じわじわと地を這って、少女ににじり寄ってきた。


「わわわ……! フィ、フィア・ベグッ!」


小さな炎など、大した脅威ではないと気付いたのか、魔物は表面を焦がされるのも構わずに近づいてくる。


「だめだっ、効かない……!」


少女は初めて出会う魔物に震え、力なくその場にしゃがみ込んでしまった。

歯がガチガチと鳴って、息ができなくなる。

こらえようとしても、涙が頬を伝って止まらない。


——怖い。

これが、命を失うことへの恐怖……!

少女はきゅっと目を閉じて身構えた。


その瞬間、背後から強い風が吹いた。

少女が振り返ると、そこには杖を構えたエリアスの姿があった。


「……無事でよかった」


「あなたは、昨日の……!」


彼が杖の先で風を操ると、スライムの動きが止まった。


「君……フィア・ベグを唱えてください」


「でもっ、私の魔法なんて、全然効かなかったです!」


恐怖に震え、涙でぐしゃぐしゃになった顔で、少女は答えた。


エリアスは少女の手を包み、指先を重ねる。


「私が補佐します——、君は君の想いを信じて」


「……はいっ」


少女は頷いた。

胸の奥に、昨日の言葉がよみがえる。


『この世界では、想いや言葉の力が結果を決める』


少女は目を閉じ、炎が自分を守ってくれることを、強く願った。


「……フィア・ベグ!」


少女の手の上に小さな炎が生まれる。


「……ガル・ナ・エス!」


エリアスが杖を振るうと、大きな旋風が生じて、少女の生み出した炎を飲み込んだ。


「いけっ!」


風によって増幅された炎が竜巻のようにスライムを包み込む。

するとスライムは、自らの鉱物油に焼き尽くされて、

やがて身を捩るようにしながら消し炭になっていった。


そして最後には、石畳の焼け焦げと、吹き抜ける風だけが残った。


「……やった、倒せた〜!」


少女はその場に膝をつき、息を整えた。

恐怖に押しつぶされそうになったが、それでも、彼女は最後まで逃げなかった。


エリアスはそっと少女に手を差し伸べる。


「よくやりましたね」


少女は立ち上がり、ローブについた土埃を払った。


「いえ、これはあなたが強かったから……」


エリアスは優しく笑った。


「でも、最初に火を灯したのは、君です」


「私……?」


少女は掌を見つめる。

——想いと言葉の力が、魔法になる。

確かに彼女は、その火を灯すことができた。


「君は、誰かを守りたいと強く願った」


少女は頷いた。


「その気持ちがある限り、君の火は消えないでしょう」


遠くで鐘が鳴った。

エリアスが空を仰ぐと、夕空の端には星が一つ瞬いていた。


「さて、私は城に戻らないといけない」


「あの……今日もありがとうございました!」


少女が顔を上げると、青年と目が合った。


「私はエリアス——《白銀の角笛団》というギルドを率いています。

 もし居場所を探しているなら、私のところに来ますか?」


少女の目がまんまるになる。


「えっ!? わ、私が!? でも、そんな……まだ何もできないし!」


エリアスは目の前で振られる少女の掌を見た。

戦いで泥に塗れ、転んだ拍子にできたのか、擦り傷までついていた。


——それでも、彼女は踏みとどまって戦った。


世界がどんな姿になっても、誰かがその火を絶やさずにいる限り、

希望は生まれ続けるのではないか。

ふと、そんな考えが彼の胸をよぎった。


「君なら何かを変えてくれる気がする。一生懸命な君の姿を見て、そう思ったんです」


目の前の少女の瞳は、燃えるような夕日の色をしていた。


「無力な自分を認められる人間こそ、強くなれる。

 ——君に、魔法の使い方を教えましょう」


少女の胸に、熱い想いが灯った。


「……はいっ! お願いします! ……って、本当に私でいいんですか?」


「もちろん」


エリアスは柔らかく笑った。

少女もようやく、打ち解けた笑顔を見せた。


「——君の名前を、まだ聞いていませんでしたね」


「え?」


「ギルドの者に伝えておきましょう、君が行ったら受け入れてくれるように」


少しためらったけれど、胸の奥で灯る小さな炎が、彼女の背中をそっと押した。


「……まきぽん、です」


エリアスは微笑み、静かに頷いた。


「まきぽん、か。

 いい名前です。この世界に、またひとつ冒険者の火が灯った」


涼しい夕風が、ふたりの間を抜けていく。

エリアスはローブの裾を翻した。


「では、私は仕事に戻ります。

 ギルドにはいつでもおいで——まきぽん」


「はい! ありがとうございました!」


歩き出した青年を、手を振って見送る。

見ると街の人々は皆、胸に手を当てながら敬意を込めて彼に微笑んでいた。


(あれ? ひょっとしてあの人……偉い人だったりする?)


まきぽんは首をかしげながら、半ば好奇心で、

チャットログに残ったエリアスのステータスウィンドウを開いてみた。


「……はいぃっ!?」


──────────────────────

NAME : Elias

JOB : Druid

CLASS : 《原初階位》《記録守護継承者》

LV : 99

HP : 9999

MP : 9999

ATK : 999

DEF : 999

AGI : 999

INT : 999

SKILL : 【星詠み】【神聖召喚】【自然律操作】

──────────────────────


画面にはあり得ない数値と、見た事もない称号が並んでいた。


「……え、えぇぇっ!? アイテム全所持!? 装備理論値!? 全項目カンスト!?

 てか……げ、げんしょ……かいい? ってなにそれ!?」


あんぐりと口を開けて固まった少女に、

通りすがりの吟遊詩人が笑みを浮かべ、語りかけてきた。


「エリアス様かい? あのお方は国でも一番のドルイドさ。

 王宮では、女王様の補佐官をされている」


「わわわわわ……私、そんなすごい人に魔法を教えてもらってたの!?」


まきぽんはその場でへたり込み、自分はとんでもない師匠の元に弟子入りしたのだと悟った。

夕風が吹き、夜の星がひとつ瞬く。


少女はそっと目を閉じ、心の中に温かな炎が灯ったのを感じて、微笑んだ。


「……私、ティルナノ(ここ)でやっていけそう」


 * * *


風が吹く。

縁の泉の水面がさざ波を立て、夜空には星々が瞬き始めた。


その光景はまるで、彼女の物語の始まりを祝福しているようだった。

読んでくださってありがとうございます!

今回の番外編は、ティルナノの魔法体系を知っていただくための、チュートリアル的なエピソードにもなってます。


『フィア・ベグ』『原初階位』など、特殊な用語は『いもモー裏話』に【裏話】まきぽんと学ぶ!?『今はまだ小さき炎』用語解説として同時にアップしましたので、そちらもぜひお楽しみください。


ちなみに『ラーナ・スライム』は、ケルト語で油を意味する「ラーナ(Lána)」から名付けました。

まきぽんが初めてこの魔物を倒した瞬間、それは単なる戦いではなく、『守りたい』という気持ちが『力』になる瞬間でした。


そしてこの出会いが、後にギルド『白銀の角笛団』へと繋がっていく——

そんなはじまりの物語を描きました。


あなたの心にも、何かを灯すことができますように……。


おまけ:この物語を書いてて、大好きなThe Banglesの『Eternal Flame』のイメージと重なりました。わかってくれる方がいたら、とっても嬉しいです♡


さて、次回の更新はメンバーの出会い編、ノエルとリゼのお話になります。

どうぞ楽しみにお待ちください♪

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― 新着の感想 ―
 始めに長くてすみません。読んでいる間、ちょっと困惑しました。  台詞や描写が一部感覚に合わないと言うか。時系列的に、完全なエリアス視点なら問題ないのですが、まきぽんの心理描写も入っているので余計に感…
   (*´ω`*)  _ノ ヽ ノ \_ `/ `/ ⌒Y⌒ Y ヽみんなを守りたい (  (三ヽ人  /  |そんな想いが | ノ⌒\  ̄ ̄ヽ  ノ筋肉を強靭にする ヽ___>、___/  まず…
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